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第三章【一日一度はメンタンピン編】
六打目◉糠漬け
しおりを挟むカナブン騒動の数十分後にマネージャーのマサルが出勤してきた。
カランコロン
「おはようございます」
「マネージャーおはようございます!」
ここは職場だ。どんなに仲良しでもこういった挨拶だけは形式的にシャキッと決める。心はこもってないかもしれないが、それでもこのキチッとした感じがアキラは好きだったしコテツもダラダラした感じよりはこういう職場の方が好きではあった。ただ、メタはどうだろう?そう気にして見ていたが……
「マネージャーおはよう御座います! 新しく入店しました髙橋です。よろしくお願いします!」
「はい、マネージャーの萬屋です。よろしくお願いします」
指示する前からきちんと挨拶しに行っていた。どうやら心配はいらなそうだ。とアキラとコテツは安心した。
「今日はどこまで教えたの?」とアキラがマネージャーに聞かれる。
「途中で卓が立ったので作業はまだ教えきってないのですが。卓番号や飲み物の出し方とか朝の掃除内容は伝えてあります」
「そう、ありがとう。明日もまた朝から来てもらいましょう。仕事内容を忘れないうちに繰り返した方がいい。今日はご飯を買ってきたからとりあえずご飯休憩にして、そのあとは従業員マニュアルを読んで貰えばいいから」
すると、パン! とマサルが手を叩いて注目させた。
「みんな作業中止。ご飯買ってきたから温かいうちに食べよう!」
そう言ってマサルは惣菜を並べた。
「米は炊飯器で炊いてあるので各々好きなだけ盛ればいい。冷蔵庫にあるやつも勝手に食べていいから」
「はーい」
冷蔵庫を開けると大きなタッパーに味噌のようなものがパンパンになって入ってるのが目に入った。
「これ何ですか?」
「ああ、それ糠床。コテツが個人的に糠漬けやってて酒類が出た時にツマミで出したりしてる」
「食う?」
「へえ、じゃあ少し食べようかな」
「もう切れてるのあるよ」とコテツが切って皿に盛ってあるのを出してきた。きゅうりとナスの漬物だ。ナスは変色していないところを見るときちんとミョウバンを使用しているようだ。漬物の見た目にまで気を遣っている。
「いただきます」
うまい。白米に合う。
気付いたらメタは糠漬けだけで白米を食べ終わりそうだった。
「おい、肉冷めるぞ」
「だって、漬物おいしくて」
「ありがとよ。まだあるから好きなだけ食えよ」
しかし、さっき見せてくれた庭の写真と言い糠漬け作りといい、コテツは本当に手のかかることが好きなんだなとメタはあらためて思った。
メタは糠漬けをおかわりしてごはんも2杯食べた。前職のサラリーマン時代には適当なコンビニ弁当を急いで食べるような生活をしていたから手作りの糠漬けで白米を食べておかわりするお昼なんて久しぶりだった。
ちなみに、漬物のきゅうりや茄子はマサルがビルのベランダで家庭菜園をして作った自家製だ。マサルとコテツには植物を育てるという共通の趣味があったのだ。
「ごちそうさまでした!」
食べ終わった食器を下げて洗い物をしながらメタは思った。
(なんだか、いい職場に来たかもしれない。昼飯がゆっくり食えるのは最高だし。何よりおかわり自由だ)
しかし、それは勘違いだった。
メタはその後思い知る。遅番の休憩の不確実さを。そう、メタはその後遅番に配置されるのである。遅番のエースとして。
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