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第三章【一日一度はメンタンピン編】
二十一打目◉超次元麻雀
しおりを挟むアヤノはキッチンからホールを眺めていた。そこからは最近よく来るようになった髙橋幸太郎の手牌がよく見えた。髙橋は今ラス半コールをしている。その最終戦のクライマックス。
髙橋手牌 切り番
一二三④⑤⑥⑦⑧⑨12233
南3局親番中でドラ2だった。18000持ち3着目の6巡目だが、どうするのか判断が分かれそうな場面である。
(シンプルにシャボでリーチ? 私なら多分そうしてる。でも、違うのかな。彼は。
打3で好形を探しながら仮テンの満貫? それもありそう。いや、彼なら⑨なのかな。ソーズが残れば一盃口でソーズが埋まればノベタンかフリテン三面張。それっぽい! 高打点の彼ならそれだきっと)
そう思いながらアヤノは見ていた。
しかし髙橋はアヤノの考えたその予想の最高打点すら超えてきた。
打④!
それはアヤノの考えに無い選択だった。⑨なら三面張フリテンで理解は出来るが④にはそちらにするメリットがわからない。
そう思っていたが次のツモは1!
(ドラ表示牌を引いてきた! 一盃口で⑥-⑨待ちリーチはアガれそう!)
そう、アヤノは思ったが髙橋の選択は打⑤のダマ。
(ダマ?!)
次巡。ツモ一。
「リーチ!」
そう言い髙橋は⑥を曲げる。
(まさか、そんなことが…)アヤノは呆然としながら局を見守る。それなりに麻雀を理解しているアヤノだからこそ今目の前に起きている奇跡から目が離せなかった。
「ツモ!」
そう言って一発で手元に置かれた牌はまたしても一だった。
髙橋手牌
一一二三⑦⑧⑨112233 一ツモ
裏ドラをめくる。
そこにあった牌は九。つまり——
「リーチ一発ツモ純チャンピンフ一盃口オモオモ裏3。16000オールの4枚」
「………っあ。2卓ラストです! 優勝髙橋さん。2.4.3で終了です!」(雀荘は1ゲームのトップを取ることを『優勝』と言う店が多い。大げさな表現である)
あまりの感動にアヤノは反応が遅れてしまった。
(こんな、こんな麻雀は見たことがない!
私が打っていたらアガれてもない。そんな手を数え役満?! 格好良過ぎる)
髙橋は精算を済ませると待っていたお客さんと交代した。
「じゃあ今日もいつも通りハムチーズトースト食べてから帰ろうかな」
そう言って髙橋がアヤノに注文をする。
「ハムチーズトーストですね。ありがとうございます」
(彼はすごい麻雀打ちだ。今日は勉強になったなぁ)
アヤノはさっきの局のことを思い出しては凄かったなあ、と思って感動していた。子供の頃から家族麻雀をしていたアヤノにとって近ごろ麻雀はそれほど刺激的なゲームではなくなっていた。そこに現れた髙橋。アヤノの常識の枠外だった選択をしての役満。それはもう、次元を超えた麻雀だった。
チン!
トーストが出来た。
「お待たせ致しました。300円です」
髙橋は300円カードをスッと差し出す。
「あの、さっきの局…」とアヤノは思わず話しかけた。
すると、パァッと顔が明るくなった髙橋は聞かれる前から話し始めた。それはそうだ、なんせハンドルネームをメンタンピンなんてしてる奴なんだ。麻雀のこと話しかけられたら嬉しいに決まってた。ましてそれがアヤノからなら。
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