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その6『三人の契約』編
第伍話 ご破算
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52.
第伍話 ご破算
その日の夕方、俺はリビングのソファにチョンと腰を下ろし、目の前で宿題を広げる美咲に例の話を切り出した。
朝から頭をぐるぐるさせていた、とんでもない結論についてだ。
あやのさんとマキ『二人とも俺と付き合う』で決着がついた──そんな話を、半ば自分でも信じられない気持ちで打ち明けた。
美咲は一瞬、シャープペンを握る手を止めて、目を丸くした。
「ハハハハハハ!! 何それ、本気で言ってんの? お兄ちゃんはそれでいいんだ?」
美咲の笑い声が部屋に響き、俺は思わず苦笑いした。
彼女の反応は軽快で、それを見て俺はホッとしていた。美咲に引かれたら俺はちょっと悲しいから。
「まあ、俺は構わない。ありがたいくらいさ。でも、あやのさんやマキはこれでいいのかな?」
俺の言葉に、美咲は一旦ノートを閉じ、ソファの背もたれに寄りかかった。
彼女の目は興味津々で、まるでドラマの展開を聞くようなワクワク感が漂っていた。
「いーんじゃないの。日本で一夫多妻制は法律で認められてないけど、非婚の場合は違法じゃないし。みんなが幸せになるにはそれしかないじゃん」
「まあなぁ」
美咲のあっけらかんとした口調に、俺の肩の力も少し抜けた。
彼女の言う通り、法律的には問題ないのかもしれない。それでも、こんな型破りな関係が本当にうまくいくのか、頭のどこかで疑問が渦巻いていた。
「ただ、マキさんは年齢的に子作りはしないつもりだと思うけど、あやのさんとの間に子が産まれた場合は未婚だと親権は母親に帰属するよ。ま、そしたらお兄ちゃんは認知だけして三人で面倒見ていけばいいんじゃないかな。その頃にはいのりちゃんも十分お手伝いできる年齢になるだろうし、私もいるし、なんとかなるとは思う」
美咲の説明は、まるで教科書を読み上げるように淀みなかった。俺は少し驚いて彼女を見やった。
「詳しいな。『帰属する』とか難しい言葉使って」
「高校の授業で正にいま勉強してるとこだから。選択科目で何となく『法律』選んだのよね。いつか役立つかなって」
美咲は得意げに鼻を鳴らし、髪を軽くかき上げた。
「あっという間に役立ったわけだ」
「お役に立てたのであれば幸い」
美咲はわざと大げさに頭を下げ、ふざけた口調で答えた。
「経済的な問題は無いから不可能な話ではないんだけど。あまりに常識外だったから俺はちょっと驚いててさ。でも、あの二人は20年近い付き合いのある親友だから、この結論が一番なのかもしれない」
俺はそう言って、窓の外に目をやった。真夏の夕暮れのオレンジ色の光がカーテン越しに差し込み、部屋を柔らかく照らしていた。あやのさんとマキの笑顔が頭に浮かぶ。彼女たちの間で交わされた長い友情と、今回の決断に至るまでの話し合いを想像すると、俺の役割が少しずつ明確になってくる気がした。
すると、美咲がハッ! と何かに気付いたようだ。彼女の顔には、どこか残念そうな表情が浮かんでいた。一体なんだ?
「これさあ。非婚で付き合い続けるってパターンだから、そうなるとこの家にあやのさんは多分来ないんじゃん。美味しいごはんを作ってもらう私の計画がご破算ってことじゃない」
美咲の声には本気でがっかりした響きがあった。俺は笑いながら肩をすくめた。
「そうなるだろうな。いいじゃないか、食いに行けば」
「ええ~。遠い~」
美咲は大げさに不満を口にし、ソファに寝転がって天井を見上げた。その姿に、俺はつい噴き出してしまった。
「ま、先のことはわからないよ。俺が料理の腕を上げるかもしれないしな」
俺の言葉に、美咲は一瞬だけ顔を上げ、疑わしげな視線を向けてきた。
「それに期待するワ」
第伍話 ご破算
その日の夕方、俺はリビングのソファにチョンと腰を下ろし、目の前で宿題を広げる美咲に例の話を切り出した。
朝から頭をぐるぐるさせていた、とんでもない結論についてだ。
あやのさんとマキ『二人とも俺と付き合う』で決着がついた──そんな話を、半ば自分でも信じられない気持ちで打ち明けた。
美咲は一瞬、シャープペンを握る手を止めて、目を丸くした。
「ハハハハハハ!! 何それ、本気で言ってんの? お兄ちゃんはそれでいいんだ?」
美咲の笑い声が部屋に響き、俺は思わず苦笑いした。
彼女の反応は軽快で、それを見て俺はホッとしていた。美咲に引かれたら俺はちょっと悲しいから。
「まあ、俺は構わない。ありがたいくらいさ。でも、あやのさんやマキはこれでいいのかな?」
俺の言葉に、美咲は一旦ノートを閉じ、ソファの背もたれに寄りかかった。
彼女の目は興味津々で、まるでドラマの展開を聞くようなワクワク感が漂っていた。
「いーんじゃないの。日本で一夫多妻制は法律で認められてないけど、非婚の場合は違法じゃないし。みんなが幸せになるにはそれしかないじゃん」
「まあなぁ」
美咲のあっけらかんとした口調に、俺の肩の力も少し抜けた。
彼女の言う通り、法律的には問題ないのかもしれない。それでも、こんな型破りな関係が本当にうまくいくのか、頭のどこかで疑問が渦巻いていた。
「ただ、マキさんは年齢的に子作りはしないつもりだと思うけど、あやのさんとの間に子が産まれた場合は未婚だと親権は母親に帰属するよ。ま、そしたらお兄ちゃんは認知だけして三人で面倒見ていけばいいんじゃないかな。その頃にはいのりちゃんも十分お手伝いできる年齢になるだろうし、私もいるし、なんとかなるとは思う」
美咲の説明は、まるで教科書を読み上げるように淀みなかった。俺は少し驚いて彼女を見やった。
「詳しいな。『帰属する』とか難しい言葉使って」
「高校の授業で正にいま勉強してるとこだから。選択科目で何となく『法律』選んだのよね。いつか役立つかなって」
美咲は得意げに鼻を鳴らし、髪を軽くかき上げた。
「あっという間に役立ったわけだ」
「お役に立てたのであれば幸い」
美咲はわざと大げさに頭を下げ、ふざけた口調で答えた。
「経済的な問題は無いから不可能な話ではないんだけど。あまりに常識外だったから俺はちょっと驚いててさ。でも、あの二人は20年近い付き合いのある親友だから、この結論が一番なのかもしれない」
俺はそう言って、窓の外に目をやった。真夏の夕暮れのオレンジ色の光がカーテン越しに差し込み、部屋を柔らかく照らしていた。あやのさんとマキの笑顔が頭に浮かぶ。彼女たちの間で交わされた長い友情と、今回の決断に至るまでの話し合いを想像すると、俺の役割が少しずつ明確になってくる気がした。
すると、美咲がハッ! と何かに気付いたようだ。彼女の顔には、どこか残念そうな表情が浮かんでいた。一体なんだ?
「これさあ。非婚で付き合い続けるってパターンだから、そうなるとこの家にあやのさんは多分来ないんじゃん。美味しいごはんを作ってもらう私の計画がご破算ってことじゃない」
美咲の声には本気でがっかりした響きがあった。俺は笑いながら肩をすくめた。
「そうなるだろうな。いいじゃないか、食いに行けば」
「ええ~。遠い~」
美咲は大げさに不満を口にし、ソファに寝転がって天井を見上げた。その姿に、俺はつい噴き出してしまった。
「ま、先のことはわからないよ。俺が料理の腕を上げるかもしれないしな」
俺の言葉に、美咲は一瞬だけ顔を上げ、疑わしげな視線を向けてきた。
「それに期待するワ」
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