2 / 24
壱.【工藤家の怪異①】オンライン除霊の章
高校の同級生は拝み屋でした。
しおりを挟む
『工藤……これは、なおほさんとお読みしていいんですか?』
「なほ、だよ。工藤直歩」
『真っ直ぐ歩く。すてきなお名前ですね。僕は、塔桃吾といいます』
事件が起こった二日後。
あたしはネットにつないだテレビの前で、ある人とビデオ通話していた。
画面が切り替わり、『塔桃吾』と明朝体の文字が表示される。
気配りのできる男子だな。音で聞いただけじゃパッと浮かばないもんね、こんな珍しい苗字。
でも、これくらい特徴的な苗字の方が『拝み屋』っぽいのかも。
そう。拝み屋。
このビデオ通話の相手、キリッとした切れ長の瞳に黒縁眼鏡をかけて、いかにも真面目一徹そうな男子は、あたしの高校のクラスメイトであり、幽霊だの祟りだの呪いだのをどうにかする拝み屋――なんだそうだ。
『工藤さんと、直接話したことはないですよね?』
「ないね。入学式の日は、教室に集まって自己紹介した後、すぐに下校したし。そこからずっとうちらオンライン授業じゃん」
――今年の一月くらいから、世界中にとある感染症が広まった。
最初にそのニュースを知った時は、たいしたことないとスルーしたけど、瞬く間に広がり、未曾有の状況に陥った。
生活は一変した。マスクがないと外出できなくなった。
あたしの中学校の卒業式は中止。高校の入学式も省略され、日本中のあらゆる学校が休校になって、入学式の日からあたしたちは登校していない。
だからこの、同じ一年七組の男子生徒、アララギくんと話したことはないし、マスクをつけてない顔を見たのも初めてだ。
「今回のこと、友達のミヤに相談したら、アララギくんがそういうのに詳しいって聞いたんだ」
『桃吾でかまいませんよ。言いづらいでしょう、アララギって』
おっと。まじめでカタそうな外見のわりに意外とフレンドリーだな。
よーく見たら育ちがよさそうっていうか、整った顔立ちしてるし、もし目の前でこんなん言われたらドキッとするかも……しかし、画面越しじゃキュンなんか生まれない。
「じゃ、あたしも直歩でいいよ。桃吾くん、おとというちの弟が〈よみっち〉の心霊スポット突撃動画のライブ配信を見たの」
その動画のアーカイブは残らなかったけど、〈よみっち〉ファンの有志が冒頭だけ録画したものをSNSに流した。
画面を共有して再生する。
『どうもー三度の飯より御百度参り! 現場系心霊配信者、〈よみっち〉でーす!
今日はココ! 最近新しくできた心霊スポット、某市某区の駅前にある、「比良辻六丁目の歩道橋」に来ていまーす!』
両手ピースの中年男性が現れる。
確か〈よみっち〉は年齢はお父さんより少し下、三十代後半だったっけ。
細身の体に革ジャンを着て、色の薄いサングラスをかけて胡散くささの権化って感じだ。
おどろおどろしく、でもハイテンションな口調と派手な字幕と効果音で、〈よみっち〉は歩道橋にまつわる怪談を語り出した。
『去年の十月末、そう、ハロウィンシーズン! 最近は若い子みぃんな盛り上がるよねぇ。
この辺りは一見すると地味~な町なんだけど、夏祭りとかハロウィンとかクリスマスのイベントシーズンには映えスポットとしてそこそこ有名になるんだ。
で、去年のハロウィンもイベントを催したら、……なんと! 渋谷ばりに人が集まっちゃったんだ。
当時はホラ、人数制限なんかなかったしさー』
当時の場面写真に切り替わる。
『まさに芋洗い』というでっかいテロップがついた写真は、満員電車並みの密度だった。
今なら「密です!」って怒られそう。
『人が増えたら事件事故も増える。酔っ払った人たちがハッスルして、殴り合いのケンカが始まったワケ。
見る見るうちにエスカレートして、頭のやべーやつが歩道橋から相手を投げ落としたんだよ。
あっ、その相手は死んでないよ?
でも周りの人たちが「人殺しだー!」って大混乱に陥って、階段から転落したり踏まれまくったりして何人か死んじゃったんだ。可哀想だよねー』
チーン、という効果音とフリー素材の仏壇とりんのイラストが出現する
軽っっっる。
仮にも人が亡くなった話なのに軽薄すぎる。
こういうの大っ嫌い。桃吾くんも不愉快そうに微かに眉根を寄せた。
『小さな女の子が、何人もの人間に踏み潰されて死んだんだって。
その両親である中年の夫婦も、打ちどころが悪くて亡くなった。
地元に住むシングルファーザーのお父さんとかも、我が子を残して逝くのはさぞ無念だったろうねー。
そりゃ化けて出たくもなるわ。ってことで、さっそく歩道橋に行きたいと思いまーす!』
歩道橋に上がった〈よみっち〉はしばらくの間は普通にトークしていたけど、すぐに様子がおかしくなった。
――この後は、歩望と見た動画のとおりだ。
動画を消して、改めて尋ねる。
「これを観た日以来、変なことが起こり続けてる。一昨日も昨日も夜に『ぱぱぱ』って声が電話と外から聞こえて、窓には人間みたいなのがへばりついていた。これは、心霊現象ですか」
『心霊現象ですね』
あっさりキッパリ言い切る。あまりの寸断のなさに逆に驚く。
『……少しだけ、お見せします』
桃吾くんが画面を切り替える。
エレベーターの防犯カメラのような映像が流れる。ひどく薄暗い。
画面の右端に布団を丸めたような、布を重ねた山があった。
もぞ、と布の山が動くと、――顔が現れた。
「っ!」
ソファからお尻が落ちそうになった。布の山から出てきた顔が〈よみっち〉だったからだ。
白目を剥き、空洞のような口をぽっかり開き、何か発している。
音は聞こえないけれど、ぱぱぱぱぱ……と言っていると直感した。
画面が桃吾くんに戻る。白い背景がやけにまぶしい。
『うちにいるんです。その工藤さんに起こった心霊現象のキッカケである、〈よみっち〉さんが』
「なほ、だよ。工藤直歩」
『真っ直ぐ歩く。すてきなお名前ですね。僕は、塔桃吾といいます』
事件が起こった二日後。
あたしはネットにつないだテレビの前で、ある人とビデオ通話していた。
画面が切り替わり、『塔桃吾』と明朝体の文字が表示される。
気配りのできる男子だな。音で聞いただけじゃパッと浮かばないもんね、こんな珍しい苗字。
でも、これくらい特徴的な苗字の方が『拝み屋』っぽいのかも。
そう。拝み屋。
このビデオ通話の相手、キリッとした切れ長の瞳に黒縁眼鏡をかけて、いかにも真面目一徹そうな男子は、あたしの高校のクラスメイトであり、幽霊だの祟りだの呪いだのをどうにかする拝み屋――なんだそうだ。
『工藤さんと、直接話したことはないですよね?』
「ないね。入学式の日は、教室に集まって自己紹介した後、すぐに下校したし。そこからずっとうちらオンライン授業じゃん」
――今年の一月くらいから、世界中にとある感染症が広まった。
最初にそのニュースを知った時は、たいしたことないとスルーしたけど、瞬く間に広がり、未曾有の状況に陥った。
生活は一変した。マスクがないと外出できなくなった。
あたしの中学校の卒業式は中止。高校の入学式も省略され、日本中のあらゆる学校が休校になって、入学式の日からあたしたちは登校していない。
だからこの、同じ一年七組の男子生徒、アララギくんと話したことはないし、マスクをつけてない顔を見たのも初めてだ。
「今回のこと、友達のミヤに相談したら、アララギくんがそういうのに詳しいって聞いたんだ」
『桃吾でかまいませんよ。言いづらいでしょう、アララギって』
おっと。まじめでカタそうな外見のわりに意外とフレンドリーだな。
よーく見たら育ちがよさそうっていうか、整った顔立ちしてるし、もし目の前でこんなん言われたらドキッとするかも……しかし、画面越しじゃキュンなんか生まれない。
「じゃ、あたしも直歩でいいよ。桃吾くん、おとというちの弟が〈よみっち〉の心霊スポット突撃動画のライブ配信を見たの」
その動画のアーカイブは残らなかったけど、〈よみっち〉ファンの有志が冒頭だけ録画したものをSNSに流した。
画面を共有して再生する。
『どうもー三度の飯より御百度参り! 現場系心霊配信者、〈よみっち〉でーす!
今日はココ! 最近新しくできた心霊スポット、某市某区の駅前にある、「比良辻六丁目の歩道橋」に来ていまーす!』
両手ピースの中年男性が現れる。
確か〈よみっち〉は年齢はお父さんより少し下、三十代後半だったっけ。
細身の体に革ジャンを着て、色の薄いサングラスをかけて胡散くささの権化って感じだ。
おどろおどろしく、でもハイテンションな口調と派手な字幕と効果音で、〈よみっち〉は歩道橋にまつわる怪談を語り出した。
『去年の十月末、そう、ハロウィンシーズン! 最近は若い子みぃんな盛り上がるよねぇ。
この辺りは一見すると地味~な町なんだけど、夏祭りとかハロウィンとかクリスマスのイベントシーズンには映えスポットとしてそこそこ有名になるんだ。
で、去年のハロウィンもイベントを催したら、……なんと! 渋谷ばりに人が集まっちゃったんだ。
当時はホラ、人数制限なんかなかったしさー』
当時の場面写真に切り替わる。
『まさに芋洗い』というでっかいテロップがついた写真は、満員電車並みの密度だった。
今なら「密です!」って怒られそう。
『人が増えたら事件事故も増える。酔っ払った人たちがハッスルして、殴り合いのケンカが始まったワケ。
見る見るうちにエスカレートして、頭のやべーやつが歩道橋から相手を投げ落としたんだよ。
あっ、その相手は死んでないよ?
でも周りの人たちが「人殺しだー!」って大混乱に陥って、階段から転落したり踏まれまくったりして何人か死んじゃったんだ。可哀想だよねー』
チーン、という効果音とフリー素材の仏壇とりんのイラストが出現する
軽っっっる。
仮にも人が亡くなった話なのに軽薄すぎる。
こういうの大っ嫌い。桃吾くんも不愉快そうに微かに眉根を寄せた。
『小さな女の子が、何人もの人間に踏み潰されて死んだんだって。
その両親である中年の夫婦も、打ちどころが悪くて亡くなった。
地元に住むシングルファーザーのお父さんとかも、我が子を残して逝くのはさぞ無念だったろうねー。
そりゃ化けて出たくもなるわ。ってことで、さっそく歩道橋に行きたいと思いまーす!』
歩道橋に上がった〈よみっち〉はしばらくの間は普通にトークしていたけど、すぐに様子がおかしくなった。
――この後は、歩望と見た動画のとおりだ。
動画を消して、改めて尋ねる。
「これを観た日以来、変なことが起こり続けてる。一昨日も昨日も夜に『ぱぱぱ』って声が電話と外から聞こえて、窓には人間みたいなのがへばりついていた。これは、心霊現象ですか」
『心霊現象ですね』
あっさりキッパリ言い切る。あまりの寸断のなさに逆に驚く。
『……少しだけ、お見せします』
桃吾くんが画面を切り替える。
エレベーターの防犯カメラのような映像が流れる。ひどく薄暗い。
画面の右端に布団を丸めたような、布を重ねた山があった。
もぞ、と布の山が動くと、――顔が現れた。
「っ!」
ソファからお尻が落ちそうになった。布の山から出てきた顔が〈よみっち〉だったからだ。
白目を剥き、空洞のような口をぽっかり開き、何か発している。
音は聞こえないけれど、ぱぱぱぱぱ……と言っていると直感した。
画面が桃吾くんに戻る。白い背景がやけにまぶしい。
『うちにいるんです。その工藤さんに起こった心霊現象のキッカケである、〈よみっち〉さんが』
4
あなたにおすすめの小説
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
【完結】ホラー短編集「隣の怪異」
シマセイ
ホラー
それは、あなたの『隣』にも潜んでいるのかもしれない。
日常風景が歪む瞬間、すぐそばに現れる異様な気配。
襖の隙間、スマートフォンの画面、アパートの天井裏、曰く付きの達磨…。
身近な場所を舞台にした怪異譚が、これから続々と語られていきます。
じわりと心を侵食する恐怖の記録、短編集『隣の怪異』。
今宵もまた、新たな怪異の扉が開かれる──。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/19:『みずのおと』の章を追加。2026/1/26の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/18:『あまなつ』の章を追加。2026/1/25の朝8時頃より公開開始予定。
2026/1/17:『えれべーたー』の章を追加。2026/1/24の朝8時頃より公開開始予定。
2026/1/16:『せきゆすとーぶ』の章を追加。2026/1/23の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/15:『しばふ』の章を追加。2026/1/22の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/14:『でんしれんじ』の章を追加。2026/1/21の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/13:『こえ』の章を追加。2026/1/20の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
(ほぼ)1分で読める怖い話
涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話!
【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】
1分で読めないのもあるけどね
主人公はそれぞれ別という設定です
フィクションの話やノンフィクションの話も…。
サクサク読めて楽しい!(矛盾してる)
⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません
⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください
【完結】百怪
アンミン
ホラー
【PV数100万突破】
第9回ネット小説大賞、一次選考通過、
第11回ネット小説大賞、一次選考通過、
マンガBANG×エイベックス・ピクチャーズ
第一回WEB小説大賞一次選考通過作品です。
百物語系のお話。
怖くない話の短編がメインです。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
1話5分でゾッと出来る話。短編ホラー集。短編怖い話は、そこにある
みにぶた🐽
ホラー
9時から24まで1時間に1話更新中。7/26 14時に100話で終了か判断中です!
1話完結型短編ホラー集。非日常、ホラーチックなちょい怖、世にも奇妙な体験をどうぞ
下記の怖さメーターをタイトルで確認して希望の話だけでもどうぞ
怖さメーター
★★★★★(極恐怖)
★★★★☆(高恐怖)
•絶望的結末、逃れられない運命
★★★☆☆(中恐怖)
•超常現象の不安だが最終的に解決
★★☆☆☆(軽恐怖)
•温かい結末への転換が明確
★☆☆☆☆(微恐怖)
•ほぼ感動系への完全転換
―それは、「日常」が崩れる瞬間。
ドアのすき間、スマホの通知、すれ違った人の顔。
あなたのすぐ隣にある“気づいてはいけない恐怖”を、あなたは何話まで読めるか?
これは、100の物語に潜む、100通りの終わらない悪夢。
──あなたの知らない日常が、ここにある。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる