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第2部/鎖女の話をした少女の話
世界はこんなにも尊い
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あとには、チリひとつ残らなかった。
土埃で薄汚れた床。塗装がひび割れた壁。雨の痕だらけの窓ガラス。
なんの変哲もない、学校の廊下の光景。
……元に、戻れたんだ。
あたしたちが生きる現実に。日常に。
柏木先輩が振り返る。
「ひとまず、これでひと段落ついたな。二人とも大事ないか?」
「はい、あの……先輩、祐奈も……」
あたしは二人に向かって頭を下げた。
「本当に、すみませんでした」
祐奈も先輩もしばらく無言だった。
「……もう二度と、鎖女の話はしない。今度こそ誓えるか?」
「はい……っ!」
柏木先輩の問いかけに、あたしは真剣に返事した。
先輩は息をひとつついて、「そうか」と言った後、
「なら、もういい」
そう許してくれた。
あたしは泣くのを必死で堪えた。
「ありがとうございます……!」
優しい。
祐奈も先輩も、英美香だって、あたしの周りの人たちはみんな優しい。
なんで気づかなかったんだろ。
あたしの世界は、モノクロなんかじゃなかった。
胸が痛くなるほど、あたたかくて……尊い。
自分が持っていたものの重さにやっと気づけた。
ごめんなさいとありがとうをくり返すあたしに、祐奈が抱きついて、先輩は頭を撫でてくれた。
それでもう我慢できなくなって、子どもみたいに泣いてしまった。
「ほら、これで拭け」
先輩が白いハンカチを差し出す。
遠慮なく使わせてもらうと、先輩がふいに表情を引き締めた。
「落ち着いたら、聞いてほしいことがある。鎖女の正体についてだ」
あたしと祐奈はそろって首を傾げた。
「正体……ですか?」
「ああ。立ち話もなんだし、どこか座れるところに行こう」
「あ、まだ購買開いてますよ!」
祐奈が挙手する。
「莉々子にお昼ごはん奢ってもらいましょ! メーワク料ってことで」
「えぇ!?」
「はは、そいつは良い」
祐奈のお茶目というか悪ノリに、先輩も乗っかる。
それを見て、あたしは笑って答えた。
「はい、喜んで!」
なんだか久々に、心から笑えた気がした。
柏木先輩と祐奈が歩き出す。
少し遅れてついていく……その前に、あたしは鎖女がいた場所を振り返った。
(ごめんなさい、鎖女……さん)
何度も何度も、あなたは「やめろ」「話をするな」と言っていたのに。
あたしは自分のことばっかりで、聞き入れなかった。
本当に、ごめんなさい。
もう二度と、あなたの話はしないよ――鎖女さん。
そう誓って、
あたしはふたりの恩人の後を追って、駆け出した。
……
…………
………………
「……あれっ?」
「どうした?」
「あのぅ、柏木先輩……」
「……?」
「――莉々子は?」
土埃で薄汚れた床。塗装がひび割れた壁。雨の痕だらけの窓ガラス。
なんの変哲もない、学校の廊下の光景。
……元に、戻れたんだ。
あたしたちが生きる現実に。日常に。
柏木先輩が振り返る。
「ひとまず、これでひと段落ついたな。二人とも大事ないか?」
「はい、あの……先輩、祐奈も……」
あたしは二人に向かって頭を下げた。
「本当に、すみませんでした」
祐奈も先輩もしばらく無言だった。
「……もう二度と、鎖女の話はしない。今度こそ誓えるか?」
「はい……っ!」
柏木先輩の問いかけに、あたしは真剣に返事した。
先輩は息をひとつついて、「そうか」と言った後、
「なら、もういい」
そう許してくれた。
あたしは泣くのを必死で堪えた。
「ありがとうございます……!」
優しい。
祐奈も先輩も、英美香だって、あたしの周りの人たちはみんな優しい。
なんで気づかなかったんだろ。
あたしの世界は、モノクロなんかじゃなかった。
胸が痛くなるほど、あたたかくて……尊い。
自分が持っていたものの重さにやっと気づけた。
ごめんなさいとありがとうをくり返すあたしに、祐奈が抱きついて、先輩は頭を撫でてくれた。
それでもう我慢できなくなって、子どもみたいに泣いてしまった。
「ほら、これで拭け」
先輩が白いハンカチを差し出す。
遠慮なく使わせてもらうと、先輩がふいに表情を引き締めた。
「落ち着いたら、聞いてほしいことがある。鎖女の正体についてだ」
あたしと祐奈はそろって首を傾げた。
「正体……ですか?」
「ああ。立ち話もなんだし、どこか座れるところに行こう」
「あ、まだ購買開いてますよ!」
祐奈が挙手する。
「莉々子にお昼ごはん奢ってもらいましょ! メーワク料ってことで」
「えぇ!?」
「はは、そいつは良い」
祐奈のお茶目というか悪ノリに、先輩も乗っかる。
それを見て、あたしは笑って答えた。
「はい、喜んで!」
なんだか久々に、心から笑えた気がした。
柏木先輩と祐奈が歩き出す。
少し遅れてついていく……その前に、あたしは鎖女がいた場所を振り返った。
(ごめんなさい、鎖女……さん)
何度も何度も、あなたは「やめろ」「話をするな」と言っていたのに。
あたしは自分のことばっかりで、聞き入れなかった。
本当に、ごめんなさい。
もう二度と、あなたの話はしないよ――鎖女さん。
そう誓って、
あたしはふたりの恩人の後を追って、駆け出した。
……
…………
………………
「……あれっ?」
「どうした?」
「あのぅ、柏木先輩……」
「……?」
「――莉々子は?」
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