7 / 12
Shot07
しおりを挟むトルーチュ港。
活気が溢れるこの港には毎日あらゆる国籍の船が訪れる。
正規不正規を問わず入港するそれらの大半は禁輸品、違法薬物、犯罪者や亡命者などを積んでやって来る。
しかし、この街では奴隷だけやり取りが少ない。
各国が奴隷を禁止していない事もあり、わざわざトルーチュに運ぶ必要がない為でもある。
そんな木造帆船の貨物船や護衛の戦闘艦が並ぶ港、その中でも巨大な貨客船にオレ達は居た。
パーティー用と思われる綺麗な水兵服を来た船乗りに連れられて甲板へ上がる。
そこには間隔を開けて配置された丸テーブルに所狭しと並べられた数々のご馳走。
目をキラキラさせてヨダレを垂らしている吸血鬼に『待て』をさせて、目的の人物へと近づいていく。
彼はこちらを見つけると驚いた顔をしてこちらへと歩いて来た。
「……コチニール? パーピュア・コチニール! セニョリータ!!」
「お、お久しぶりです、セニョール」
両腕を広げてハグをして来る日焼けした肌の男性。
中年太りの抱擁に戸惑いながらも挨拶を返す。
温和な表情と丸いフォルム、整えられた口ひげが特徴のこの男こそ、マルティネス商会の商会長『フェデリコ・マルティネス』その人である。
「HAHAHA、パーピュア! 噂は聞いていたが、まさか本当に会えるとは。また会えて嬉しいよ」
フェデリコは両肩に手を置いてオレの姿を眺めると、少しだけ心配そうな表情になってしまった。
「しかし、君は10年前からあまり変わらないな。本当につい先日の事の様だよ」
「私にとっては10年です、セニョール」
この10年、まさに地獄と呼べる生活だった。
辛い記憶を思い出し顔を顰めるとフェデリコは悲しそうな顔をする。
「……そうだな、すまない。さっきの言葉は忘れてくれ。ところで、どうして君がここへ?」
「表向きはマーモット商会の代理でこちらへ」
「表向き? マーモット商会の支部長殿はどうされたのかな?」
「彼女、銀狐はその……商いが上手く行っているようで。代わりに私が」
「成程、それは羨ましい限りだ。では本来の要件は何かね?」
「10年前の事について」
オレの放った一言にフェデリコの顔が一瞬凍り付く。
すぐにフェデリコは悲愴な面持ちに変わり、彼は酷く落ちた声で喋り出した。
「……あぁ。あの件は我々としても非常に残念な出来事だった。君のお父上とは本当に良い仕事をやらせてもらったよ」
「裏切り者と恩知らず共の始末をしたい」
「……成程、あの件には我が商会も多大な損害を受けた。もちろん、我々も独自に調査も進めたんだが……」
「主犯格の大半は上位の貴族達、ですか?」
「あぁ、いち商会では手出しが出来ない。それに最終的実行犯が王家、いや国家とあっては……」
「構いません。是非ともそのリストを見せて頂きたい」
「ふむ。ここでは少々人が多すぎる。その話は後ほど。……ところでそちらの彼女は?」
フェデリコはオレの後ろでヨダレを垂らして半泣きになっている吸血鬼へと視線を向けた。
「う、ウチの従業員のアウレアです」
あまりの醜態に一瞬だけ他人のフリをしそうになったが、グッと我慢して紹介する。
「よろ『ジュル』お願い『ジュル』『グウゥゥゥ』」
(コラ、腐れ吸血鬼! マナーのマの字もねぇのかテメェは!)
(こんな空間に居てガマンなんぞ出来るわけなかろうが!)
早く食わせろと体全体で表現している吸血鬼と小声で会話をして、お互い睨み合う。
「ハッハッハ! 構わないよ、パーティーと言うモノは見栄を大事にする。お客人の腹を満たすには充分な料理を用意しているとも。心ゆくまで堪能してくれたまえ」
「寛大なお言葉、感謝しますセニョール」
「君たちの噂は海を渡って届いているとも、吸血鬼のお嬢さんと魔弾。この機会に是非とも礼を言わせて貰いたい。君たちがべニートの勢いをそいでくれたおかげで我が商会もこの地に出てこれたのだ。それにパーピュア、是非とも息子たちにも顔を見せてやってくれ」
「御家族もこちらへ?」
「あぁ、近くに居るのが一番だよ。安全な場所などそうそう無いものさ。ルビオ、ローサ! 二人ともこちらへ来なさい!」
フェデリコの声に別の場所から二人の人物がこちらに歩いて来る。
20代中盤の褐色の青年と10代後半のコレまた褐色の少女だ。
すると、オレの顔を見た少女の様子が変わる。
ゆっくりとした歩は次第に早歩きに、小走りに、そして全力疾走へと変わっていた。
「姉様ーーー!!」
「ローサ? 久しぶふぁっ!!?」
飛び込んでくる少女を受け止めようと腕を広げるが、10代中盤の背格好の少女が10代後半の少女に抱き着かれたらどうなるか。
その体格差から繰り出される飛び込みタックルよ勢いを殺す事など出来ず、甲板に背中からダイブするハメになった。
「姉様! 姉様! 姉様!」
力いっぱい抱きついて頬ずりする黒髪ショートの少女。
着飾った民族衣装の装飾品がくい込んで痛くて仕方がない。
「ろ、ローサ。し、絞まってる! 絞まってる!」
「姉様! あぁ、本当に姉様ですわ、10年前から変わらない。私、心配で心配で! ……ぐぇっ!?」
「こら、ローサ。パーピュア嬢が苦しがってるだろう?」
オレをホールドしていたローサを引き剥がしたのはローサと同じ黒髪褐色の青年ルビオだ。
ルビオはローサの首根っこを掴んで猫の様にぶら下げている。
「痛ってぇですわ、兄様! 姉様分を補給しなきゃならねぇんです! 離しやがれくださいまし!?」
「ローサ、お客様の前だよ。言葉、言葉」
「はっ!? こ、コレはお見苦しい所をお見せしてしまいましたわ」
ルビオの言葉を聞いて途端に姿勢を正したローサ。
オレはそんな二人を眺めて懐かしい気持ちになった。
マルティネス商会とコチニール家はかつて友好関係にあり、場合によっては共同歩調をとる程に持ちつ持たれつの良好な関係だった。
その関係で当時は良くこの二人の遊び相手になっていたものだ。
ローサは昔はお転婆で、商会のいろんな人物と触れ合っていたせいか口が悪かった。
今では多少上品な言葉遣いが出来るようになったみたいだが、それでも大商会の娘としては落第ものの口調である。
「はは、ローサは随分と大きくなったなぁ。見違えたよ。もう、立派なレディじゃないか」
「そ、そんな。レディだなんて。煽てても何にも出りゃしねぇですわ」
「……その口調は相変わらずなんだな」
「コレでもかなり進歩した方さ。大目に見てやって欲しい」
すぐに化けの皮が剥がれるローサを見て苦笑しているとルビオがフォローを入れる。
引き締まった身体と整った顔立ちのルビオは間違いなく慕う女性も数多く居るだろうイケメンだ。
しかし、常に笑顔を浮かべるこの男の事をオレはあまり好きにはなれない、あの王子を筆頭にこの世界でイケメンにろくな記憶が無いからか。
「やあ、パーピュア。またこうして君と会う事が出来て嬉しいよ」
「ルビオ様、お久しぶりです」
「……昔みたいに兄様とは呼んでくれないのかい?」
「今の私は所詮お尋ね者ですので」
「……そうか、残念だ」
イケメンは悲しそうな顔をするが、実際に立場が違い過ぎる。
しかし、その顔はすぐに苦笑に変わった。
何事かと訝しんでいると。
「ところで君のお友達が行ってしまった様だけど?」
ルビオの言葉に辺りを見回すと、隣に居たはずのアウレアはそこには居らず。
すでにテーブルに取り付いて手当り次第に食べ漁っていた。
その食べっぷりには歓声が上がる程である。
「アイツ! ではセニョール、失礼します。例の話は後ほど」
「あ、私もご一緒いたしますわ!」
オレは簡単に挨拶をし、ローサを連れて腐れ吸血鬼の元へと急いだ。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
〈本編完結〉わたくしは悪役令嬢になれなかった
結塚 まつり
ファンタジー
「返しなさい! その体はわたくしのものよ!」
ある日ルミエラが目覚めると、転生者だという女に体を奪われていた。ルミエラは憤慨し、ありとあらゆる手を尽くして己の体を取り戻そうとする。
これは転生者に人生を奪われたひとりの少女のお話。
ねえ、今どんな気持ち?
かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた
彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。
でも、あなたは真実を知らないみたいね
ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する
ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。
皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。
ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。
なんとか成敗してみたい。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる