10 / 12
Shot10
しおりを挟む「法廷で『有罪』って言葉は禁句だぞ?」
「わ、わかった! わかったから、こ、殺さないで……!」
「……見てるからな?」
トルーチュのとある街角。
横転した馬車の横には顔を真っ青にした男と、その男の眉間に銃を突きつけるオレが居た。
股間をビショビショに濡らした男が悲鳴と共に逃げ出して行ったのを見送る。
「コレであと一人だのぅ、馬車の同乗者は放っておいて良いのか?」
「陪審員だけを言いくるめれりゃいいさ。問題は最後の一人か……」
ひっくり返った、というかひっくり返した馬車に座って足をブラブラさせるアウレアが問い掛けてくる。
これだけ見れば完全にガキだな。
そんなアウレアの言葉にオレはタバコをくわえて火を付け、紫煙を吐きながら苦い顔をしてしまった。
陪審員三人のうち話し合いでケリを付けたのが二人。
この二人は他の犯罪組織の息のかかった人間だった、だから最近は勢いの無いべニートからの懐柔や脅しには屈しなかったのだろう。
そこでオレが出て行って『お願い』すると『快く』快諾してくれた。
一応、美少女のお願いなんだから、もう少し嬉しそうにしてくれてもいいのにな?
「最後の一人は末席とは言え貴族さまだ。少し面倒だぜ」
「貴族も庶民もボコれば一緒じゃろう?」
バカっぽいと思ってはいたが、この吸血鬼もしかして脳筋なんじゃなかろうか。
「バッキャロー、アイツら身内やられるとすっげーしつこいんだぞ?」
クメルジャの腐れ貴族共なら容赦なくぶん殴れる、というかお願いされなくてもこっちから眉間に風穴開けてタバコ吸わせてやるが、他国の貴族となると話が変わる。
昔、帝国にたどり着いた時にオレを奴隷にしようとした貴族が居たんだが、つい勢いでそいつの前歯をへし折ったら二ヶ月ぐらい追っかけ回されるハメになったからな。
アイツらクソしつこいし、めんどくせぇ。
今のオレならトルーチュに居る限り追いかけ回される事は無いだろう、どこの誰でも火薬満載の倉庫に火のついた松明持って入りたくは無いからな。
だが、間違いなく懸賞金の額が上がるだろう、それもめんどくせぇ話だ。
「ホントならファンに上手いこと繋いでもらおうと思ったんだがなぁ……」
アイツはああ見えて顔が広いからな、そっちのコネもめちゃくちゃデカい。
だが、本人が密造酒でベロンベロンじゃ話にならねぇ。
つか、この酒製法の時代に密造酒作るのは珍しい話じゃねぇが、作ってる量と濃度が頭おかしいレベルだぞ。
おっと、ここで言う酒製法ってのは酒の作り方を定めた法律なんてもんじゃない。
『酒類の製造を制限する法律』で『酒製法』と言う。
昔は酒は悪しき文化だ、とか各国の貴族共がのたまったせいで禁酒法なんて物が近隣諸国にあったんだが、黄金の1920年代アメリカよろしく街のゴロツキ共が酒を売って資金を稼いでマフィアやギャングになっちまった。
何カ国か規模でそんな事になっちまったもんだから緩和されて今は酒を作るのは国営製造所のみとなっている。
ちなみに、これは日本でも似たようなもんで酒税法により免許を持ってないのに梅酒以外の酒を作るとポリスメンにとっ捕まるので注意な。
まぁ、法整備も警邏活動も、なんなら警察的組織自体が未成熟かつあやふやな異世界じゃ一般庶民はみんな隠れて作ってるし、マフィアやギャングみたいな非合法組織なんかは大きな施設で大量に作って資金源にしてるんだが。
つか、国の衛兵はもちろん一部の貴族も自家製の酒を作ったりしてるしな。
完全に有って無いような法だな。
と、まぁ酒の話は置いといて、例の貴族だ。
例の貴族は隣町、その町外れの屋敷に住む小物貴族だ、序列的にもケツから数えた方が早い。
「言ってても仕方ねぇか。ターゲットの屋敷に偵察と行こうぜ?」
「だが、陪審員の過半数はもう説得済みであろう? ならわざわざ最後の一人まで説得する必要はないのではないか?」
「評決は全員一致が基本だ。特別多数決はこの国じゃまずねぇよ」
もし陪審員のうち誰か一人でも有罪と言ってしまえば、評決不能で裁判から陪審員の選任まで全部やり直しだ。
そんな事になったら言いくるめに金を使ってるべニートはもちろん、こうやって説得して回ってるオレたちすら損をするハメになる。
「ま、目的の町に着くまでフォードでぶっ飛ばして小一時間だ。道中でいろいろと考えてみるさ」
※※※※※※
オレたちが目的の街へ着く頃には太陽は傾き、辺り一面を夕焼け色に染めていた。
陪審員二人の説得にずいぶんと時間をかけちまったらしい。
あとはここまで不整地の道のせいでもある、馬車が主流の世界で舗装された道路なんてありゃしねえからな。
「パーピュア、このままでは暗くなってしまうぞ?」
「わーってるよ。もうすぐ見えてくるハズだ」
フォードを走らせる事十数分、街の外れにそこそこ立派な屋敷が建っている。
大きさ的には貴族の屋敷としてとても小さな屋敷だ。
オレたちは車を近くの茂みに隠すと貴族の屋敷へと向かった。
「おかしいな? 人の気配がなさすぎやしないか? いくら序列ワーストの貴族でも屋敷に人っ子ひとり居ないって事は無いだろ」
「さてな、庭の手入れもされておるし。夜逃げと言う訳でも無かろう?」
そう言うとアウレアの顔が途端に険しくなった。
その視線は屋敷に注がれている。
「どうした? 便所か?」
「たわけ、気が付かんのか?」
オレの軽口をアウレアがピシャリと跳ね除ける、いつものコイツならオーバーリアクション気味に抗議してくるハズだが。
「どうやら、先客がおったらしいの。酷く血の匂いがする」
「なるほどね。豚オヤジめ、めんどくせぇ依頼して来たもんだぜ」
アウレアの態度に気持ちを切り替えたオレは腰からモーゼルを抜き、屋敷に向かって歩き出す。
どこの誰だか知らねぇが、ターゲットを殺られちまったら大損だ。
アウレアもトーラス・ジャッジを構え後に続く。
数日前に買ったトーラスだが、何故かこの吸血鬼がとても気に入ったようでしつこくねだって来るので貸し与えている、あくまで借してるだけだ、しかも銃弾もオレしか供給できないと来てる。
アウレアは以外と銃を使うセンスはあったようで、腕はそれなりに良いのだが、まだ練習不足だな。
だが、さすがは吸血鬼の肉体か、.454カスール弾を撃ち出すリボルバーを片手で扱ってもビクともしねぇし、狙いも正確だ
今度、倉庫で眠ってる象撃ち銃でも使わせてみるかな。
「この匂いの濃さ。相当殺られておるな、目的の貴族がはたして生きておるだろうか……」
「生きてて貰わなきゃこっちが困る。調子に乗って撃ちまくるんじゃねぇぞ。複製元の弾が無くなりゃ終わりなんだからな」
「わかっておるわ」
不満気なアウレアを後目に、オレは屋敷の入口の扉に手を掛けたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
悪役令嬢、休職致します
碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。
しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。
作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。
作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる