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第二章 始まりと再会
01
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「トンネルの名前、読めなかったな……」
古いトンネルは何となく薄気味悪く、怪談に使われそうな雰囲気があった。トンネルの名前の部分は苔むしているようで、運転しながらでは見ることができなかった。
トンネルの中は、ところどころ電気が切れていた。そのせいで薄暗い。ポツンポツンと明かりがついているだけの暗闇。道の方向はわかるが危険だ。
俺はとにかくゆっくり丁寧に運転をした。対向車が来る気配はなかったけれど、来たら避けられる自信がなかったからだ。
「怖いな、これ……電気はちゃんとつけてくれないと……カーブはないのか、ヒエー……というかなんか向こうから祭り囃子聞こえてくるんだが、ホラーかな、これ……」
トンネルの先から聞こえてくる祭り囃子に怯えながら、なんとか運転をし、ようやくトンネルを抜けた、と思ったその瞬間、車体が浮いた。
「は?」
文字通り、車体が浮いた。
トンネルの先の道路が消えたわけじゃない。現にそれは眼下に見える。いやそれどころか、山が下に見える。というか、そんなことよりも問題は目の前だ。
「ろ、ろくろっくび……?」
目の前を、首の伸びた女が、一つ目の巨人が、翼のはえた人が、河童が通る。それらは真っ直ぐ山の上に向かっているらしい。その勢いはすさまじく、まるで濁流だ。それに流されて、俺の車は山の上、空の中にまでのぼってしまってる。もうアクセルからも、ハンドルからも手足が離れているのに、車は勝手に動いていく。あまりにも現実味がない風景なのに、浮いている感覚だけはリアルだ。
「なんなんだよこれ……どうなってんだよぉ……!」
運転席で膝を抱えて、目の前を通りすぎていく一人よりも遥かに大きい大蛇に息をのむ。その鱗ひとつはがれていない美しい体躯は、車のライトを浴びて宝石みたいにかがやいた。
「……きれい」
「ちょっと!」
思わずもれた俺の呟きに反応するようになにかの声がした。コンコン、と窓がノックされる。は、と右を向くと、一人の女性と目が合った。彼女は化け物ではなく普通の人に見えた(浮いてるけど)。彼女が『開けて』とジェスチャーを出すので、慌てて窓を開ける。
「あ、あの、これ、これなにが起きて……」
「あんな性悪女を好きになっちゃったの?」
彼女は俺の質問に答えず、ム、と顔をしかめてそんなことをいう。
「性悪女って……?」
「あの蛇女! マキの趣味を悪くいいたくないけどー……あの隣のクソチビ女もひどかったじゃん! クロは、マキはもっと優しい女の子がいいと思うの!」
「え、あの……きみは……」
長い黒髪をツインテールにし、紫色のドレスを着たその女性は、きらきらと輝く瞳をしていた。俺は、その瞳に覚えがあった。そんなはずないのに、でも、その眼差しから感じる親愛、優しさ、友情に、俺は確かに覚えがあった。
「マキは性格悪い女ばっかり引き寄せる。もうー、心配だなー……」
「きみは、……もしかして、……黒さん?」
彼女は目を丸くしたあと、ぱっと笑った。
「わかってくれたのね! ありがとう!」
「ヒェ……」
「話したいことたくさんあるんだ! 開けて!」
「ア、ハイ」
あんまりにも可愛いその笑顔に、俺は言われたとおり助手席のドアを開けるしかできなかった。
古いトンネルは何となく薄気味悪く、怪談に使われそうな雰囲気があった。トンネルの名前の部分は苔むしているようで、運転しながらでは見ることができなかった。
トンネルの中は、ところどころ電気が切れていた。そのせいで薄暗い。ポツンポツンと明かりがついているだけの暗闇。道の方向はわかるが危険だ。
俺はとにかくゆっくり丁寧に運転をした。対向車が来る気配はなかったけれど、来たら避けられる自信がなかったからだ。
「怖いな、これ……電気はちゃんとつけてくれないと……カーブはないのか、ヒエー……というかなんか向こうから祭り囃子聞こえてくるんだが、ホラーかな、これ……」
トンネルの先から聞こえてくる祭り囃子に怯えながら、なんとか運転をし、ようやくトンネルを抜けた、と思ったその瞬間、車体が浮いた。
「は?」
文字通り、車体が浮いた。
トンネルの先の道路が消えたわけじゃない。現にそれは眼下に見える。いやそれどころか、山が下に見える。というか、そんなことよりも問題は目の前だ。
「ろ、ろくろっくび……?」
目の前を、首の伸びた女が、一つ目の巨人が、翼のはえた人が、河童が通る。それらは真っ直ぐ山の上に向かっているらしい。その勢いはすさまじく、まるで濁流だ。それに流されて、俺の車は山の上、空の中にまでのぼってしまってる。もうアクセルからも、ハンドルからも手足が離れているのに、車は勝手に動いていく。あまりにも現実味がない風景なのに、浮いている感覚だけはリアルだ。
「なんなんだよこれ……どうなってんだよぉ……!」
運転席で膝を抱えて、目の前を通りすぎていく一人よりも遥かに大きい大蛇に息をのむ。その鱗ひとつはがれていない美しい体躯は、車のライトを浴びて宝石みたいにかがやいた。
「……きれい」
「ちょっと!」
思わずもれた俺の呟きに反応するようになにかの声がした。コンコン、と窓がノックされる。は、と右を向くと、一人の女性と目が合った。彼女は化け物ではなく普通の人に見えた(浮いてるけど)。彼女が『開けて』とジェスチャーを出すので、慌てて窓を開ける。
「あ、あの、これ、これなにが起きて……」
「あんな性悪女を好きになっちゃったの?」
彼女は俺の質問に答えず、ム、と顔をしかめてそんなことをいう。
「性悪女って……?」
「あの蛇女! マキの趣味を悪くいいたくないけどー……あの隣のクソチビ女もひどかったじゃん! クロは、マキはもっと優しい女の子がいいと思うの!」
「え、あの……きみは……」
長い黒髪をツインテールにし、紫色のドレスを着たその女性は、きらきらと輝く瞳をしていた。俺は、その瞳に覚えがあった。そんなはずないのに、でも、その眼差しから感じる親愛、優しさ、友情に、俺は確かに覚えがあった。
「マキは性格悪い女ばっかり引き寄せる。もうー、心配だなー……」
「きみは、……もしかして、……黒さん?」
彼女は目を丸くしたあと、ぱっと笑った。
「わかってくれたのね! ありがとう!」
「ヒェ……」
「話したいことたくさんあるんだ! 開けて!」
「ア、ハイ」
あんまりにも可愛いその笑顔に、俺は言われたとおり助手席のドアを開けるしかできなかった。
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