終わらぬ小旅行 ――なんだかんだで妖怪やってます――

木村

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第一章 始まりの前

03

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 思い返せば、小学生の頃にクモの観察日記を書いていたときから、親は俺のことを気持ち悪がっていた。もっとまともなものを好きになれと説教されたときの親の目を覚えている。だから俺は説教の途中で大事な、唯一の友達だったクモの白さんを逃がした。そうしなければ彼は殺されていただろう。
 高校生の頃、登校時に怪我をしたカラスに出会った。そのカラスは羽を痛めているようだった。よろよろと歩くしかできない様子だった。でもその目は理智的で、近づく俺を睨んでいた。だから俺は少し離れたところに座り、持っていたパンをちぎって投げた。カラスは首を伸ばして恐る恐る食べた。
 それを一日していたら、カラスが近寄ってきた。俺がじっとしていると、カラスはよろよろと俺の膝に乗った。そして『カァ』と鳴いた。
 俺は、高校で軽いいじめに遭っていた。みんなから無視されていた。とはいえ、家よりはましだったのだけど……とにかく、そのカラスが膝に乗ったとき、俺は無視されなかったことがとても嬉しかった。
 カラスを獣医につれていき、お金を払い治療してもらい、そのあと野生に返すとき、ワンワン泣いてしまうぐらいには、俺はそのカラスが大好きになっていた。
 野生に帰ったらきみも俺を無視するんだろうな、と言えば、カラスは『カア』と鳴いた。そんなわけないでしょ、という声が聞こえた気がした。
 実際、そのカラスは違った。
 そのカラスは俺の家の側の森を巣にして、ずっと俺のそばにいてくれた。高校で俺の昼食をねだることもあれば、洗濯物を干す俺の肩に勝手にとまることだってあった。
 俺は彼のことを『黒さん』と呼んだ。黒さんは『カァ』と答えてくれた。俺たちは友達だった。
 でも、黒さんは、俺のせいで殺されそうになった。幼馴染みが俺の親に告げ口をしたのだ。

『また気持ち悪いことしてるよ、あいつ。カラスが友達なんだって』

 親は業者に頼んで黒さんを殺そうとした。俺は暴れて、黒さんは逃げた。そうして二度と俺の前には現れなかった。
 それで家を出ることを決めた。俺はこの家にはとことん向いていないのだと理解したからだ。

「……黒さん、元気にしてるかな……さすがにもう死んでるか……、……あれ、ここどこだ」

 近所のパン屋であんぱんとコーヒーをテイクアウトし、それをつまみながら下道を走ること三時間。気がついたら景色が山だらけになっていた。ガソリンの残量も心もとなくなってきている。

「ガソリンスタンド……」

 ナビに尋ねればトンネルを抜けた先にあると告げられた。じゃあ、とりあえず、と俺はトンネルに向かった。

「……山に続くトンネル抜けて、ガソリンスタンドなんかあるかな……?」

 と、少し疑問には思ったけれどナビを疑うほどでもなかった。

 ――思い返せばこのときの俺の疑念は、まるっと全部正しかったのだ。だけど、それは全部今さらだ。本当に全部、今さらなのだ。
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