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閑話
彼の背中には傷がある
しおりを挟む◇ イエロー
俺が水戸くんと知り合ったのは高校を卒業して四年経ってからだった。俺がたまたま母校に行ったときに彼もたまたまやってきて、そこで少し話をして、面白そうなやつだと互いに思い、そこから少しずつ仲良くなった。だから俺は水戸くんの親友のことを全く知らなかった。
なにかの席で「その日は命日だから行けねえや」と彼が言ったときに『誰のことだろう』と思った。あとになって、他の同級生からその事を聞いた。同じ高校だったけど俺は『彼』を知らなかった。そして知る前に死んでしまっていることを知った。それが自殺だと知った。
俺は水戸くんになんと言えばいいのかわからなかった。水戸くんも彼の話を俺にしようとはしなかった。だから結局、俺はなにも言わないことにした。
今も俺は水戸くんからその話を聞いたことはないままだ。たまに、ふとした会話のときに『優が言ってたんだよ』だとか『あいつが教えてくれたからなあ』だとか、そんな風に片鱗に触れるだけだ。
水戸くんの背中の鳳凰は、傷みたいに見える。未だに血を流しつづける傷だ。それは俺には理解できない深い傷跡で、深い痛みだ。だから俺は結局なにも言わない。彼もまた、なにを言わない。
彼が軽口を叩くなら付き合う、そのぐらいの距離感だ。
「水戸くんさー、……それ痛くなかった?」
「なに?」
「その範囲の刺青って」
「えー? すーさんも入ってんじゃん。おんなじぐらいだろ」
俺の刺青と違って彼のものは痛々しい。でも彼は気にした様子なく笑う。彼はいつもそうやって笑う。涙をどこかでなくしてきたみたいに笑う。
「すーさんと飲むの楽だよ。すーさん酒飲まねえし、酒飲み嫌わないし、俺の背中見ても叫ばないし、半裸で飲める友達がいてよかった」
「いや服は着ろよ」
「暑いんだよ、夏」
「わかるけども」
彼は俺の執着のなさを歓迎する。それを病むことなく俺の友人でいてくれる。ほどほどの距離感でいてくれる。たしかにそれは俺にとってもひたすらに楽だ。
「水戸くんと高校のとき仲良くなくてよかったわ」
「なんで?」
「なんとなく。今でよかった」
水戸くんはハイボールを飲んだあと「そうだな。俺も今でよかった」と笑った。多分俺たちはこんな感じで一生付き合っていけるだろう。
執着もなく、重さもなく、軽薄に、「楽でいいよ」、そのぐらいの温度で。
「つーか、すーさんなんで飲まねーの?」
「バナナジュースのがアルコールより美味しいから」
「素面で生きていけるのヤバイな」
「水戸くん、血を吐きながらも飲む人の方がヤバイよ」
「俺は酒がないとダメだ……」
「はいはい、チェイサー」
「うぃぃ……」
つい笑うと、水戸くんはチラと俺を見て「ククク」と喉で笑った。
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