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越えられなかった夜
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「ほんと、よく食べるんだな。結人って」
Uberでデリバリーしたはるとが笑って振り返った。
洒落たキッチンと、広々としたリビング。
都内の高層階にあるワンルーム。
同じ大学の人間とは思えないほど、洗練された空間だった。
「だって、おいしいんですもん」
気がつけば、敬語も抜けかけていた。
「なあ……今日は、泊まっていけ、
終電もないし」
食後のワイン。夜風。ふたりきりの部屋。
はるとの目は、ふだんよりもずっと真っ直ぐで。
その一言に、結人の胸が跳ねた。
シャワーを借りて、濡れた髪をタオルで拭いていると、
はるとがTシャツとハーフパンツを持ってきてくれた。
「ほら、着替え。寝間着なんて持ってないだろ」
「……ありがとうございます」
袖を通すと、はるとの匂いがした。
やさしい香水と、柔軟剤の香りが混ざったような。
「似合ってるよ」
そう言って笑ったあと、はるとは結人の頬に手を添えた。
キスは、ふとした隙に落ちてくる。
やさしくて、でも熱を帯びていた。
ベッドに並んで座る。
手と手が触れて、重なって、どちらからともなく肩が寄った。
「結人のこと、ちゃんと好きだから。……知ってるよね?」
「……うん」
返事をしたのは、自分だった。
それは認める言葉でも、逃げる言葉でもなくて、ただ自然に出た。
もう一度、キス。
今度は深く、唇を開かれて、舌が触れる。
息が詰まるほどの温度が、身体を包んでいく。
その時だった。
――ブッ、ブッ、ブッ……
スマートフォンが震えた。
着信。名前も、時間も、すぐにわかった。
神谷徹。
いつも決まった時間にかかってくる、あの電話。
けれど、その時の結人は、画面を見つめたまま、指を動かさなかった。
出ようとすれば、目の前にいるこの人を裏切る気がした。
だけど、出なければ、あの人を傷つけると、どこかで知っていた。
呼び出し音は、数秒で止んだ。
「誰?」
「……ううん、別に。家から」
そう言って笑った。自分でも、なぜ笑えたのかわからない。
けれど、はるとは何も言わずに、もう一度キスをした。
手がシャツの裾をまくり上げる。
それを止めなかったのは、自分だった。
もう少しで、たぶん――超えていた。
でも徹の存在が頭から離れず越えられなかった。
その夜、なぜか眠れなかった。
まぶたの裏に焼きついていたのは、徹の声でも、名前でもなくて、
ただ、冷たい指先と、「どこにも行くな」という低い囁きだった。
Uberでデリバリーしたはるとが笑って振り返った。
洒落たキッチンと、広々としたリビング。
都内の高層階にあるワンルーム。
同じ大学の人間とは思えないほど、洗練された空間だった。
「だって、おいしいんですもん」
気がつけば、敬語も抜けかけていた。
「なあ……今日は、泊まっていけ、
終電もないし」
食後のワイン。夜風。ふたりきりの部屋。
はるとの目は、ふだんよりもずっと真っ直ぐで。
その一言に、結人の胸が跳ねた。
シャワーを借りて、濡れた髪をタオルで拭いていると、
はるとがTシャツとハーフパンツを持ってきてくれた。
「ほら、着替え。寝間着なんて持ってないだろ」
「……ありがとうございます」
袖を通すと、はるとの匂いがした。
やさしい香水と、柔軟剤の香りが混ざったような。
「似合ってるよ」
そう言って笑ったあと、はるとは結人の頬に手を添えた。
キスは、ふとした隙に落ちてくる。
やさしくて、でも熱を帯びていた。
ベッドに並んで座る。
手と手が触れて、重なって、どちらからともなく肩が寄った。
「結人のこと、ちゃんと好きだから。……知ってるよね?」
「……うん」
返事をしたのは、自分だった。
それは認める言葉でも、逃げる言葉でもなくて、ただ自然に出た。
もう一度、キス。
今度は深く、唇を開かれて、舌が触れる。
息が詰まるほどの温度が、身体を包んでいく。
その時だった。
――ブッ、ブッ、ブッ……
スマートフォンが震えた。
着信。名前も、時間も、すぐにわかった。
神谷徹。
いつも決まった時間にかかってくる、あの電話。
けれど、その時の結人は、画面を見つめたまま、指を動かさなかった。
出ようとすれば、目の前にいるこの人を裏切る気がした。
だけど、出なければ、あの人を傷つけると、どこかで知っていた。
呼び出し音は、数秒で止んだ。
「誰?」
「……ううん、別に。家から」
そう言って笑った。自分でも、なぜ笑えたのかわからない。
けれど、はるとは何も言わずに、もう一度キスをした。
手がシャツの裾をまくり上げる。
それを止めなかったのは、自分だった。
もう少しで、たぶん――超えていた。
でも徹の存在が頭から離れず越えられなかった。
その夜、なぜか眠れなかった。
まぶたの裏に焼きついていたのは、徹の声でも、名前でもなくて、
ただ、冷たい指先と、「どこにも行くな」という低い囁きだった。
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