あの視線の主人【高校〜のストーリー】

kouji

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待ち伏せ

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 翌日の昼間、はるとの部屋を後にして
 自分のマンションのエントランスに差し掛かったとき、結人は足を止めた。
 灯りのない廊下、昼間なのに薄暗い廊下にひとつの影が立っていた。

 「……先輩?」

 黒いコートのまま、壁に寄りかかるようにしていたのは、徹だった。

 「おかえり」

 その声は、いつもと変わらず穏やかだった。
 けれど、返事のあとには、何も続かなかった。

 「どうして……ここに」

 聞けなかった。
 結人の問いは、喉の奥でとまった。
 代わりに、徹がそっと手を差し出した。

 「帰ろう。……うちへ」


 車の中でも、徹は一言も話さなかった。
 いつもの柔らかな声も、遠慮がちなしぐさもなかった。

 ただ、ハンドルを握る横顔が、どこか遠くを見ていた。


 部屋に着くなり、玄関を上がった結人の手を、徹が静かに取った。

 「……待って。シャワーを」

 そう言う間もなく、背中を壁に押し当てられる。
 その手は乱暴ではなかったけれど、強かった。

 「……昨晩はどこにも、行ってないよね」

 低く囁かれる。
 その声は淡々としていて、怖いほど静かだった。

 結人が何も言えずにいる間に、徹の手がシャツの裾へと伸びる。
 肌の上をなぞるように、確認するように、指が滑る。

 「誰にも、触られてないよね……?」

 まるで、自分に言い聞かせるように。
 その言葉は問いではなく、確かめるための呟きだった。

 「っ……」

 結人は息を詰めた。
 背中から、震えが這い上がる。
 罪悪感が、痛みのように押し寄せてくる。

 それでも徹の手は止まらなかった。
 首筋、鎖骨、胸元へ。ゆっくり、静かに。

 「お願いだよ、結人、俺のそばだけにいてくれ」


 その夜、結人は何も言えなかった。
 言葉で否定するよりも先に、徹の指先が、体温が、すべてを塞いでしまった。
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