バックパックガールズ ~孤独なオタク少女は学園一の美少女たちの心を癒し、登山部で甘々な百合ハーレムの姫となる~

宮城こはく

文字の大きさ
27 / 133
第二章「陰になり日向になり」

第十一話「めくるめくピンチです!」

しおりを挟む
 剱さんの目が怖い。
 ほたか先輩がいなくなったとたん、その鋭い目をいっそう光らせて、私をにらみつけてきた。
 さっきまで普通に話していた剱さんとは、全く別人のようだ。

「……? あ、うん」

 二人きりになったことを強調されても、それが何を意味するのか解らなかった。
 私が本当に何もわかっていないことに気が付いたのだろう。
 剱さんは身を乗り出して、低い声で囁いた。

「この間の……アタシが言ってたこと、覚えてるか?」
「な、なんだっけ?」
「絵の……ことだよ」

 思い出した。
 部活に入ると決めた日のこと。
 妄想ノートについて私に何を聞きたかったのか気になっていたけど、確かに「二人きりになったら話す」と言われていたんだった。

「あー。……なんだ、その」

 剱さんは私の顔から視線をそらし、視線を泳がせている。

「……お前、絵がうまいんだな。あれって、今やってるアニメのキャラだろ?」

 その言葉だけでは、一体何を考えているのかわからない。
 妙に遠回しな物言いなのは、口に出している言葉はほんのジャブで、これから言う本題のためのどうでもいい前置きなのだろう。
 つまり、この後に続く言葉こそが、私を追い詰める刃となるのだ。
 私は全身をこわばらせ、身構える。
 すると、剱さんの視線が私に戻ってきた。

「特に男の筋肉の表現とかさ、よく見てるじゃないか。ああいうのってさ……」
「あうぅぅ……やめてぇぇ……」

 もう耐えられない。
 私は顔を覆うようにテーブルに伏せた。
 筋肉にこだわって描いたイラストと言えば、上半身裸の男たちが絡むカット以外にない。
 もう、完全に私のBLボーイズラブ趣味を標的にする気だ!
 私を揺すって、たかる気だ!

「あぅ、ああ、あのノートのことはお願いだから黙っててください……。お金……お金はあんまりないけど、なんでもするから、許してください」
「金なんか、どうでもいいんだよ」
「じゃあ、じゃあどうすればいいんですか……?」
「ア、アア、アタシの……」

 剱さんは言葉を妙に詰まらせ始めた。何かこの場では言いにくい事なのだろうか。
 はっとして、私は顔を上げる。

「ど、奴隷になればいいんですか?」
「違う!」
「あぅ……。じゃあもっと……えっちな奴?」
「あのなあ!」

 剱さんは顔を真っ赤に染めて声を上げる。
 私は心の芯から震えあがり、とっさに身構えた。
 その時、私の肘にコップがあたり、中に残っていた氷が勢いよく飛び出していく。
 ブロック状の氷は床に落ちると勢いよく滑っていき、その先には千景さんの姿があった。


 私は目を疑った。
 千景さんが、料理を運びながらこちらに歩いてくる。
 運んでいる料理はきっと、剱さんが注文していたものだろう。
 千景さんをまもり隊隊員の私の脳は、一瞬のうちにすさまじい勢いで計算し始める。
 氷の進路と停止予測位置、そして千景さんの歩幅とスピード。
 千景さんが氷に気が付いていない以上、二者の巡り合いは自明の理!
 料理をひっくり返しながら転んでしまう千景さんの姿が、この私の目にはハッキリと見えた。
 でも、まだ間に合う。……私が氷を拾えば、危機は回避できる!

(あううぅぅ! 音速を超えろぉぉ、ましろぉぉお!)

 数日だけとは言え、歩荷トレーニングで鍛えたこの両脚!
 この筋肉を解放するのは今しかない!
 私は力の限りに体を前に押し出した。


 しかし、予想もしない位置で私の足が滑る。
 とっさに視線を落とすと、そこには、見落としていたもう一つの氷があった――。


 ▽ ▽ ▽


「ま……ましろちゃん。これは……どういうこと?」

 追加の買い物を終えたほたか先輩が、青ざめた表情で私を見下ろしている。
 私自身も何が起こったのかわからないが、床に仰向けに寝そべっているので、氷で滑って転んでしまったのだろう。

「あれ? 山部の先輩じゃないっすか」

 剱さんの声が聞こえたので視線を送ると、剱さんが料理のお盆を持って立っている。
 落ちかけた料理をキャッチでもしたのだろうか。
 料理の顛末は気になるが、それよりも剱さんの視線が私の下腹部に向いていることが気にかかった。
 なぜなら、さっきから下腹部に柔らかな温かみを感じていたからだ。
 私が視線を下げると、白いニーハイに包まれたきれいな太ももと、白いシンプルな下着に守られた柔らかいお尻が瞳に飛び込んでくる。
 こんなのまるで、ラブコメのラッキースケベ。
 千景さんはスカートがめくれた状態で、私のお腹に馬乗りになっていた。
 しかも銀髪がずれて、その内側からはいつもの黒い前髪がはみ出ている。
 片目隠しの前髪の奥には、顔を真っ赤に染めた千景さんの顔が見えた。

 千景さんをまもり隊の本日の作戦オペレーション……。
 それは、完全なる失敗に終わるのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...