バックパックガールズ ~孤独なオタク少女は学園一の美少女たちの心を癒し、登山部で甘々な百合ハーレムの姫となる~

宮城こはく

文字の大きさ
63 / 133
第四章「陽を見あげる向日葵のように」

第六話「メイドさんは、もう限界」

しおりを挟む
 開店時から押し寄せ続けていたお客さんの波も、一時間が過ぎた頃から落ち着いてきた。
 店内は相変わらずの満席だけど、店外で並ぶお客さんの姿がようやく消えたようだ。
 お客さんの会計を済ませた私は、ほっと一息をついた。

「ましろさん、慣れてきたようなのですね」

 ヒカリさんがやってきて、ねぎらってくれた。

「はじめは緊張しましたけど、お客さんは皆さん穏やかな方ばかりだったので……」
「カフェのほうをお任せしてしまって、申し訳ないのです。ボクはどうしてもお山の道具のほうにつきっきりになってしまい……」
「仕方がないですよ! 道具のお店のほうは詳しいヒカリさんじゃないと接客できませんし!」

 今日はゴールデンウィークメニューを楽しめる臨時のフェアということもあって、登山用品店よりもカフェにお客さんが流れている。
 それでも登山用品を買い求める人もゼロではないので、ヒカリさんは一人でそちらの対応を頑張っていた。
 カフェはほたか先輩と百合香ゆりかさんが厨房に立ち、私と美嶺みれいが接客を行っている。

「……美嶺さんは顔が真っ赤なのです。熱があるのでしょうか?」
「いやぁ……美嶺はちょっと照れ屋で、顔色に出やすいんです。大丈夫ですよ」

 美嶺のほうを見ると、彼女は赤面しながらぎこちなく注文を取っていた。

「ご、ごちゅるもん……。ご注文を……おうかがいします」

 緊張しているのか、上ずった声で対応している。
 普段のガサツな雰囲気と全く異なるので、その姿を見ると微笑ましくなった。


 しばらくすると、美嶺が足をふらつかせながら私たちのほうにやってきた。

「も……もう限界だ」
「美嶺、大丈夫? 何かお客さんに言われたの?」

 心配になって聞くと、彼女は自分が着ている英国風メイドの衣装をまじまじと見つめた。

「可愛い可愛いって褒められまくるんだ……。こんなのアタシのガラじゃねえのに。……恥ずかしくって死にそうだよ」
「ええ~。でも、可愛いから仕方ないよぉ~」
「くそぉぉ……やめろよぉ……」

 そう言って、美嶺は両手で手を覆ってしまった。
 顔を真っ赤にして照れているので、私は彼女のことが愛らしくて仕方がなくなってしまう。


 その時、お店の扉が勢いよく開き、たくさんのお客さんが入ってきた。
 よく見ると、お店の外には再び行列ができている。
 不思議に思って時計を確認すると、すでに時計の針は十二時を指しているのだった。

「もしかして、お昼ご飯の列?」
「ヤバいな。……これ、開店の時よりすごいぞ」
「と、とにかく座席の案内だね!」

 私はとっさにお客さんの元に走り寄り、案内をする。
 すると、その後方で待つ人波が店内にあふれ込み、美嶺を取り囲んだ。

「あの~、順番待ちはこの紙に書けばいいんですか?」
「あ、そうっす……ですね。席があいたらお呼びするっすです」
「お姉ちゃん、美人さんだね! 外国の人?」
「び、びび……美人じゃないし、日本人っす!」

 美嶺は変な丁寧語になりながらも、懸命に対応しているようだった。


「ましろちゃん、五番席のハンバーグランチとパスタだよっ!」

 ほたか先輩に呼ばれ、私は厨房に駆け付ける。
 先輩は料理をお盆に乗せながら、心配そうに客席を見つめていた。

「……それにしても、かなりお店が混んで来たね」
「ですね……。お昼だからかランチの注文が増えてきましたけど、食後のスイーツの注文も多いので、かなり忙しいです……」

 予想以上の客入りでテーブルの片づけが滞っているうえに、お客さんが外にあふれてしまっている。
 料理自体は百合香さんとほたか先輩のおかげで間に合っているが、私と美嶺がまだまだ慣れていないせいか、テーブルの準備が遅れがちになっていた。

「あぅ! 二番と三番の席のお皿がまだ片付いてない……。美嶺~、お願いできるかな?」

 料理を受け取る途中で気が付いたので、私は美嶺に声をかけた。
 彼女も「まかせろ」とうなづき、とっさにテーブルの片づけに向かっていく。
 しかし、その片付けのしぐさが気に入られてしまったのか、近くの席で食事中のご婦人たちに美嶺は捕まってしまった。

「あなた、外人さんかねぇ~?」
「ほんに可愛いねぇ~」
「か、可愛くなんてないっす……です」

 美嶺はそう言って、うつむいたまま動かなくなってしまった。
 きっと照れすぎて、頭の中がパニックになっているのだろう。
 彼女のそういう弱さは弥山みせんの山頂で聞いていたので、彼女の状態は手に取るように分かった。
 しかし、ご婦人たちのお褒めの言葉はとどまることを知らないようだ。

「服がよう似合っとるわぁ~」
「頬っぺたも赤くて、元気がええわぁ」
「ほんに、めんこいわぁ。うちの嫁ごさんに来てこらっしゃい」
「よ、嫁……っすか……?」

 出雲弁なまりの熱烈なラブコールを浴び、美嶺はフラフラし始めた。


「美嶺……大丈夫なのかな?」
「美嶺ちゃん、なんか揺れ始めてるけど、どうしちゃったの?」
「……最近知ったんですけど、彼女は人一倍の照れ屋みたいなんです……。しかも自分の柄でもないことをやるとパニックになるみたいで……」
「そうなんだ……。あ、ましろちゃん。おしゃべりしてる場合じゃなかった! お料理を!」
「あわわ……。そうですね!」

 そう言って私が料理をはこび始めた瞬間、テーブルが振動する大きな音が店内に響き渡った。


 驚いて音のほうを注目すると、美嶺が目を回して倒れている。
 顔は真っ赤で、まるでお風呂でのぼせてしまったようにも見える。
 まわりのお客さんたちも驚いて注目していた。

(み、美嶺……。まさか、恥ずかしさのあまりに気絶……?)

 褒められて限界だと言っていたけど、本当に倒れるとは思わなかった。
 思い起こせばキャンプの日だって、私に告白したと同時にテントの外に逃げ出していた。
 もしかするとあの時も、逃げ出さなかったら気絶していたかもしれない。
 私は料理をお客さんの元に届けると、とっさに駆け付けた。

「美嶺! 大丈夫?」
「う……うう。……ましろか? ……なんか変な夢を見てたよ。アタシがメイドになって、なぜかましろにお仕えしてるんだ。……するとましろの家族が可愛い可愛いって褒めてきてさ。最後にはましろのお嫁さんになるっていう……」

 そして、美嶺がうっとりした目つきで私を見つめてきた。

「あぅぅ~。美嶺が大丈夫じゃないぃ~」

 美嶺が変なことを言いだしてる。
 まさか、メイド服を着ただけでこんなことになるなんて、思いもよらなかった。
 私がうろたえていると、ヒカリさんとほたか先輩が心配そうな顔でやってきてくれた。

「大丈夫なのですか?」
「お姉さんとヒカリちゃんで美嶺ちゃんを連れていくよ。服を脱がせて休ませてあげれば、元に戻るのかも……」
「あぅぅ。……そうですね、お願いします……」

 私がうなづくと、ほたか先輩は美嶺をおんぶする。

「じゃあ美嶺ちゃん、いくよ!」

 そう言って、三人は更衣室に向かって消えていったのだった。


 しかし、冷静になって気付いてしまった。
 このお昼の忙しい状況で、カフェには私以外の誰もいない。
 百合香さんは黙々と料理をしてくれているけど、レジには会計の列ができているし、テーブルの片づけが出来ていない場所も増えている。

「すみませ~ん。注文いいですか~?」
「あの~。お水をもらえますか?」
「ごめんなさい! 子供がこぼしちゃった!」

 店内のあちこちからは、無情なるお客さんの呼び声が響いてくる。
 私は泣きそうになりながら、途方に暮れてうずくまってしまった。

「あぅぅ……。美嶺、戻ってきてぇ……」

 すると、誰かが優しく私の肩を叩いてくれる。
 そして元気な声が耳元に届いた。

「ましろちゃん! お姉さんが戻ってきたよ!」

 見上げると、ウェイトレスの制服に身を包んだほたか先輩が、そこに立っていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編7が完結しました!(2026.1.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

処理中です...