バックパックガールズ ~孤独なオタク少女は学園一の美少女たちの心を癒し、登山部で甘々な百合ハーレムの姫となる~

宮城こはく

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第四章「陽を見あげる向日葵のように」

第十話「勘違いとハプニング」

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「ましろちゃんは恋占いって、興味ある?」

 そう聞いてくるほたか先輩の目は真剣そのものだった。
 いつも朗らかにしている先輩にとっては珍しい表情。
 だから、私はそのプレッシャーを前に、タジタジになってしまった。

「恋って……。あの、男の人とするアレですか?」
「うん、そう」
「いやいやいや! 私、男の人に興味とかないですよ!」

 私は必死に首を振って否定する。

「そもそも恋なんてしたことないです!」

 それはもう、隠しようもない事実だった。
 現実の男の子に興味を持つ前にマンガやアニメのような二次元世界のキャラにハマってしまったから、現実世界への興味なんてほんの少しもないのだ。
 彼氏なんていたことないし、恋心を抱いたこともない。
 もっと言えば、マンガのキャラにも恋してない。
 私自身といえば、あくまでもキャラとキャラが想いを寄せるさまをそっと遠くから見つめるだけの『道端の草』のような存在だと認識していた。

 そうだというのに、ほたか先輩は妙にしつこく迫ってくる。

「でも……キャンプの時に天城先生に聞かれた時、『虹ゲンにじげんにしか興味がない』って言ってたよ?」

 それはゴールデンウィークの初日にやったキャンプ合宿の夜の出来事だ。
 陽気になったあまちゃん先生が恋バナトークをはじめたとき、話を振られた私は「二次元にじげんにしか興味ない」と確かに言っていた。

「そ……それ、覚えてたんですか? てっきりスルーしてくれてたものだと思ってました……」

 あまり公言したくない趣味だから、あまり追求しないでくれるとありがたい。
 でも先輩は気になって仕方がないのか、うなりながら考えこんでしまった。

「……虹ゲンさんは二年生にはいないから、一年生なのかな?」
「いや……私の二次元歴はもう少し長いですよ。大ハマりしたのが中学一年生の頃からなので、もう四年目に入ったころでしょうか」
「え……四年生? 中学校の? ……聞きづらいけど、卒業できなかったのかな?」
「卒業ですか……。なかなか難しい質問ですね。ほら、好きになったら冷めちゃうのが怖いじゃないですか。だから卒業なんて考えられないですよ」

 実際問題、自分の中でブームが去ってしまった作品はいくつもある。
 たくさん集めていた単行本やグッズへの熱がフッとなくなり、なにかむなしさのような気持ちだけが残ることもあった。
 ああいう気持ちは、確かに「卒業」と言えるかもしれない。

 でも、いつだったか思ったのだ。
 いつかは気持ちが冷めてしまうかもしれない。
 だけどそんなことを考えていては作品に失礼だから、今を精一杯楽しもうと。
 私は「卒業なんて考えません」と力強く宣言した。

 しかし、ほたか先輩はとても真剣な、怒っているような表情になった。

「ダメだよぉ! ……あまりましろちゃんの好きな人のことをとやかく言いたくないけどね。中学校は卒業したほうがいいと思うなっ!」

 ここまでくると私もさすがに違和感を覚え始めて、先輩の顔をうかがった。

「んん? 卒業するのは二次元のことで、中学校は関係ないですよ?」
「どういうこと? だって『虹ゲンにじげん』さんという方に恋してるんでしょ?」

 『二次元にじげん』と『虹ゲンにじげん』!
 なんということなんだろう!
 ほたか先輩は完全に勘違いをしているようだった。

 私は慌てて訂正する。

「二次元ですよ! 一次元、二次元、三次元の『二次元』!」
「二次元って、あのペラペラの世界の?」
「そうですよ!」
「えっと……。んん? ましろちゃんは紙に恋してるの?」

 すごくわかりやすく説明したつもりなのに、ほたか先輩の頭の周りには「?」マークが飛び交っているように見えて仕方がない。

「ああああ~~~! だ、か、ら! 二次元っていうのは、こういう紙とかに描いた絵とかキャラのことなんです! 説明しますから、見ててくださいね!」

 ひょっとするとオタク世界で生きていた私のほうが世間からずれているかもしれない。
 この際だから丁寧に説明しようと思い、私は勉強用のノートにイラストを描き始めた。

「たとえば、こういう男の人と男の人がですね……」
「え……! ……そ、そんな」
「……で、こんな風にからんでる感じにして……」
「待って、ましろちゃん! ……え、うそ」
「大切なのは視線をお互いに交差させることで……。ほら、できました!」

 私は一気にイラストを描き終えた。
 それこそ毎夜の日課として描き慣れた構図だから、とてもスムーズに描き進めることができた。
 今日の私のイラストも、相変わらずカッコよくてエロくて最高だ!

 私は充実した気持ちで胸いっぱいになり、ほたか先輩にも共有したくてノートを手渡す。
 先輩も絵に釘付けになっているように、じっと凝視し続けた。
 その頬がみるみると赤く染まっていく。

 ……そして、ようやく私は自分のやっていることに気が付いたのだった。

「うわあぁぁあぁ! わ、忘れてください!」
「ま、待って。す……すごい」
「ダメです! 先輩はけがれのないままでいてください!」

 私はもうパニックになっていた。
 また頭に血が上ってしまったんだ!
 わざわざ自分の恥ずかしい趣味を見せつけるなんて、私は変態なのかな?
 自分の暴走癖がほとほと嫌になってきた。

 私はいてもたってもいられなくなり、ほたか先輩の手から勢いよくノートを奪い取った。
 すると、その勢いで体勢を崩してしまい、つんのめってしまう。

「ましろちゃん!」
「あ……とっとっと……」

 踏みとどまろうとするけど、ますます勢いがついていく。
 私はそのまま壁際の棚に激突してしまった。

「ましろちゃん、上!」

 うずくまって立てないまま、ほたか先輩の叫び声で見上げる。
 すると、棚の上に積み重なっていた大きな本の山が崩れ落ちてくるところだった。
 まるでスローモーションのように眼前に本が迫り……、気が付いた時には大きな音と共に私は床に倒れ込んでいた。

「―――……っ!」

 あまりの驚きに声を上げることが出来ない。
 仰向けになった私の体に、何かがのしかかっている。
 でも、なぜか痛みはなかった。
 それどころか温かさといい匂いに包み込まれ、唇には柔らい感触が触れている。

 私の唇に触れていたのは……勘違いのしようもなく、ほたか先輩の唇だった。
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