バックパックガールズ ~孤独なオタク少女は学園一の美少女たちの心を癒し、登山部で甘々な百合ハーレムの姫となる~

宮城こはく

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第六章「そして山百合は咲きこぼれる」

第七話「無理しなくていいんだよ」

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 ほたか先輩が……バテてしまった。
 トレーニングではいつも余裕のある先輩が、地面に顔を向けて息を切らしている。
 その姿は悲壮感に満ちていた。

「みんな……ごめん。一つ目のチェックポイント、見落としてたみたい……」

 チェックポイントとは、この近くにもぶら下がっている白い袋のような物だろう。
 それを見落とすことが何を意味しているのか分からないけど、ほたか先輩の言葉によると、重大なことなのかもしれない。
 でも、千景さんは首を振った。

「そんなこと、たいしたことない。……それより、ほたか……。ほたかが……」
「千景さん……」
「ど……どうすれば……」

 千景さんはおろおろしている。
 無理もない。
 私もどうすればいいのか分からない……。
 美嶺みれいもそれは同じようで、前後を心配そうに見つめていた。
 そうこうしている間に、前を歩く五竜ごりゅうさんの背中はみるみる離れていく。

「千景ちゃん……進んでっ!」

 ほたか先輩は絞り出すように言う。

「でも……」
「お姉さんは……大丈夫だから……」

 そう言って数歩進んだが、すぐに立ち止まってしまった。
 ぜんぜん大丈夫に見えない……。
 ほたか先輩は上半身すべてを使って息をしている。

「きゅ……休憩を……」

 私は言いかけて、口をつぐんだ。
 ここで休憩すれば、前との距離が離れるだけ。
 大会の得点配分はよくわからないけど、休んでしまえば間違いなく減点されてしまう。
 ほたか先輩が進もうとしているのも、なんとか頑張ろうとしてるからに違いなかった。


 無情にも、前との距離はどんどん離れていく。
 五竜さんはこちらを振り返っているが、すぐに道の起伏に隠れて見えなくなってしまった。

「千景ちゃん……。進んで……」

 再びほたか先輩の指示が飛んでくるが、千景さんは動かない。
 当然だ。
 ほたか先輩を一人にして進めるわけがない。


 その時、千景さんの目から涙がこぼれた。
 唇を震わせながら、小さな声で何かをつぶやいている。
 私はすぐ隣にいたので、かろうじて言葉を聞き取ることができた。

「ヒカリなら……ヒカリなら、何か、できるのに……」

 千景さんはウェストポーチに手を突っ込んでいる。
 ポーチの口からは銀色っぽい繊維がのぞき見えた。

(……もしかして、ヒカリさんのウィッグ?)

 千景さんはみんなの力になるために、自由にヒカリさんに変身できる特訓を続けていた。
 恥ずかしがり屋の千景さんにとって、それは本当に決死の覚悟だったと思う。

 でも変身できるようになったのは、あくまでも『誰にも見られない』という条件下だけ。
 今、私たちの隊のすぐ後ろには役員の先生がいる。
 この状況下では、千景さんは変身できるはずがなかった。

 それなのに、小さな手を震えさせながら、必死にウィッグを引っ張り出そうとしている。
 頬を赤く染めて、恥ずかしさに耐えようとしているのは明白だ。
 千景さんも、ほたか先輩と同じ二年生……。
 私なんかでは想像できないほど、責任感に胸を焦がしているに違いなかった。

「ボクは……ボクは……」

 千景さんはくやしそうにつぶやく。
 どうしてもウィッグを取り出すことができないようだ。
 目からはぽろぽろと涙がこぼれてくる。

 それを見て、私は胸が締め付けられてしまった。

「千景さん、いいんです。……無理しないで!」

 こんな辛そうな千景さんやほたか先輩を黙って見ているなんて、できない。
 私は自分に何ができるか分からないまま、坂道を下っていった。


 △ ▲ △ ▲ △


 ほたか先輩の元にたどり着いた私は、ひとまず今の状態を把握しようと、先輩の様子を観察した。
 上半身を斜めに倒しており、とても重そうにザックを背負っている。
 それは歩荷ぼっかトレーニングで高い負荷をかけているときの様子を思い出させた。

「ほたか先輩……ちょっといいですか?」
「ましろちゃん。ま、待って……」

 制止しようとする先輩にかまわず、先輩のザックを後ろから持ち上げてみる。
 それは尋常じゃなく重かった。
 ザックの見た目の大きさは全員同じなので、金属など重い荷物が集中しているのかもしれない。

「これ……私のザックの二倍以上はありそうですよ!」
「マジか」

 美嶺も驚いている。
 同じように美嶺のザックを持ち上げてみると、私のザックと変わらないぐらいの軽さだった。

「ほたか先輩、ザックを交換しましょう!」
「そうか! アタシに任せればいいんすよ!」

 美嶺はさっそく自分のザックを下ろし、ほたか先輩のザックに手をかける。
 そしてザックを強引に奪い取ると、背負ってみせた。

「ほら、軽い軽いっ」

 美嶺は軽々とザックをゆすっている。
 ほたか先輩は自分の失敗を恥じるようにうつむいてしまった。

「ごめん……ごめんね……」

 その声を聞くと切なくなってしまい、私はほたか先輩を抱きしめた。

 頬と首をこすりつけ、一分の隙もなく密着する。
 すぐ後ろで役員の先生に見られていても、気にすることじゃない。
 美嶺のような筋力のない私にとって、先輩を元気づけられるとすれば、これ以外に思いつかなかった。

陽彩ひいろさんも、メッセージで言ってたじゃないですか」
「陽彩……先輩?」
「無理に勝とうとしなくていい。危なければ無理しなくていい。……今はきっと、その時なんですよ」

 陽彩さんの言葉が、今は本当にありがたかった。
 その言葉を受け取ってくれたのか、ほたか先輩はわずかに顔を上げてくれる。

「お姉さんなのに……いいのかな?」
「気にしなくていいっすよ~。バテるときは誰でもあります。余裕のあるヤツが背負えばいいだけっすよ!」

 美嶺は元気に笑う。
 その笑顔が何よりも頼もしくて、私も元気が出てくるようだった。
 ほたか先輩は美嶺のザックを担ぐと、一歩一歩、地面を踏みしめて歩き出した。


 △ ▲ △ ▲ △


 千景さんと合流すると、千景さんは涙をぬぐいながら微笑んだ。

「ほたか……。よかった」
「千景ちゃん、ごめんね。みんな……ごめんね……」
「ごめんなんて、いらないっすよ。山は助け合いが基本っす」

 ほたか先輩がずっと謝ってるので、美嶺は笑い飛ばすようにニコニコしている。

「そうですよ~。いつものほたか先輩みたいに『大丈夫、大丈夫』って笑って欲しいですっ」
「……本当に、ありがとう」

 そして、ほたか先輩は申し訳なさそうにうつむきながら、小さく微笑んだ。
 ……よかった。
 ほたか先輩がバテてしまったことはビックリしたけど、私たちが温かくフォローしあえる仲間で、本当によかった。
 千景さんも、ヒカリさんのウィッグが入っているウェストポーチに触れながら、ほっと胸をなでおろしている。

「じゃあ、行こう」

 千景さんの呼びかけに続き、私たちは再び歩きだした。
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