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第3章 レジスタンス

第13話 ファーストコンタクト

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「どうしよう?」
 アジトで、一応のパターンは習った。
 だが、これは本番。
 声をかける。
 それだけを考えても、心臓が痛い。

 だが、彼女が握るデータは、組織にとっては必要な物。
 失敗はできない。

 パターンは。自然に警戒されないように。
 良くある、ぶつかり何かを落とす。

 落とすだけでは、人によっては無視される。
 彼女の手に触れる事ができれば、無意識下に種を仕込む事ができる。
 これは気の応用と、最近使えるようになったナノマシンによる、瞬間暗示。

 サブリミナル効果を利用した単純暗示。それを圧縮して視覚を通さず脳内へ送る。

 気を引くため、落とすものは、端末にしよう。
 操作をしなければ、ばれはしない。
 そっと、同業であり、安全な人間である事をすり込む。

 ただし、通常人間は意識をしていないが、本能的な危険察知能力。暗黙知。
 人間は常に、無意識下で危険か危険じゃ無いかという判断を行っている。
 ただこれは、経験に基づく反応だから、今の世の中。経験による異性の判断はあまいだろう。きっと同じく、未成年のうちは、家から出る事はほとんど無く。家にいたはず。ふれあった異性というのは、安心できる者達のみ。
 それに頼るか。

 そして、場所と服装。そして、シチュエーション。
 服装は、かっこいいのを目指さず、承認される幅の広いものを狙う。
 よく言う、こぎれいで、普通と言われる格好。
 この場所なら、グレー系のスーツがベストだろう。
 下手に格好を付けて、相手の好みから外れ。大幅減点は避けなければいい。

 ひげも、自身はかっこいいと思っても、相手は、どう思うのか分からない。
 ひげはなし。後の基本は、相手に気付かれない事。
 よくナンパでも、気づかれると、嫌われる。
 単に鬱陶しいだけの存在となってしまう。これもだめだ。

 そんな事を考えながら、X線内部透過偽装スクリーン入りのショルダーバッグに荷物を詰めていく。
 因縁の、認識阻害シート。非常時用の小型電磁パルス発生装置。こいつは周囲500mの電子装置を吹っ飛ばせる。他にもアナログなサバイバル装備や、携帯型液体空気ボンベ小さいが、二時間は持つ。本来の端末。こいつはレジスタンス専用。一時間に一回だけ圧縮データを発している。超小型プラズマガストーチ。アルゴンと水素ガスを封入。時間は一分程度。垂直降下用ワイヤーに薄手だが防刃タイプの手袋。等々。詰め込む

 考えた末、庁舎の汎用通路。2階にあり、ランチ時などに各部署の人間が利用をする。問題は、きっちり歩行区分があり右側通行。つまり。ぶつかるなら。前で立ち止まるか、追い抜きざまにぶつかるしか無い。

 昼が終わる時間。そっちが理想だが。ぶつかった後。庁舎内へ入らなければいけない。さすがにまずい。夕方か。帰宅経路は把握をしているが。
 庁舎内から出ると、怪しいやつという警戒心が増えてしまう。

 一日目。昼頃に外から、庁舎へ向かう廊下を歩く。
 至る所に、センサーやカメラがある。何日もは、時間をかけられない。
 立ち止まって、彼女を見張るだけで。きっと、警戒レベルが上がり。注意が通知されるだろう。

 あっ。うまい。彼女を見つけた。

 行きすぎるのを確認し、端末を取り出す。
 確認して、あわてるように、反対側の通路へ回り込む。
 早足で、「すみません」と声をかけつつ追いかける。

 彼女に、少し強めにぶつかり、端末をお手玉をする。
 2~3回手の中でもてあそび、彼女の方へはじく。
 視線では追ってくれているから、掴んでくれ。
 手の上に、ぽすんと着地。必然的に画面には個人情報が右上に表示され、中央には上司からの、弁当購入命令が通知されている。無論時間が無いから早くとの注釈入り。

「ああ。申し訳ありません。おけがはありませんか?」
 そう聞くと、文面を読んだのだろう。
「大変ですね。お忙しそうですのに」
「ええまあ。でも、忙しいのは何処も一緒でしょう。端末ありがとうございました。お礼に今度。上に対する愚痴でも言いながら、食事でもしましょう」
 そう言って、端末を受け取りながら、手に触れ。脳に対し圧縮データを流し込む。
 本人は意識しない。無意識下へ。

「まあそんな事をしたら、逮捕よ」
「ではまあ。ほどほどでお食事をメインで。それじゃあ。ありがとうございました」
「ええ。おもしろい方ね」
 手を振り、また顔が彼女から向き直ってすぐ、前の人にぶつかりそうになるふりをする。
 
 そんな事をしながら、どんどんと離れていく。
「まあ今日は、こんなもの。あの刷り込みが効いてくるのは。3日後か」

 アジトに帰ってきて、自分の演技にもだえる流生。
「ひゃあー。相変わらず。自分で恥ずかしい。何が、『ではまあ。ほどほどでお食事をメインで』だよ。うー迷彩が効いているから、赤くはなったりしないけれど、ノイズが入ったりしないだろうな。後。声のトーンとか。動揺すると、微妙に高くなるからって注意を何度も受けたしな」
 そう言って、ベッドの上でバタバタともだえる。
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