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第3章 レジスタンス

第14話 3回目の出会い

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 さて3日後。
 ぼちぼち、暗示が効いてきた頃。
 夕方になり、庁舎近くで張り込み。

 ただ、立ち止まって長い時間がたつと、目を付けられるので周辺を散策しつつ待つ。だが、さすがエリート。2時間しても、3時間しても出てこない。
「ちっ。見落としたか? いやそんな事は無いはず」
 そして、日も変わろうとした7時間後。
 連絡用通路に疲れた彼女が顔を見せる。

「残業7時間て、労働役の方がよっぽど楽じゃないか」
 通路の中へ入る。

「おや、このまえの。お疲れ様です」
「あなたは」
「ええ先日端末を落としかけて、あなたに救助して頂いた」
「ああっ。あの時の。あなたもまだ残業?」
「ええまあ。いつもはこんなにならないのですが。たまたまです。あっこれどうぞ」
 お茶を一本渡す。

 そして暗示。
「時間でも合えば、お酒でも」
 そう言って、ぴらぴらと手を振り、庁舎方向へ進む。

 後ろは見られない。だが庁舎にも当然は入る事はできない。
 そっと鏡で、後ろを伺う。
「今度は、ファイバースコープ。持ってきておこう」
 いい加減、ゲートが近付いてきたとき、しゃがみ込む。

 何かを、拾うまねをして後ろを伺う。
 あまり変な事をしていると、ゲート側の監視カメラがヤバイ。
 ほっ。いない。そっと外を眺める。

 彼女は、もう行ってしまったようだ。
 あわてて、逆向きの通路へ移動し、足早に戻り始める。

 万が一、出会った場合は、つい一本差し出して、本数が足りなくなったと申し訳なくいえば良い。

 だが無事に、出会わなかった。



 数時間後。
 適当に、あったサラダを、お酒で流し込む。
 32歳とはいえ、人に言えるような生活ではない。
 基本は8時間勤務のはずなのに、大抵倍はかかる。
 チーズをかじりながら思い出す。

 さっき、シャワーを浴びながらも浮かんできた彼の顔。
 優しそうな微笑み。
 彼の言っている、お食事でもとか、飲みにという台詞は。きっと脊髄反射的に紡がれる言葉。きっと本人は、記憶にも残っていないのじゃないだろうか。

 でもそんな言葉に、思わずすがってしまいたくなる現状。
 もし彼を受け入れれば、救われるのではないか? そんな考えが、フラッシュバック気味に頭に浮かぶ。
 すべてをさらけ出せる、そんな状態が欲しい。
 ただ受け入れ、笑ってくれる人がいる。
 それだけできっと、今よりはましになれる。
 
 仕事は、重要。国にとって必須。失敗すれば人命に関わる。
 そんなものを背負っている。
 その重荷が、今のチーフとなってから、重くなって、のし掛かってくる。

「『今度。上に対する愚痴でも言いながら、食事でもしましょう』か、本当にそんな事がいえればどんなに楽か。ただね、そんな事がいえるのは、お互いの家くらい。店じゃすぐ通報よ。ああそうか、彼を家へ? 私ったらよく分からない人を? いえ、そんな事もないか。部署は違えど職場は一緒。入るときにバックグラウンドチェックは受けているはず。彼なら共感してくれる?」

 今度会う事があれば、誘ってみようかしら? はしたないと思われる? いいえ彼なら大丈夫な気がする。
 会えれば、神様のお導き? そんなものが、どこにいるのかは知らないけれど。
 そうねその時は。

 私は、その時なぜか、彼は信じられる人だと。信じてしまった。


「あー。疲れる」
 俺はベッドに、突っ伏していた。

 活動限界。ストレスが凄いし、ずっと、認識阻害の術をかけ続けるのが、意外と負担。

 あー早く終わりたい。
「お家へ帰りたい」
 しかし調査の仕事は、必須スキルだから、幾度かは、しないと駄目と言われている。
 もっと戦闘ばかりするとか、そういうのを思っていたが、ただ正面切って戦闘などできるわけもないか。
 情報を操り、国自体を、一度力をそがないと、一気に潰されて終わり。
 そんな事も習ったよな。

『特殊な兵器。そんな開発も行っている』
『そんな事をしているのか?』
『何言っているの、プロトタイプ。あなたが第1号。組織による強化人間』
『俺って、秘密結社の怪人か?』
『言葉にすればそうね』
『正義の味方が、襲ってくるのか?』
『襲ってこないように、気を付けて任務をしてね』
 少し前に交わした軽口が、心の支えになる。

「そうだな、政府側が、秘密兵器を開発しませんように。ご先祖様お願い申し奉ります」
 政府側の奴ら、変身するのだろうか?

 そして、さらに3日後。

 今度は、連絡通路の外側で、彼女を待つ。
「おつかれさま」
「お疲れ様。まだこの時間までやっているの?」
「いやこれで最後です。これで通常に戻れる」

「いつもは、もっと早いの?」
「そうですね。遅くとも8時か9時には帰ります」
「そうなんだ。いいわね」

「ありがとうございます。そして申し訳ありません。そちらはずっとこの時間?」
「そうね。ずっと」
 そう言うと彼女は顔を伏せる。

 と、言う事は、彼と会えなくなる?
 それはいやね。
 誘う? えーそんな事。

「じゃ。じゃあ。終わったお祝いしない?」
「この時間から? ああ。まあ開いている店もあるのか?」
「ばかね。私たちの愚痴など外で言えば、逮捕案件よ。何か買って、家へ来ない?」
 さっさあ。どう。私みたいな年上からの誘いだけど。
 なっ何で悩むの。いつも、簡単に誘ってくれていたじゃない。
 それとも、本当に社交辞令だけだったの。そんなの私が恥ずかしいだけじゃない。

「やっ。やっぱりいきなりは無理よねぇ。私ったら。つい」
「ああいや。良いですよ。何を買い込みます? ただ、明日も仕事があるので、あまり遅くまでは、無理ですけれど」
「そっ。そんなの私だって同じよ。じゃあ。こっちよ。行きましょ」
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