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第二章 幼少期
第7話 武の名門。シュワード伯爵家
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「誘いに乗っても良いが…… だが此処で、わしが抜けると、この者達が困ってしまう」
こちらを見ているのは、ざっと十人ほど。
中には、ドミニクとアーネも混ざっているが、基本は小さな子達。
「ふむ。単なる庇護対象ですかな?」
伯爵は彼らを、ちらっと見て質問をする。
「いや。この二年ほど知恵を授け、指導をした」
ふむ。そう思ってみると、立ち姿に雰囲気が見て取れる。
「君、ちょっといいかね」
呼ばれたのは、今年五歳のラルフだった。
「今から、攻撃をするから対応をしてくれ」
そう言って、彼に向け。
鞘に収まったままで、おもむろに剣を振るう。
鋭いが、手は抜いているようだ。
上から降ってくる剣の腹を、手の平で押しながら、するっと懐に入ってくる。そして躊躇無く、金的に当て身がはいる。
そして上半身が崩れてきたところに、肘を使い、突き上げるような鳩尾への一撃。
メキッと肋骨が、いやな音を出す。
「ぐはっ」
「やめっ!」
そう言ったのはシン。
止めていなければ、次のステップ。倒してからの目へか喉への突きが入っていたはずだ。
「人さらいも多くてな。すべて、相手を壊す技のみ優先的に教えてある。すまんな」
そう言いながら、彼が何かをしたらしく、痛みが消えていく。
「これは?」
「治癒魔法だな」
「なんと…… 魔法まで」
それこそ、スキル無しが魔法を使っても、生活魔法程度。
それ以上は、覚えることが出来ないとされている。
そうして、彼らは全員、伯爵の屋敷に引き取られることになった。
翌日にしたのは、ちびっ子はいいとしても、ドミニクとアーネが役目の引き継ぎが必要だからだ。
管理者の後任は、順番待ちが出来ているくらいだから問題ない。
ところが、その理由を述べたら騒ぎになった。無能力者ばかりが、十人ほど貴族に引き取られることになった為だ。
それが、大きな波紋となる。人間、上位の者が優遇されるのは我慢が出来ても、同程度か下の者が優遇されると、途端にキレ散らかすものである。
特に、あの日腕を折られたラーシュ。あの日から二年近くが経つのに、つけ狙っていた。
当然シンはそれを分かっていて、子供達に壊す技を教えていた。
自分が到着をするまで、持たせる。
相手の力を利用をして、最大限の効果を発揮する技。
大きい体格をしている相手に組まれるのは、圧倒的に不利なので組まずに倒す。
投げと、当て身。
そのため、彼らにちょっかいを出した彼は、幾度となく撃退されていた。
そこで悔しいなら頑張ればいいのに、右肘を折られたせいだと言い訳をして、努力はしない。
そして、今回の出来事。無能力者の身請けはスラムでも衝撃で、あっという間に噂は流れ、彼の耳にも入ってしまう。
「シンが、貴族に?? 嘘だろう。あいつは無能力者だったはずだ」
教えてくれた人間に、食ってかかる。
「他にも奴と連んでいた奴。全員だってよ。俺も習っていれば良かったぜ」
だがダメ押しまで……
「そんな…… ふざけんなよ」
そんな言葉を残して、剣を持ち、ラーシュは走って行く。
明日になればいなくなる。それも貴族の家に身請け? 許さねえぇ。
シンを見つけた彼は、剣を抜き振りかぶる。
「しーんんっっ!! てめえだけは……」
だがその日、シンは手加減をしてくれなかった。
皆が、声に反応して振り返ったとき、なぜか宙を舞う剣の鞘が、地面に転がるところだった。
それを見ていたものはいたが、一瞬だけで、ラーシュが光の中に消えていくのが見えた。
それ以降、彼の姿を誰も見ていない。
翌日、伯爵の馬車とは別に、乗り合いのような馬車が用意されて、皆で乗り込む。
それから、二週間ほどかけてシュワード伯爵家に到着し、家人から睨まれることになる。
「伯爵さま。スキル持ちを見つけに行っていたのでは?」
家宰である、セバスディーはチラリと皆を見る。
大抵、連れてきても一人か二人。
だが、結構大きな子も含めて十人……
「いや、今回は色々あって探さなかった。それよりも彼らは…… あー。さてどうするか…… スキル持ちのように養子にするのか? それとも客人か? とりあえず、塾生達の寮が空いているな。服も見繕ってあげてくれ」
「はっ。承知いたしました。当座は客人で扱います」
「ああ、それでたのむ」
家宰のセバスディーにそう言いながら、伯爵は奥方への言い訳を悩んでいた。
『スキル持ちで、いい子が居れば連れてくる』
出かける前に、そう言ったが、スキルの有る無しはすぐにバレる。
「だが彼女なら、意味を分かってくれるだろう。娘のヘルミーナのためにも、それがいいだろう」
実の子供、娘のヘルミーナ。
それとは別に、スキル持ちの養子ヴィクトルが居る。
だが、この二人、相性が悪い。
伯爵家令嬢としてのプライドと、スキル持ちで養子となったヴィクトルのプライド。
ヴィクトルは、すぐに学園都市アルフィオの王立貴族院。つまり学園に入れたために家にはいないが、帰ってくる度に喧嘩である。
ヘルミーナは五歳だが、すでにスキルがあることは判っている。
「私がいるのですから、あいつは必要ありません」
とまあ、あいつ呼ばわりである。
伯爵はプライドの問題と、そう思っていたが、実はもっと根深いものだった。
娘は、幼いながらに、助けを求めていたが、彼は気が付かなかった。
「皆さんは、しばらくは客人として、こちらを利用してください。寮ですので、一部屋四人。一階に、食堂がございます。朝晩は出ます。外食を行う場合は前日に連絡をお願いします。ふろは、週一ですが、沸いてない日でも水浴びは出来ます。着替えは…… こちらで用意いたしますので、急遽湯を沸かします。入浴後、着替えてください。それまで部屋へは行かないように」
こうして、伯爵家に迎え入れられた。諸手を挙げて歓迎とはいかないようだが、スラムからは脱出できた。
家宰の反応から、自分たちの状況を思い直す。
「どうやら、予想以上に小汚い様だな。鏡が無いから未だに自分の顔すら判らん」
そして男女関係なく風呂に入り、ドミニク達にまで、先に体を洗ってから入れ―と怒鳴る始末。
結局ちびっ子達を手分けして洗い、疲れ切ってしまった。
そして夕食も、スプーンなどがあったので、使い方を教えて食わせる。
日も落ちて、普段なら寝る頃だが、伯爵の奥方が現れたので挨拶をする。
奥方はアウロラと申すものだが、明らかに伯爵よりも強い。
「ふーん。あの人が何をとち狂ったのか、折檻をする予定だったのだけど…… あなた何者?」
悩む。だが、此処で世話になる身。
バラした方が、ぼろが出た時に理解を得やすいか。
「スラム育ちのシン。いま七歳だが、昔の記憶がある。昔の名は、ラファエル=デルクセン」
「はあっ?」
流石に驚いたか…… 有名らしいからなぁ……
「本気?」
そんな事を聞いた彼女だが、おやっ? 雰囲気が変わった。
そう思ったら、いきなり魔法を発動し、その炎の奥でナイフを投擲。
右にサイドステップ。つまり俺から見て、炎の右にいた体が今は左にある。
これはスキルではなく、単なる身体能力。さらに、左手でナイフを投擲し、右前へ踏み込んで、勢いそのままで右の蹴り。
ちなみに彼女はスカートだ。
体重差があるため、受けてあげない。
俺から見て、炎が来ている方。
左からは彼女の右足が来ているが、炎を除け右に逃げると先ほどのナイフが、時間と距離を空けてやって来ているはず。
当然俺は踏み込み、本当なら膝を折るが、奥方にそんな事は出来ない。
だが、蹴り足は受け流しながら軽く持ち上げて、荷重の抜けた軸足を払う。
だがその状態で、すかさず回転をして、軸足が顔を蹴りに来た。
仕方ないので、持っていた蹴り足を放す。ぱっと……
当然体をひねろうとするが、空中に体は浮いている。
地面を突き体制を整えようとしたのだろう、伸びた手を、俺は足でそのまま蹴り払う。
「あっ」
顔面から、べちゃっと落ちる。
うん。手を払ったからね。
うつ伏せになった状態で動かないが、いまだ全身から何かを狙ってますオーラが滲んでいる。
周囲に、彼女の体を囲うように、ポツポツと火を灯していく。
「もうっっ。初対面なのにひどいわね」
「お互い様だ。ナイフは返す」
そう言って渡す。
それを見て始めて、彼女の目が見開かれた。
「いつの間に……」
「さっき、蹴り足を掴みに行く前」
そう言うと驚いていた。
その様子を、二階から見ていた目があった……
こちらを見ているのは、ざっと十人ほど。
中には、ドミニクとアーネも混ざっているが、基本は小さな子達。
「ふむ。単なる庇護対象ですかな?」
伯爵は彼らを、ちらっと見て質問をする。
「いや。この二年ほど知恵を授け、指導をした」
ふむ。そう思ってみると、立ち姿に雰囲気が見て取れる。
「君、ちょっといいかね」
呼ばれたのは、今年五歳のラルフだった。
「今から、攻撃をするから対応をしてくれ」
そう言って、彼に向け。
鞘に収まったままで、おもむろに剣を振るう。
鋭いが、手は抜いているようだ。
上から降ってくる剣の腹を、手の平で押しながら、するっと懐に入ってくる。そして躊躇無く、金的に当て身がはいる。
そして上半身が崩れてきたところに、肘を使い、突き上げるような鳩尾への一撃。
メキッと肋骨が、いやな音を出す。
「ぐはっ」
「やめっ!」
そう言ったのはシン。
止めていなければ、次のステップ。倒してからの目へか喉への突きが入っていたはずだ。
「人さらいも多くてな。すべて、相手を壊す技のみ優先的に教えてある。すまんな」
そう言いながら、彼が何かをしたらしく、痛みが消えていく。
「これは?」
「治癒魔法だな」
「なんと…… 魔法まで」
それこそ、スキル無しが魔法を使っても、生活魔法程度。
それ以上は、覚えることが出来ないとされている。
そうして、彼らは全員、伯爵の屋敷に引き取られることになった。
翌日にしたのは、ちびっ子はいいとしても、ドミニクとアーネが役目の引き継ぎが必要だからだ。
管理者の後任は、順番待ちが出来ているくらいだから問題ない。
ところが、その理由を述べたら騒ぎになった。無能力者ばかりが、十人ほど貴族に引き取られることになった為だ。
それが、大きな波紋となる。人間、上位の者が優遇されるのは我慢が出来ても、同程度か下の者が優遇されると、途端にキレ散らかすものである。
特に、あの日腕を折られたラーシュ。あの日から二年近くが経つのに、つけ狙っていた。
当然シンはそれを分かっていて、子供達に壊す技を教えていた。
自分が到着をするまで、持たせる。
相手の力を利用をして、最大限の効果を発揮する技。
大きい体格をしている相手に組まれるのは、圧倒的に不利なので組まずに倒す。
投げと、当て身。
そのため、彼らにちょっかいを出した彼は、幾度となく撃退されていた。
そこで悔しいなら頑張ればいいのに、右肘を折られたせいだと言い訳をして、努力はしない。
そして、今回の出来事。無能力者の身請けはスラムでも衝撃で、あっという間に噂は流れ、彼の耳にも入ってしまう。
「シンが、貴族に?? 嘘だろう。あいつは無能力者だったはずだ」
教えてくれた人間に、食ってかかる。
「他にも奴と連んでいた奴。全員だってよ。俺も習っていれば良かったぜ」
だがダメ押しまで……
「そんな…… ふざけんなよ」
そんな言葉を残して、剣を持ち、ラーシュは走って行く。
明日になればいなくなる。それも貴族の家に身請け? 許さねえぇ。
シンを見つけた彼は、剣を抜き振りかぶる。
「しーんんっっ!! てめえだけは……」
だがその日、シンは手加減をしてくれなかった。
皆が、声に反応して振り返ったとき、なぜか宙を舞う剣の鞘が、地面に転がるところだった。
それを見ていたものはいたが、一瞬だけで、ラーシュが光の中に消えていくのが見えた。
それ以降、彼の姿を誰も見ていない。
翌日、伯爵の馬車とは別に、乗り合いのような馬車が用意されて、皆で乗り込む。
それから、二週間ほどかけてシュワード伯爵家に到着し、家人から睨まれることになる。
「伯爵さま。スキル持ちを見つけに行っていたのでは?」
家宰である、セバスディーはチラリと皆を見る。
大抵、連れてきても一人か二人。
だが、結構大きな子も含めて十人……
「いや、今回は色々あって探さなかった。それよりも彼らは…… あー。さてどうするか…… スキル持ちのように養子にするのか? それとも客人か? とりあえず、塾生達の寮が空いているな。服も見繕ってあげてくれ」
「はっ。承知いたしました。当座は客人で扱います」
「ああ、それでたのむ」
家宰のセバスディーにそう言いながら、伯爵は奥方への言い訳を悩んでいた。
『スキル持ちで、いい子が居れば連れてくる』
出かける前に、そう言ったが、スキルの有る無しはすぐにバレる。
「だが彼女なら、意味を分かってくれるだろう。娘のヘルミーナのためにも、それがいいだろう」
実の子供、娘のヘルミーナ。
それとは別に、スキル持ちの養子ヴィクトルが居る。
だが、この二人、相性が悪い。
伯爵家令嬢としてのプライドと、スキル持ちで養子となったヴィクトルのプライド。
ヴィクトルは、すぐに学園都市アルフィオの王立貴族院。つまり学園に入れたために家にはいないが、帰ってくる度に喧嘩である。
ヘルミーナは五歳だが、すでにスキルがあることは判っている。
「私がいるのですから、あいつは必要ありません」
とまあ、あいつ呼ばわりである。
伯爵はプライドの問題と、そう思っていたが、実はもっと根深いものだった。
娘は、幼いながらに、助けを求めていたが、彼は気が付かなかった。
「皆さんは、しばらくは客人として、こちらを利用してください。寮ですので、一部屋四人。一階に、食堂がございます。朝晩は出ます。外食を行う場合は前日に連絡をお願いします。ふろは、週一ですが、沸いてない日でも水浴びは出来ます。着替えは…… こちらで用意いたしますので、急遽湯を沸かします。入浴後、着替えてください。それまで部屋へは行かないように」
こうして、伯爵家に迎え入れられた。諸手を挙げて歓迎とはいかないようだが、スラムからは脱出できた。
家宰の反応から、自分たちの状況を思い直す。
「どうやら、予想以上に小汚い様だな。鏡が無いから未だに自分の顔すら判らん」
そして男女関係なく風呂に入り、ドミニク達にまで、先に体を洗ってから入れ―と怒鳴る始末。
結局ちびっ子達を手分けして洗い、疲れ切ってしまった。
そして夕食も、スプーンなどがあったので、使い方を教えて食わせる。
日も落ちて、普段なら寝る頃だが、伯爵の奥方が現れたので挨拶をする。
奥方はアウロラと申すものだが、明らかに伯爵よりも強い。
「ふーん。あの人が何をとち狂ったのか、折檻をする予定だったのだけど…… あなた何者?」
悩む。だが、此処で世話になる身。
バラした方が、ぼろが出た時に理解を得やすいか。
「スラム育ちのシン。いま七歳だが、昔の記憶がある。昔の名は、ラファエル=デルクセン」
「はあっ?」
流石に驚いたか…… 有名らしいからなぁ……
「本気?」
そんな事を聞いた彼女だが、おやっ? 雰囲気が変わった。
そう思ったら、いきなり魔法を発動し、その炎の奥でナイフを投擲。
右にサイドステップ。つまり俺から見て、炎の右にいた体が今は左にある。
これはスキルではなく、単なる身体能力。さらに、左手でナイフを投擲し、右前へ踏み込んで、勢いそのままで右の蹴り。
ちなみに彼女はスカートだ。
体重差があるため、受けてあげない。
俺から見て、炎が来ている方。
左からは彼女の右足が来ているが、炎を除け右に逃げると先ほどのナイフが、時間と距離を空けてやって来ているはず。
当然俺は踏み込み、本当なら膝を折るが、奥方にそんな事は出来ない。
だが、蹴り足は受け流しながら軽く持ち上げて、荷重の抜けた軸足を払う。
だがその状態で、すかさず回転をして、軸足が顔を蹴りに来た。
仕方ないので、持っていた蹴り足を放す。ぱっと……
当然体をひねろうとするが、空中に体は浮いている。
地面を突き体制を整えようとしたのだろう、伸びた手を、俺は足でそのまま蹴り払う。
「あっ」
顔面から、べちゃっと落ちる。
うん。手を払ったからね。
うつ伏せになった状態で動かないが、いまだ全身から何かを狙ってますオーラが滲んでいる。
周囲に、彼女の体を囲うように、ポツポツと火を灯していく。
「もうっっ。初対面なのにひどいわね」
「お互い様だ。ナイフは返す」
そう言って渡す。
それを見て始めて、彼女の目が見開かれた。
「いつの間に……」
「さっき、蹴り足を掴みに行く前」
そう言うと驚いていた。
その様子を、二階から見ていた目があった……
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