ツキも実力も無い僕は、その日何かを引いたらしい。- 人類を救うのは、学園最強の清掃員 -

久遠 れんり

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第三章 初等部

第32話 いくつかの失敗

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 周りの生徒のおかげで、あっさりと六階へ到着。
 そのまま、崖下へ降りていく。

「なんだここ?」
「近道だ」
 珍しく、マッテイスが驚いている。

 そして洞穴から、光の壁を抜けるとそこは森林地帯。
「こいつは……」
「十一階だ。行くぞ」

 そう言って、少し離れた木の根の元へと入って行く。
 複雑に絡まり合った、根の奥にそれはあった。

 また光の壁を抜ける。

「此処が、十六階。ここを素直に降りていくのも良いし、一度二十一階に降りてから、二十階へと戻ってもいい。どうする?」
 シンが皆に聞く。

「どうしよう?」
「楽なのは、一度降りてからだけど」
「でも、いきなり龍とやらと戦うのは少し……」
 皆が尻込みをする中で、ヘルミーナが、以外と真っ当な意見を出してくる。

「一度、水龍ウォータードラゴンを見てからにしましょう。勝てそうなら戦えばよろしいですし、駄目そうなら戻って少し訓練をいたしましょう」
「ああ、なるほど」
 出会って逃げ切れる前提だが、大丈夫だろうか?
 マッテイスはそう思ったのだが、口には出さない。

「では、こちらだ」
 湖の側、切り立った部分を飛び降りる。
 水辺の穴を通り、二十一階へと移動をする。

 そこから、少し離れた正規の階段へ向かう。

 この階には、地元のハンターもおらず静かなものだ。
「地元のハンターもいないのだな」
「そうだな。特別な依頼でも出なければ、きっとこないじゃろう。命優先だし、相対的にレベルが低い」
 そう言うと、皆が複雑そうな表情を見せる。

 シンに教えて貰った、本来の形。魔力の使い方。
 そして、自分で制御をする体術。

 スキル発動時の勝手な動きは、今の彼らには不安でしか無くなっていた。
 思えば、体が勝手に動き制御できない状況というのは、隙でしかない。

 一対一ならまだしも、複数いれば、横から剣一本でサクッと刺されて終わり。
 今では、それを理解できる。
 学園での授業では、それについてスキルを使う振りで、相手を誘い対処すると習う。
 つまりスキルの弱点を、先生方も知っているという事だ。
 なら、ある程度剣技を鍛えて、スキルを使わなくとも。
 そう思うが、それには幾年もの時間がかかり無駄だという。
 まあ個の才能というモノが関わってくるから仕方が無いが、この社会は、スキルありきで創られ、言い訳を五万と用意している。

 まあ、そんな事はいい。

 階段を上がり、二十階に上がると森が広がり、その中に滝がごうごうと音を立てていた。

「あそこじゃ」
 そう言ってシンは、滝壺に向かって石を投げる。
 順調に階を降りてくれば、待ち構えているのだが、逆からだと出てこないようだ。


「出てこんな」
 河原まで降りて、戦闘ステージに皆で立つ。

 だが…… 
 虫の声すらせず、滝の轟音だけが周囲に響く……
「戻りには出んのか?」
 これは、シンも知らなかったようだ。
 記憶を探る。
 そういえば、降りるときには律儀に出てくるが、帰りには見た記憶が無い。

「仕方が無い。一度階段まで戻って、降りてきてみるか」
 そう言ってぞろぞろと、十九階に向かう道を逆に辿る。
 だがそんなにせず、あるところを過ぎると、背後で大きな気配が湧き上がる。

「あっ出た」
 シンはそう言って、滝壺へ向かう。

「おう。おったおった」
 そこには、滝壺の所にとぐろを巻く水龍ウォータードラゴンが浮いていた。

「げっなに? 大きな蛇」
「違う。違う。あれが龍じゃ。ドラゴンではない」
 体を覆う鎧のような鱗。
 青く光を反射する。

「やっと出会えた。さあ、倒せ」
「「「えっ」」」
「ああ、そうだったわね。でもどうやって?」
 エルミーヌ達は呆然とする。

 相手は、体長二十メートルほど。
 こちらはぼーっとしているのに、何の言葉もなく、大きな口ががぱっと開き、いきなり水が噴き出される。
 お試しのような、直径五十センチほどの水の球。
 そいつが、ボフボフと着弾をする。
 河原の石が跳ね飛ばされて飛んでくる。

「どわー」
「きゃー」
「うわあ」

 そう言ってあわてる姿を、シンはシールドの中で見つめる。
 そんなに、威力は強くない水球。
 盾でもあれば、防げるだろう。
 奴が使う、本気の水系魔法だと、体は切られる。
 まだ様子見をしている様だ。

 だが背後に下がったり、下へ向かう道へ進もうとすると、強い魔法が容赦なくやって来る。

 昔は気が付かなかったが、やはりダンジョンというモノには、何者かの意思が反映をされている。
 それは、訓練なのか教育なのか?
 ただ、力が足りねば、死ぬ厳しさを持っておるが……

「早く倒せ」
「相手は、浮いております」
 珍しく、ヘルミーナが弱音を吐く。

「そういえば、蛇は嫌いだったか」
 そう言いながら、一度見本を見せようかと、シンは前に出る。

 その時、マッテイスは腰を抜かしていた。
 こんなモノ、人間が倒せるものじゃねえ。

 そんな中で、シンの声が聞こえる。
「先ずは剣技」
 そう言って、龍に向かい、斬撃を飛ばす。
 それは飛んでくる水球を切り飛ばし、龍にまで届く。
 だが、鱗は水による防御がされていて、斬撃を吸収するようだ。

 それを見てシンは……
「吸収されるなら、もっと強くする。こうして、こうじゃ」
 その斬撃には、魔力が乗り空間が軋んだ。

「あっ。今のは無し」
 そう言って、シンが手を伸ばすが、龍はすっぱりと切られて、消滅をする。

「ああ…… このくらい、耐えぬか馬鹿者……」
 消えていく龍に膝をつく……

「やり直そう」
 そう言って、もう一度エリアを出る様だ。
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