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第三章 初等部
第31話 クラス対抗、ダンジョン攻略戦。
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「皆さん。帰ってくるまでが、ダンジョン探索です。怪我のない様。持って帰れる素材は持ち帰ってください」
目の前で説明をしているのは、見たことのある女。
金級探索者チーム『ドラゴンダンジョンの守人』のマティルダだ。
学園の実習で、守人として雇われたようだ。
初等部は最高五階まで。
中等部は最高十階まで。
高等部は、集団戦で十一階まで。
そう、本当なら十一階から下は、プロの領域。
急に強さが変わる。
「それでは、高等部からダンジョンへ入れ。隊列は崩さずに行け」
一応先生が、三人ほど来ている。
各学部一人。
体験は、三日間。
そうスラムで暮らしていたときには、大嫌いだった行事。
学生が荒らすため、此処で生活をする者達は、強制的に休みとなる。
「これで毎年、お調子者が命を落とす。学園は意図的にやっておるのか?」
「さあ? 各家の思惑とかもありそうですね」
「やだやだ」
ジャマな家の嫡男を、秘密裏に消せる。
非常に便利な行事。
それっぽい奴らが、数人うろうろしている。
皆が順に突入をする中、幾人かが体調不良で抜けてくる。
そう、選抜メンバー。
高等部の連中が、低階層のモンスターを間引きつつ、先へ進む。
その後が中等部。
初等部がはいる頃には、かなり安全になっている。
まあダンジョン体験という意味合いが大きい。
ここでは、小さな子達がうろついている、一階と二階がメインの行動場所となる。
だが腕に覚えがあるもの達や、お調子者は下へと降りて怪我をする。
中等部の連中でも同じ。
高等部は、命令もあり。少し意味合いが違う。
話が来ている組織から、訓練メニューが来ているようだ。
多くは組織戦。
オークやオーガレベルに対する戦いを経験して、強い個体との戦闘方法や連携を学習をする。
初等部や中等部の学生が、ドキワクダンジョンツアーを行っているとき、救護所近くのテントに集まった者達は、少し意識を飛ばしていた。
「本気でしょうか? マッテイス様」
「俺に聞くな。シンが大丈夫だろうと決めたんだ。準備が出来たら行くぞ」
そう言ってシンを見る。
「先ずは二十一階層へ行って、二十階層の最奥へと戻り、水龍を倒す。二十一階層では、地中にワームがいるから食われるな。以上。行くぞ」
これには、クリスティアーノ達も呆然とする。
高等部に対する入ダンの注意でも、十一階まで降りるなら、危険だから引率の探索者と、行動を共にすることと言われていた。
「先ずは二十一階層って……」
モニカも愕然としている。
ドキワクな表情を見せるのは、ヘルミーナくらい。
ただそれも、危険な状態になれば、シンが助けてくれると全幅の信頼があればこそである。
皆に遅れて、普通に入ダン。
妙に早い足並みで、隊列を組み進んでいく。
身体強化を行い、限界を超えた体は筋肉が破断する。
それを、治癒魔法で再生。
ただ、あまりこの年でやり過ぎると、背が伸びなくなるのでそこそこで抑える。
周囲では、ゴブリンをキャアキャア言いながら、退治をしている姿が見える。
「皆さん。楽しそうですわね」
伯爵家令嬢、エルミーヌ=ロザリーは、周囲を見ながら微笑ましい感じで頬を緩める。
エルミーヌがそう思えるのは、今だからこそ。
去年までは、誰かの後ろでひたすら隠れていた。
「生き物を殺すのですか?」
「モンスターだ。殺さねば殺されるだけ。お前は伯爵家だそうだな、民がモンスターに襲われたときに、ただ逃げるのか? そんな事をすれば、お前達は、民の手により殺されるであろう」
初等部へ入り、ダンジョン攻略戦前に先生から言われた言葉。
母親からは、かわいいお嫁さんになりなさい。
小さな頃、そう言って育てられた。
花を愛で、かわいい生き物を見てほのぼのと喜ぶ。
だが、スキルを得た途端に、生活は変わる。
「ほら、あそこに兎さん」
額に角がありますが、その行動はとても愛嬌がある。
畑に植わっている作物を幾つも引っこ抜き、一番大きなモノを気に入ったのか、カジカジと囓っている。
「かわいいですわね。お母様」
「きっと美味しいわよ。はい、狙って」
そう言って優しい母は、弓と矢を渡してくる。
「あんな、かわいい動物を殺すのですか?」
そう聞くと、お母様の表情が変わる。
「あなたは、モノの一面しか見ていません。あれはかわいくても、作物を食べ、人も襲います。小さな子どもなら、それでも良いですが。学園へ行ってそんな事を言えば、あんたってバカ? と言われ、誰からも見捨てられ、寂しい人生を歩み、野垂れ死ぬことになります。おわかり?」
そこに優しく、ぽわぽわした母はいなかった。
「殺れ!!」
母はびしっと指をさす。兎に向かって……
「はい……」
兎さんは美味しかったけれど、一口で後は食べることが出来なかった……
だが、学園に入っても、性根はかわらない。
幾度も経験したダンジョン探査だが、人の後ろに隠れて過ごしてきた。
だが、突然誘われた選抜部隊。
彼女はこの短期間の間に、自身に訪れた経験を思い出す。人間、自分が幾度も死ぬと、性格が変わるのね。
攻撃をされる。それは、痛く、辛く、苦しいもの。
敵を殺さねば、自分だけではなく、守るべき者達にあの苦しみを経験させることになる。
即死ならまだ良いが、盗賊などが相手だった場合、辛く苦しい人生が待ち受ける。
いえ…… あれは人生とは呼べない。
盗賊のアジト。そこで見た、被害者達の生活。
そこにあったのは、道具としての生活。壊れない程度に餌を貰い生きていた。
「ちょっと行こう」
誘われて訓練を始めたが、私たちの心構えに、何かを思ったのか急遽決まった勉強会。
「あそこの集落は、盗賊のアジトだ。そこで現実を見て理解しろ」
練習がてら、殲滅をした盗賊のアジト。
そこでは、自分の知らなかった蛮行が行われていた。
男も女も、人の尊厳は、力の上に成り立つもの。
自身が強いか、守ってくれる者が側にいる場合のみ、人は人として暮らせる。
弱き者は…… 人として扱われなくとも仕方が無い。
「独りよがりの世迷い言は、自分だけではなく皆を不幸にする。それが、無知な上で発せられた物なら最悪な結果しか出さん」
国でも領地でも良い。上が何も知らずに統治をすれば、それは、きっと大丈夫とモンスターの巣に突っ込んでいく。そんな蛮行と同じ。
シン様が仰った、世の異変。前兆であると知っていれば防げても、上が無知なら、全員が地獄を見る。
それが、この世界の現実……
「俺達は、それを何とかしようというのだ。強く賢く。とりあえずエルミーヌ。お前は一度死んでみろ。それが嫌なことだと理解できるだろう」
ええ、圧倒的な理不尽。理解いたしました。
「殺られる前に殺る」
ヘルミーナ嬢のように、笑顔で……
目の前で説明をしているのは、見たことのある女。
金級探索者チーム『ドラゴンダンジョンの守人』のマティルダだ。
学園の実習で、守人として雇われたようだ。
初等部は最高五階まで。
中等部は最高十階まで。
高等部は、集団戦で十一階まで。
そう、本当なら十一階から下は、プロの領域。
急に強さが変わる。
「それでは、高等部からダンジョンへ入れ。隊列は崩さずに行け」
一応先生が、三人ほど来ている。
各学部一人。
体験は、三日間。
そうスラムで暮らしていたときには、大嫌いだった行事。
学生が荒らすため、此処で生活をする者達は、強制的に休みとなる。
「これで毎年、お調子者が命を落とす。学園は意図的にやっておるのか?」
「さあ? 各家の思惑とかもありそうですね」
「やだやだ」
ジャマな家の嫡男を、秘密裏に消せる。
非常に便利な行事。
それっぽい奴らが、数人うろうろしている。
皆が順に突入をする中、幾人かが体調不良で抜けてくる。
そう、選抜メンバー。
高等部の連中が、低階層のモンスターを間引きつつ、先へ進む。
その後が中等部。
初等部がはいる頃には、かなり安全になっている。
まあダンジョン体験という意味合いが大きい。
ここでは、小さな子達がうろついている、一階と二階がメインの行動場所となる。
だが腕に覚えがあるもの達や、お調子者は下へと降りて怪我をする。
中等部の連中でも同じ。
高等部は、命令もあり。少し意味合いが違う。
話が来ている組織から、訓練メニューが来ているようだ。
多くは組織戦。
オークやオーガレベルに対する戦いを経験して、強い個体との戦闘方法や連携を学習をする。
初等部や中等部の学生が、ドキワクダンジョンツアーを行っているとき、救護所近くのテントに集まった者達は、少し意識を飛ばしていた。
「本気でしょうか? マッテイス様」
「俺に聞くな。シンが大丈夫だろうと決めたんだ。準備が出来たら行くぞ」
そう言ってシンを見る。
「先ずは二十一階層へ行って、二十階層の最奥へと戻り、水龍を倒す。二十一階層では、地中にワームがいるから食われるな。以上。行くぞ」
これには、クリスティアーノ達も呆然とする。
高等部に対する入ダンの注意でも、十一階まで降りるなら、危険だから引率の探索者と、行動を共にすることと言われていた。
「先ずは二十一階層って……」
モニカも愕然としている。
ドキワクな表情を見せるのは、ヘルミーナくらい。
ただそれも、危険な状態になれば、シンが助けてくれると全幅の信頼があればこそである。
皆に遅れて、普通に入ダン。
妙に早い足並みで、隊列を組み進んでいく。
身体強化を行い、限界を超えた体は筋肉が破断する。
それを、治癒魔法で再生。
ただ、あまりこの年でやり過ぎると、背が伸びなくなるのでそこそこで抑える。
周囲では、ゴブリンをキャアキャア言いながら、退治をしている姿が見える。
「皆さん。楽しそうですわね」
伯爵家令嬢、エルミーヌ=ロザリーは、周囲を見ながら微笑ましい感じで頬を緩める。
エルミーヌがそう思えるのは、今だからこそ。
去年までは、誰かの後ろでひたすら隠れていた。
「生き物を殺すのですか?」
「モンスターだ。殺さねば殺されるだけ。お前は伯爵家だそうだな、民がモンスターに襲われたときに、ただ逃げるのか? そんな事をすれば、お前達は、民の手により殺されるであろう」
初等部へ入り、ダンジョン攻略戦前に先生から言われた言葉。
母親からは、かわいいお嫁さんになりなさい。
小さな頃、そう言って育てられた。
花を愛で、かわいい生き物を見てほのぼのと喜ぶ。
だが、スキルを得た途端に、生活は変わる。
「ほら、あそこに兎さん」
額に角がありますが、その行動はとても愛嬌がある。
畑に植わっている作物を幾つも引っこ抜き、一番大きなモノを気に入ったのか、カジカジと囓っている。
「かわいいですわね。お母様」
「きっと美味しいわよ。はい、狙って」
そう言って優しい母は、弓と矢を渡してくる。
「あんな、かわいい動物を殺すのですか?」
そう聞くと、お母様の表情が変わる。
「あなたは、モノの一面しか見ていません。あれはかわいくても、作物を食べ、人も襲います。小さな子どもなら、それでも良いですが。学園へ行ってそんな事を言えば、あんたってバカ? と言われ、誰からも見捨てられ、寂しい人生を歩み、野垂れ死ぬことになります。おわかり?」
そこに優しく、ぽわぽわした母はいなかった。
「殺れ!!」
母はびしっと指をさす。兎に向かって……
「はい……」
兎さんは美味しかったけれど、一口で後は食べることが出来なかった……
だが、学園に入っても、性根はかわらない。
幾度も経験したダンジョン探査だが、人の後ろに隠れて過ごしてきた。
だが、突然誘われた選抜部隊。
彼女はこの短期間の間に、自身に訪れた経験を思い出す。人間、自分が幾度も死ぬと、性格が変わるのね。
攻撃をされる。それは、痛く、辛く、苦しいもの。
敵を殺さねば、自分だけではなく、守るべき者達にあの苦しみを経験させることになる。
即死ならまだ良いが、盗賊などが相手だった場合、辛く苦しい人生が待ち受ける。
いえ…… あれは人生とは呼べない。
盗賊のアジト。そこで見た、被害者達の生活。
そこにあったのは、道具としての生活。壊れない程度に餌を貰い生きていた。
「ちょっと行こう」
誘われて訓練を始めたが、私たちの心構えに、何かを思ったのか急遽決まった勉強会。
「あそこの集落は、盗賊のアジトだ。そこで現実を見て理解しろ」
練習がてら、殲滅をした盗賊のアジト。
そこでは、自分の知らなかった蛮行が行われていた。
男も女も、人の尊厳は、力の上に成り立つもの。
自身が強いか、守ってくれる者が側にいる場合のみ、人は人として暮らせる。
弱き者は…… 人として扱われなくとも仕方が無い。
「独りよがりの世迷い言は、自分だけではなく皆を不幸にする。それが、無知な上で発せられた物なら最悪な結果しか出さん」
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それが、この世界の現実……
「俺達は、それを何とかしようというのだ。強く賢く。とりあえずエルミーヌ。お前は一度死んでみろ。それが嫌なことだと理解できるだろう」
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