ツキも実力も無い僕は、その日何かを引いたらしい。- 人類を救うのは、学園最強の清掃員 -

久遠 れんり

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第三章 初等部

第34話 砂漠の主

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 シン達は翌日、二十五階を目指す。
 砂龍サンドドラゴンを倒すためだ。
 実習は三日しかない。

「もう明日の昼には、上に上がっておかんと、置いて行かれる。海龍シーサーペント炎龍フレイムドラゴン氷龍アイスドラゴン達も倒したかったのじゃが無理か」

 目の前には、蟻地獄トラップアントの巣が、大きな口を開けている。

「これは何ですの?」
 マリレーナが不思議そうに、眺める。
蟻地獄トラップアントという、モンスターの巣じゃ。落ちたら、容赦なく砂をかけられる。弱いが、服などボロボロにされるぞ」
「それは、ひどいですわね」
 そう言って、マリレーナはなぜか胸を抱える。

 サンドブラスターと言えば良いのだろうか、風と土魔法で砂を結構な圧力でかけられる。
 さっきシンは服と言ったが、その時には、生身も削られてひどいことになる。
 獲物が頂上付近まで逃げると、ニードルまで使うし、結構怖いモンスターなのだ。

 さて問題は、派手に上がっている土煙。
 誰かが、砂龍サンドドラゴンと戦っている。

 まあ予想は付くが、彼らだ。

「セレーナ、周りに水を撒いて」
 そんな事をすると……

 この辺りの砂は細かい。
 水を撒くと泥になってしまう。

 盛大に、サンドブレスと言って良いのか、砂が撒き散らかされ、視界が閉ざされる。

「彼らは、何者でしょうか?」
「昨夜会ったが、イングヴァル帝国の探索者だそうだ。修行がてら来たと言っていた」
 その動きや攻撃を見ていて気がつく。

「彼らスキルを使っておりませんね」
「ああ元農民で、なんか理由は分からんが、力を得たから試しているようだぞ」
「なんか力を得た?」
「そう。何かあったのだろう」

 基本彼らは、無手。
 攻撃方法は、力と魔法だが要領が悪く、力押し。

「あの二人の攻撃をよく見ていろ」
「「「はい」」」
 真面目に、皆が返事をする。

「悪い見本だ」
「えっ?」

「ほら連携が取れず、ちぐはぐだし、簡単なフェイントに騙されて、攻撃の軸線に並ぶから、一発で二人がやられる」
「あの、シン様」
「なんだ?」
「助けた方が良いのでは?」
 心配な感じは、エルミーヌじゃなくとも分かる。
 だがしかし、なのだ……

「人が戦っているのに、横やりはなぁ」
「あの女の人、色々なものが見えて、あまり良くない感じになっていますけど」
「ああブラストを喰らうと、ああなるんだ。覚えておけ」

 仕方が無いので、シンが近付く。
「おおい。手は必要か?」
 それを見て、龍のブラストがシンに向かう。
 シールドを張って、軽くいなす。

「はやっ。一体どうやって?」
 セレーナはそう言いながら、炎の槍を龍に撃ち込む。

 そこでやっと、グスターも自分たちの状態に気が付いたようだ。
「げっ。セレーナ。服」
 セレーナはグスターに言われて、体を見る。
 そうそこに、ほとんど布はなく……
「いやあぁぁ」
 気を抜いたセレーナは、ぼふっとブラストをさらに喰らい、ゴロゴロと砂の上を飛ばされる。

 それを見て、シンは軽く首を振ると、雷を落とす。
 砂龍サンドドラゴンは、それをまともに食らって、墜落をする。

 足場は悪いが、そこに皆が突進をして切り刻む。

「悪いな。獲物を盗ってしまった」
「いやいい。もう体もボロボロだ」
 確かに、ブラストで削られて、体中傷だらけで、血が滲んでいる。
 水を与えるついでに、体を洗い傷を癒やす。

「これは…… ありがとう」
 セレーナも、あわてて服を着ながら、水を受け取る。

「ああ、ひどい目にあったわ」
「彼らが、昨日テントにいた子達かい?」
「そうだけど」
 その中に、大人が一人。
 セレーナと目が合うと、にへっらと笑う、マッテイス。

 その視線に気が付き、あわてて、彼女は後ろを向く。
 この時彼女は、装備にもう少しお金をかけることを誓う。

「いやあ、大変でしたね」
 マッテイスが和やかにやって来る。
 その後ろで、たこ殴りになっていた、砂龍が最後の声を上げる。

「あの子供達。強い」
「ええまあ。今訓練中なので…… 見学をされます?」
 シンは、この二人が才能だけ。
 つまりは、魔力のごり押しだけで戦っているのが惜しくて提案をした。

「少し休憩をしておくよ」
 そう言っている間に、アレクセイが龍のお代わりを出すためにエリア外へと走る。

 リポップをする砂龍。

 出てきた途端に、四方八方から水魔法が降りそそぐ。

「すごいね。あれがスキルかい?」
 グスターが、目をキラキラさせながら聞いてくる。

「スキルの魔法も使ってはいるが、先ほどの目くらましがスキルじゃな。他の攻撃部分は本人の使う魔法。スキルではあんなに威力はない」
「そうなのかい?」
「二人なら、基礎的な魔力操作を覚えると強くなれる。今まで習ったことがなくて我流じゃろ」
「そりゃまあ」
 そう言って、グスターとセレーナが見つめ合う。

「教えるからやってみろ。魔力操作はすべての基礎だ」
 そう言ってシンは、魔力操作。身体強化。魔法を使うときのイメージの重要性を教えていく。

 変に貴族が持っているようなプライドもこだわりもなく、教えてもらえることが嬉しいのか、二人は熱心に指導を受ける。
 ついでに、体術の基本と、剣術への応用も教えておく。

「すべてはバランスと、誘導。先ほど教えたように、指先だけでとか目線だけで誘導が出来る。これは強者になればひっかりやすい。弱い奴はそんなものを見ていないからな」
「へー、フェイントによる誘導ねえ」
「魔物でも、強い奴は引っかかる。そんなことを考えながら倒してみろ。ただ漫然と倒しても強くはなれん」
「解りました」
「じゃあ試してみろ。おおい。場所を変われ」
 シンは、嬉々として龍退治をしている皆に声をかける。
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