ツキも実力も無い僕は、その日何かを引いたらしい。- 人類を救うのは、学園最強の清掃員 -

久遠 れんり

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第四章 中等部

第48話 ダンジョンの異変

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 それは海の底で起こった。
 熱水鉱床を通じて噴き出す魔素。

 その濃度が跳ね上がった。
 階層ごとに必要な濃度は大体決まっている。
 上階で濃度が濃くなると、モンスター達も影響を受け、急激に増えるし変異もする。

 そう帝国で、人すら姿が変わったように。
 鉱床の周りにはローパー達が湧いていた。
 イソギンチャクのようなモンスター。
 動きは速くなく、毒を持つ。
 種類ごとに、毒性も違う。

 彼らは、有り余る魔素を吸収し、五倍程度まで体が肥大化をして、大量の毒を放出し始めた。

 逆に、ダンジョンの深い階層では魔素が足りなくなる。
『ああっ? なんだこりゃ。またどこかぶっ壊れやがったな』
 深い階層に囚われている上位モンスター達は理解する。

 雑なダンジョンシステムは、適当な時期に壊れる。
 修復機能が働き、数年もすれば直るのだが、その間に氾濫は起き大騒ぎとなる。

 そして、一年も経つと超深層の高位のモノは別として、それより少し上階の者達が動き始める。
 そう階段を上がれる程度のサイズの者達。

 その中で、水妖が一人。
 力があり、そのまま力をつければ、ウンディーネとなり水を司ることが出来た精霊のような存在。

 だが何を思ったのか、此処に住み着き、水の女王として君臨をしてしまった。
 そして魔素濃度が薄くなるのに従って、彼女の機嫌は悪くなる。

 ふらふらと、上階へと上がっていく。


 シンは最近少し悩んでいた。
 ヘルミーナの攻撃のせいで、ホルモンが爆発をしているのか、奇妙な夢を見る。
 モンスターを、少女として生まれ変わらせ、喜ぶ自分。
 その少女は、驚異的な魔法を扱う。
 前の人生にそんな経験はない。
 では何時の経験だ?

 送り込まれたリッチの能力。それと共に多少の記憶までが、移動をしていたようだ。

「ああっ。お兄様が何かを考察されていらっしゃるわ」
「ああ。そうだな。ヘルミーナはよく飽きないな」
 つい、モニカはそんな事を言ってしまった。

「あっやべ」
 無表情で、ヘルミーナの首が回り始める。
 こちらを向くと、かぱっと開く口。
 そこから、延々と紡がれる昔話。
 そうそうれは、本当に延々と……

 もう、シンについて、かなり細かなところまでモニカも把握をしている。

 だけど普段のシンは、厳しい鬼。
 控え室で会う時間が増えると、厳しいだけではないことが理解できた。
 皆を見つめる目は優しく。
 どこか、おじいさんが、孫を見るような……

 普段なら、常時気配を感じ、起こることのない事故が起こる。
 シンと、ぶつかりそうになった!!

 モニカは、訓練じゃないため、気がぬけていた。そう、いつものこと。
 だが、珍しいことに、シンまでぼけていた。

 身体操作で、受け流され、ふわっと包まれる。
 その時、シンから何か精神波が出ていたのか、モニカは頭からお尻まで何かに貫かれ腰砕けになる。
「ふわああっ」
「ああ。すまぬ」
 そう、それは本当に、珍しい光景。

 立てないモニカは、椅子に座らされる。
 絶対不可侵の場所へ……

「モニカ?」
 自身の場所。
 そこに、モニカが座っている。

「何だ、席次が決まっていたのか? 彼女腰が抜けていたようだから座らせたのだが」
 シンは困ったように、ヘルミーナに聞く。
「あっいいえ。良いんですのよ」
 そう答えるヘルミーナに、そっと後ろから声が聞こえる。

「珍しいことに、シン様がぶつかりそうになって」
「ええ見たわ。モニカを抱きしめると、モニカは腰砕けに」
「あれが、噂に聞いた殿方との逢瀬」
「逢瀬は、会うだけでしょ。目合ひまぐわいとか言う行為でしょう。腰が抜けると聞き及んでおります」
 こそこそと、カティとイッザベラが話し込む。
 彼女達も、モニカの取り巻きをしていて、訓練を受け始めた。

「お二人とも、つまらないことを言わないこと。腰が抜けたからと言って、目合ひまぐわいにはなりません。はしたない」
 ヘルミーナはご機嫌斜めだった。

 最近自分から抱きついても、お兄様から抱きつかれることはない。
 後でモニカに抱きつけば…… 駄目ね。

 そんなことを思っていたヘルミーナ。

 モニカはモニカで悩んでいた。
 腰が抜けた。
 他の男性と訓練中に絡み合ったり、ダンスのときには多少密着をする。
 だけど腰が抜けるようなことはない。
「抱きしめられたとき、キツくはなかった。まるで包み込むような…… それなのに」

 そっと知り合いに聞く。
「抱かれるだけで、腰が抜けるなら恋よ。お気持ちを理解される前に、お体が欲したのね。情熱的ですこと」

 うん。事態はややっこしくなっていく。

 まあ貴族。
 婦人の一人や二人問題は無いだろう。
 シンが貴族であれば。



 そんな頃。
 フィリップ商国での騒ぎは収束を見せず、何に毒が含まれているのかが不明で、すべての物流が止まった。

 特に塩は死活問題であり、この国が、商国として生き残る生命線だ。

「どうやってでも良い。確かめろ」
 こうして、たまたま捕らえられた盗賊達は、豪勢な食事をふるまわれる事になる。
 だが、結果はひどかった。

「盗賊どもに食させた結果、全滅でございます」
「何だと、十階まですべてか」
「はっ」
 商国代表、イザーク=マハーレクは頭を抱え込む。

 無論それは、フィリップ商国だけの話ではない。
 アルノシュト王国が、この機にフィリップ商国を潰すため画策を始める。
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