ツキも実力も無い僕は、その日何かを引いたらしい。- 人類を救うのは、学園最強の清掃員 -

久遠 れんり

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第四章 中等部

第61話 エンフィールド王国のある日

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「おうさまぁー」
 王城の廊下を、年老いた宰相が、ぜいぜいと息を切らせて走ってくる。
 迎える王も、五十歳を向かえ、ぼちぼち引退の年。

 王は、王妃との間に娘しか生まれず、第二王妃を娶り、三人の子を残した。
 そして、第一王女イェシカは二十八歳になるのに、もらい手が決まらず困っていた。

 そんな折に急報。
「ダンジョンらしきものが発見され、さらに現在、絶賛氾濫中でございます」
 息絶え絶えで報告がされる。

「何ダンジョン? 氾濫。速やかに治めろ」
 急がなければ…… そう思い、王は命令を出す。

 だが宰相は、困る。
「どうやって、でしょう?」
「王国軍を使ってもかまわん。いそげぇ」
 と、言うことで、いままでダンジョンが無かったこの国。
 一大事となる。

 モンスターの小規模な湧きはある。
 だが、それとは規模が違う。

 ギルドは当然巻き込み、大騒ぎとなる。

 基本的に、獣除けしかないこの辺りの村。
 そして、以外と困ったのが盗賊達。
 住処は山の中。

 人知れず、小山が出来上がり、それはぽっかりと口を開けていた。

 たまに、獣たちが珍しそうに入っていったりした。
 だがクマにとって、ゴブリンはまずかったらしい。
 この数年、めっきり近寄るものはいなくなっていた。

 そして、満を持して氾濫が始まった。
「うぇーい。そとだぜぃ」

 そんな感じで、次々とモンスター達が出てきた。
 なに黙って、人の縄張りに入っとんじゃぁ。
 そんな感じで、熊や狼も戦ったが、相手の数が多く、面倒になり逃げた。
 弱くても数にはかなわない。

 そして、盗賊達。
「今日も楽勝だったな」
「この辺りの探索者や兵達、へぼですからね」
 そんな喜びの舞を踊っていたとき、妙な振動に気が付く。

 それは徐々に大きくなり、山側に砂煙と共に、ちらちらとモンスター達が見える。
「やべえ。にげろー」
 彼らは、すべてを放り出して逃げていく。

 この盗賊達は小物で、周囲には奴隷の販路もないため人質はいない。
 たまに娘を捕まえて、あそんだ後は逃がしていた。

 そう、つまらない殺しをすると、兵達も本気になる。
 そこら辺りは踏まえていた。

 だがまあ、街道側へ出て、逃げ出す彼らを見逃してくれるわけもない。
「おまえら盗賊だな」
 巡回中の兵達が見つけて止める。

 だが足音はもうそこまで来ている。
「モンスター、氾濫だぁ」
「なに?」
 そう言うやいなや、モンスター達の先頭が、街道へ飛び出してくる。

 当然ながら、盗賊は放り出したまま、兵達は馬の腹をける。

「大変だぁ。あんな数みたことねえ」
 手分けをして、途中の村などにもよりながら、避難を促す。
 町に着くとハンターギルドと、町長。
 そして早馬が、各方面へとまた飛び出していく。
 領主への連絡。
 そして、援軍の要請。

 とにかく、山を埋め尽くすモンスター達。
 初めての経験。だったのである。

 そうこの日、穏やかで、静かな王国はなくなり、氾濫が落ち着いた後、ハンター達が押し寄せ、獲物を狙うダンジョン王国となってしまった。

 そこに力の無い、ほのぼの盗賊達はいなくなった。

「おらあ。金出せや」
 街道を行く、数人の前に飛び出す盗賊たち。

「ああ? 盗賊か」
 そう言った男達は、盗賊よりも悪人面の探索者達。
「俺がやるぜ。この前、剣を新調したんだ」
 盗賊達を見て、武器を抜きながら一歩前に踏み出してくる。
「なら俺もやるか」
 そして別の奴も……

「…… うわあぁ、こいつら人でなしだ逃げロー」
 そんな世界になってしまった。

 まあ、事が起こって四日後、王城へと連絡が届いた。
 そうして、慣れない兵達は、勝手が分からずにフル装備で出発。フルプレートを装備して出撃をする。

 そして、行軍の疲れがピークになってきた一週間後、門を閉ざした町とモンスターの群れに出くわす。
「モンスターだ。行け。町を守れ」
 必死だった。フル装備の彼ら、以外と移動に時間がかかり、兵糧が厳しかった。
 だが、相手は訓練相手ではなく、モンスター。特に広範囲に広がったのはゴブリンや、コボルト達。
 だがすでに、メイジやキングなどが生まれ。強力になっている。

 スキルを使い、応戦するが、四方八方からくる敵。
 不慣れな彼らがかなうはずもない。

 だが、王国兵も専業の者達が二千ほど出ていた。
 かなりのモンスターを退治していく。

 そう激戦といえるだろう。
 ただモンスターは、途切れることなくやって来る。

 モンスター達もダンジョンから飛び出したときとは違い、力のある者達は遊びながら、ぷらりぷらりと、まるで物見遊山のようにやって来る。


 必死で戦う兵の頭上。
 いきなり空を、魔法が埋め尽くす。
 シャーマン達を統率するもの。
 そう、キングがやって来た。
 身長は、優に二メートル。
 小型のオークのような体躯。

「くっ」
 足下と頭上。
 同時攻撃を受けて、隊列が崩れ始める。
 そこに、飛び込んで来始めるゴブリン達。

 慣れない王国兵達は、押され始める。

 町の壁の上で、それを見ていた兵や関係者。
 門の内側で、土嚢を再び積み上げ始める。


 それからあまりせず、外では悲鳴が聞こえ始めた。

 それから先、この町の門が開くのに、一月以上の時間が必要だった。

 そんな間にも、通れる街道を通り、付き合いがある外国へと馬が走っていく。
 王からの書状を携えて。
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