ツキも実力も無い僕は、その日何かを引いたらしい。- 人類を救うのは、学園最強の清掃員 -

久遠 れんり

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第四章 中等部

第64話 奇跡は必然

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「ありゃなんだ。攻撃だ。とにかく、魔法でも矢でもいい。撃てぇ」
 そうそいつらは、静かにやって来た。

 軽快なトトッと言う音。
 とても、巨大な生物が出すような足音ではなかった。
 体は、しなやかに動き、重力の呪縛を無効化するような。

 だが実際は、闇のような体。
 赤く燃える瞳。
 巨大な体を揺らし、奴らは集団でやって来た。

 彼らは城郭都市に対して数回に分けて、遊ぶように攻撃をしていたところ。
 少し来ない間に獲物が増えている。
 それを見て彼らは喜ぶ。

 野郎共、行くぜ。
 散開して囲めとでも命令があったのか、彼らは周りのモンスターを蹴散らし、広がってくる。

 当然、フォン・クルバトフに来て少し気が抜けた彼ら、黒い塊を見て大騒ぎになる。
「ありゃあ、無理だ逃げろ」
 近くにいた者達は、町の中へと駆け込んでいく。
 パニック状態。
 突き飛ばされた者達が、道に転がる。

 そして、ベルナルトの繰り広げるラブシーンと、ロイスの繰り広げる悲劇。
 いや、喜劇だろうか。

 ともかく全員、一目見てあれは駄目だと諦めた。

 そこに追い打ちのように降りそそぐ雷。
 そして広がるオゾン臭。

 だがその雷は、正確にモンスター達だけを撃ち抜いていた。
 いつの間にか、強く抱き合っていた、ロイスとエミーリヤにサーロヴァ。
 そっと目を開けると、燦然と翻るさんぜんとひるがえるコンラート王国旗。

 元気はつらつな軍隊。
 そしてその中に、びしっとした兵装をしたカミラ。
 シンではなく、大人の事情でマッテイスが隊長となり特別支援部隊として紛れ込んでいた。

 そしてさっきの雷は、当然シンだ。
 元気はつらつな、オルトロスグループがシンの一撃でへろへろとなり、周りのモンスターを押しつぶしながらのた打つ。

「いっ。いまだぁー。攻撃をしろぉ」
 色々な隊に対して命令が飛ぶ。

 逃げだそうとしていた各人員。あわてて隊列を組み走り始める。

「しばらくあわないうちに、モテモテじゃないか」
 嬉しそうな顔でカミラは、ロイスに声をかける。

 ロイスは、いやらしい気持ちで、二人に抱きついたわけではない。
 もうだめだと思ったとき、守るための行動。
 それは、二人も理解をしていた。
 大きくがっしりとした腕。
 それに包まれたとき、本能なのか吊り橋効果の力か、エミーリヤにサーロヴァは体の奥が反応をした。
 だが今は、それは内緒だ。

「あーロイス。大丈夫だから放して」
「ああ。悪い」
「そっちは?」
「ああ前にチームに居た、カミラだが、今兵隊なのか?」
 そう聞かれて、隊証とバッジを見せる。
 それは貴族の証。
 男爵号を貰った。

「カミラ男爵だ。頭が高い」
「「「えっ。ええっ」」」
「カミラ、現場で遊ぶな。久しぶりだな。息災か?」
「あっああ」
 ギルドで見たときと違い、底知れない恐ろしさと迫力をシンから感じる。
 戦場のため、少し力を解放しているのが分かるのだろう。

 おかげで、弱いモンスターは近寄ってこない。
 まだ十三歳くらいの少年。
 だがその目は、しゃべりながらも、正確にモンスターと人々の流れを感じていた。
 時折動きを見せ、魔法が撃ち込まれる。

 あるものは、横から来たオークに押し込まれ、殴られる寸前。

 あるものは、オーガを囲み、切り出す切っ掛けを掴もうとしていた者達。
 そこにピンポイントで攻撃が来て、速やかに攻撃に入る。
 そして苦戦していたのが嘘のように戦場全体の流れが変わる。

 そこへ出てきたのが、頭が三つ。
 不甲斐ないオルトロスをいさめるためか、ケルベロスが咆哮を上げる。

「やかましい」
 どこからか、かわいらしい声がかかると、颯爽と登場したケルベロスの首が落ちる。

「うわああああぁ」
 歓声が広がる。
 誰がやったのでもいい。人は、勝てる。
 戦場のみんながそう思い、鬨の声を上げた。

 人々が、一つの生き物のようにうねりとなってモンスター達を駆逐していく。

 そう、一つの軍が到着しただけで流れが変わった。

 まあ派遣をされるまで、少し色々あったが。

 王国としては、ダンジョンを空っぽにするわけにはいけない。
 無論周辺の領兵も同じだ。
 今回、存在しなかったところにダンジョンの発生。
 コンラート王国だけが知っている、ディビィデ山脈で発生したダンジョン。
 あれは、突発的なもので他には無いだろう。
 そう思っていた矢先にこの報告。

 世界的な異常が、やはり発生している。
 王は確信した。
 キラーンと……
「デルクセン殿に…… シン殿に依頼をぉ」
「お待ちくだされ、彼の国に恩を売る好機。王国として軍を送り込み、我が軍の強さを見せつけるのですぅ」
 そんな王と宰相の茶番があり、王国軍に特別参加をしたシン達だったが、それに親達が便乗をした。
 
 シュワード伯爵家に命令が下り、一組は派遣に参加。
 そしてもう一組は、国内の新ダンジョン探査。
 そんな命令が下る。
 そしてもう一つの家。
 モニカの実家。
 ビョルク伯爵家にも同じ命令が来る。

 無論娘のおかげというのは判っている。
 王命を果たすのに尽力をする。

 さてさて、いざ行軍をすると、両家の馬までもが規格外。
 兵も尋常ではないスピードで走る。

 スキル持ちのエリート達が、ボロボロと抜け落ちるのもかまわず、エンフィールド王国へ到着。
 勝手に王へと挨拶を行い、最前線へと飛び出した。

 そう王国旗を翻してはいるが、本当の本隊はまだ国内へ入っていない。
 だが、その分評価は高かった。

「コンラート王国軍。強え」
 そう此処には周辺国が入ってきている。
 当然、コンラート王国恐るべしという情報は、大陸中に広がることになる。
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