ツキも実力も無い僕は、その日何かを引いたらしい。- 人類を救うのは、学園最強の清掃員 -

久遠 れんり

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第五章 人は生き残れるのか?

第79話 領地探訪

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 ついでだから王都を観光して、その間に代官を探して貰う。

 だが、知っているかい?
 都合よく、代官など落ちてはいない。
 信用ができて優秀な人材は、普通囲い込まれて、離して貰えないものである。

「どこかに、野良の代官が落ちていないものか?」
 その言葉に、二人が反応をする。
「「御父様に聞きましょう」」
 ヘルミーナとモニカが答える。

 そっち方面は、ローラやカミラは役に立たない。
 ただ観光を楽しむのみ。
「あっち、美味そうな匂い」
 きゃーっと走っていく。

「あっちの服ステキ」
 きゃーである。

 そんな中、この世の不幸を背負い込んだ男が一人。
 知らない間に、シンにすべてを奪われた男。
 マッテイスは、とぼとぼとみんなの後を付いていく。

 だがそんな彼に、希望の光となる言葉が投げかけられる。
「コロリニャちゃんに、お土産は買わなくていいのか?」
 串焼きを頬張りながら、カミラが聞いてくる。

 そう聞かれて、極小の蜘蛛が吐き出す、わずかな幸福の糸を掴むため、彼は再起動した。
「贈り物、何が良いかな?」
 そう聞かれて、カミラは答える。
「美味しいもの?」
 彼女は貧しかったため、食い物に執着がある。

「やはり、珍しい鉱物では?」
 珍しくモニカが意見を言う。
「鉱物って…… 石は希少ですが、それを貰って喜ぶ女性はあなたぐらいでしょう。加工して装飾品として、完成されたものならまだしも」
 ヘルミーナが突っ込む。

「それを言いたかったんだけど、言葉が出なかったのよ」
 相変わらず、モニカは伯爵令嬢らしくない。

 田舎の武闘系の家で育つから、矯正しても家に帰る度に、野生児になって帰ってくる。

「シン、時間をくれ、何か探してくる」
 彼はそう言って、走った行った。

 その夜、宿泊する宿に現れた、マッテイス。
「どれが良いと思う?」

 買った物は、幾種類かの服はいいとして、下着や化粧品。
 鍋や刃物類、店で使いそうな木製カップなど。
 
「結局、結局装飾品は買わなかったのか?」
「装飾品は、工房によって特徴があるからな、足が付きやすいんだ」
「うん? コロリニャ殿に買うのでは無かったのか?」
「そうだが?」
「なぜおぬしが買ったのが、ばれて困る?」
 そう言っても、きょとんとしている。

「それに、どのくらい親しいのか判りませんが、下着とかを送るほどのお相手なのでしょうか?」
 ヘルミーナが突っ込む。

「えっ、いけないのか?」
「普通は…… 旦那様ならまだしも。ねえっ」
「あたいは、シンに買ってもらったぞ」
 カミラがさらっと言う。

「あなたは、お兄様に全部買って貰いすぎです。自分のお給金が出ているはずでしょう」
「出ているけどさ、何かあると困るし、買ってって言えば買ってくれるし」
 カミラ達がフィリップ商国から来たとき、あまり金も持っておらず、破れ掛けた服でも平気だし、下着も洗った時には着けずにうろうろしていて、シンが買い始めたからだ。


 その後、立場ができてからも、たかっていたようだ。
 無論変装用は、必要経費として申請をするが。
「もう、甘やかしすぎです」
 
「この中でまず最初に渡して問題無さそうなのは、カップ類とかでしょうか?」
「それなら、土産として貰っても、相手も気を使わぬ程度だろうな」
 とりあえず、そういう事で収まった。

 マッテイスは潜入捜査をしていたはずだが、はて一体今までどんな捜査方法をしていたのか。
 シンは少し心配になる。

 潜入なら、相手により自分を変えなければならない。
 無論贈り物なども、関係性などを考慮して行ってきたはず。
 少しではなく。かなり、マッテイスに対して不安感を持った瞬間である。

 翌日、とりあえず貰った領地を見に行くことにする。

 元々は、伯爵家が管理をしていた領地のため、そこそこ広い。
 日本なら淡路島程度はありそうだ。

 王都から少し南東側。
 街道から少しそれた所から、ディビィデ山脈へと接するあたりまで。
 元の領主は、カスト=クレツィオ伯爵で、今回直接は関わっていない振りだが、代官をさせていた男爵達に、命令をして関わっていたようだ。

 俗に言う教唆と言われる。逆らえない立場の者達を、悪事と知りつつ金儲けの為に、積極的に関わらせていたようだ。

 それがバレて、今回本人に罪が及んだ。

 街道からそれると、途端に田舎となるのはいいが、見える村々が手入れされておらず、開墾をした畑が荒れ果てている。

 そう人が居ない。

 そうして、二日くらいで領主のいた町へ到着するが、活気など全くない。

「これは、領主が捕まったときに、みんな出奔しゅっぽんをしたのか?」
「さあ、どうでしょう? それにしても暗い感じですわ」

 路地裏はゴミに埋もれ、すえた匂いが広がっている。

 領主の館はそれに比べて、訳の分からない調度品があふれていた。床には、毛足の長い織物が引かれ、いくつかの部屋には高そうな毛皮が敷かれていた。

「ああ、これはあれだな。典型的なバカ領主だな」
「そうだな、自分のためだけに予算を使い、領民から吸い上げまくった駄目な領地。今回捕まってよかったな」

「そうですわね」
 みんなの顔が、あきれかえっていた。
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