ツキも実力も無い僕は、その日何かを引いたらしい。- 人類を救うのは、学園最強の清掃員 -

久遠 れんり

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第五章 人は生き残れるのか?

第82話 狙われたシン

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「モニカはどうしている?」
「例の子に張り付いて、デルクセン領へ赴いているはずですわ」
「そうだ。恐れ多くもデルクセン領を許可された小僧。聞く所によると侯爵と言うでは無いか」
 シュワード伯爵家と並び、勇名を馳せるビョルク伯爵家。
 モニカから伝えられた奥義により、その名がさらに高まった。

 ただ、モニカにそれを伝えたシンと言う者は、シュワード伯爵家の関係者だと知り複雑な思いをしていた。

 だが、いつの間にか貴族になり、いつの間にか陞爵しょうしゃくを繰り返し爵位で抜かれてしまった。
 そして、噂に聞いた旧領主エインゴイースト家の領地。
 我が儘から、すべてを食いつくし、今回悪事に手を染めたと聞いた。

 拝領を受け、家名を名乗り始めたが、よりにもよってデルクセン家。
 現王の、英雄好きは有名。
 それが、あの家名で許可を出した。

 それは信じられない事である。
 モニカの父エドアルトは、使えない頭を使い考える。
 基本は、猪突猛進の力がすべて、筋肉は己を裏切らないというのが信条。

 妻であるアデールは余計な事は言わず、のんびり屋ではある。

 そして、家宰フォルカー=シュヴァイツも元は武勇を馳せた者。
 そう、シュワード伯爵家よりもさらに脳筋度が高い。

 特色のない田舎で、傭兵派遣で外貨を得ているような領である。

 モニカがスキルを得て学園へ行ったが、二つ下の弟にはスキルが無かった。
 だが、弟ウォルトは、それでも長男。
 家庭教師を雇い、教育は受けさせた。
 その中で、モニカが伝えた奥義。
 それは、スキルの有無は関係が無い。

 ウォルトは喜び、狂ったように修行をして、今では立派な脳筋となった。
 筋肉は友達、己を裏切らないと、真顔で言うくらいには。
 幼い頃は、モニカに泣かされながらも、お姉ちゃんと追いかけ回していた。
 どちらかと言えば、引っ込み思案で泣き虫だった。

 それが、今では意味も無くポーズを取り、鏡を見てうっとりする変態へと変化? 成長をしていた。

「嫁に出し、繋がりを作るか」
 ない頭を使い、最適解を導いた。
 シンは使える。
 繋がりを作らなくては。

 父エドアルトは手紙をしたためる。
『モニカへ。シンとやら、寝ておるときに襲え。既成事実並びに子でもなせば、うちに連れてこい。婚姻を進めよう。父より』

 そんな事を書き、子の作り方を、モニカにも分かる様にとの、心遣いだろう。
 詳細な図を用いて、説明を送ってきた。

 家からの手紙を受け取り、モニカは何の気なしに、みんながいる控え室で手紙を開く。そして、なぁーとか言いながら、見事にひっくり返った。
 手紙と、ほとんど春画のような指南書。
 まず最初に、自身の身体を刺激し、十分に潤すべし。
 その間に、殿方のモノも使えるようにしなければならない。
 刺激をすれば、固くなる。然すれば使用可能なり。
 手法としては、手や素股、口などを用いて……

 どんな顔をして、父上がこんなものを書いたのか?
 そして父上は、深く含んで貰うのが好きと書いてある。

 今度帰って、どんな顔で……

「あら? 家からの命令…… ご冗談が過ぎますわね。お兄様を襲えなどと」
 拾った手紙に目を通し、ヘルミーナは、冷たい目をモニカに向ける。

 だが同じような手紙を、すでにヘルミーナも受け取っており、同衾を願いだしかかっては、恥ずかしくて躊躇する事を繰り返していた。
 そのため、モニカを牽制しつつ、腹をくくるヘルミーナだった。

 そんな家は、当然この二家だけではない。
 モニカと仲がよいアンジェリーナのモンテヴェル男爵家、カティの実家ミュリエル男爵家、イッザベラの家クレメンティ男爵家なども、会話の端々にでてくる、シンという名に覚えがあった。

 そして王国において、デルクセンの家名は、大きな衝撃を与えた。

 シンとは誰だ?
 職務上秘匿された立場と、家名が好奇心を刺激をする。
 当然領名は、開発と共に王国内に広がり有名になる。

 デルクセンの魔導具。
 主要部分である、魔導回路はどうしてもシンが作るが、がわ、つまりケースとかに関しては作業員に任せた。

 そしてそれは量産され、周囲に広がっていく。

 特に汎用性が高い魔導ランプ。
 従来品より、さらに効率が高くあかるい。
 魔導コンロ。魔導扇風機。
 これらは、鉱夫が使っていた物が目をつけられて広がっていった。

 魔導扇風機は、本来坑内の空気循環用である。
 魔導コンロは、迂闊に火が使えないから。
 主要部分は同じで、形は市販向けに改良がされる。

 気が付けば、魔導具の生産でも有名になっていく。

 未舗装だった街道も整備され、石で舗装をして雨天でも困らなくなった。
 そして宿場町と商店がおおよそ三〇キロごとに出来上がる。
 これは許可を出したら、自然にできた。

 問題は、まだ代官が見つからない事。
 毎日のように学園と、領地を往復をする生活。

 そして、シュワード伯爵家の奥方アウロラ様から呼び出しが来ていること。
 この頃シンは、多忙で死にそうになっていた。
 人間離れした体力が無ければ、この激務に耐えられないだろう。
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