ツキも実力も無い僕は、その日何かを引いたらしい。- 人類を救うのは、学園最強の清掃員 -

久遠 れんり

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第五章 人は生き残れるのか?

第86話 デルクセン領

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 王子達が来る二年も前の話。

「ふん、此処がそうか」
 モニカが妊娠をしたと聞いて、ビョルク伯爵家から父エドアルトと母のアデールが馬車でやって来た。

 結婚の儀があった時は、家を出たらなぜか到着をしていた。

 当然魔導具だ。
 現在、ビョルク伯爵家にも設置されている。

 馬車の窓から見える光景は、どこの領も変わらず畑が……
「なんだあれは?」

 刈り取りをしている麦畑。

 奇妙な箱が動いている。
 箱はコンバイン。
 刈り取りと脱穀を自動で行い、ムギの種子はそのまま倉庫へと転送される。

 人が居なかったこの領では、最低限の人で最大の効率を求めて、積極的に機械化を行った。

 本来、収穫は人を集めて、中腰で行う刈り入れ。
 とてもきつい作業である。
 まあ穂だけを摘み、後で刈り払う方法もあるが、苦労は一緒だ。
 疲れる刈り入れと、その後、運搬など重労働があった。

 それがここでは、畑の四隅に魔導具を置き、本体を起動させるだけ。
 魔導具が周囲を確認をして、その区画を自動で刈ってしまう。

 人は一応の監視として、一人居れば良い。

 そう此処では、人が重労働から解放されていた。
 他の野菜達も同じ。
 他の領では、農民の食べ物で、貴族があまり好まない根菜類や葉物野菜も、優先的に栽培。

 シールドが張られ、中では温度管理までされている。

 農業区画が終われば、工業区画。
 そこでは、部材工場と組み立て工場で分離管理を行い効率化と、秘密の漏洩を行っている。
 その周囲には、食堂や飲み屋が建ち並び一大繁華街ができていた。

 実はそこから少し離れれば、養殖場や、縫製場、牧場などがあり、人々が忙しく働いていた。

 当然、ビョルク伯爵は見たことがない光景であった。

 そして見えてきた町。
 その奥に領主の館が存在をしていた。

 セキュリテイのため、関所があり止められる。
 その兵一人一人が見慣れない装備に身を包み、立ち姿だけで鍛えられていることをビョルク伯爵は見抜く。

「むう、当家の兵も鍛えたと思ったが、こやつら強い」
 動き出した馬車の中で、腕組みをして唸り始める。
「それほどですか?」
「ああ。強いな」

 門から、庭を通り玄関へ。
 優雅に曲線を描いたアプローチ。

 屋根付きの昇降場から、執事達に迎えられる。
 だがこの者達も強い。
 ずっと、うむむと唸るばかり。

 玄関ホールから、通常ある大階段が見えず、壁に向かって進む。

 ドアを開け、くぐるとまたドア。
 そこから出ると、いつの間にか、三階へと移動をしていた。
 その先にある無骨なドアを入ると、ゲストルームとなっていた。

「此処で少しお待ちください。すぐにお茶を用意いたしましょう」

 そう言って、壁に作り付けられた開き戸を開くと、その中でお茶を入れ始める。
 芳醇な紅茶の香りが部屋に広がる。

 今回、ここに来たのは二人だけのため、すぐに供される。

 見事な白磁のカップ。
 美しい、金の装飾がされ、見たことのない菓子が二人の前に並ぶ。
 まるで切り株のような姿。
 そうバームクーヘンだった。

 時間を掛け、窯で焼かれた逸品。
 焼いたところに生地をかけ、また焼くを繰り返す。
 意外と手間がかかる。

「まあ美しい器、それに、この道具は何かしら?」
「ナイフとフォークにございます。右手でナイフ、左手でフォークをお持ちになり、必要分を切り取って食してくださいませ」

 そうこの世界、まだ手掴みてづかみが多い。

 多少苦労をしながら、二人は食べ始める。

 此処の世界、ある程度発展すると壊される。
 そのため、文明もある程度で破壊されてしまう。
 シンの知識は、異界のリッチ、アンラ=マンユの持っていた常識があり、一気に領の文化レベルを引き上げた。

「御父様、御母様」
 モニカがやって来た。

「おおっ、走るで無い」
「バカですかあんた達は」
 モニカは開口一番叱りつける。

「なんだその良い様は」
「なんだじゃありません。馬車でなど、転移すれば一瞬なのに、わざわざ」
「いや、この領内を見たくてな」
「転移でこちらへ来てから、見に行けば良いでしょう?」
「あっ」
 夫婦揃って驚く。

 そんな事に気が付かなかったようだ。
 そう、連絡をしてから、三週間ほどかかっていた。
 道中の他領では盗賊も出れば、モンスターの襲撃もある。
 そう思った以上に危険なのだ、幾らエドアルトが強くとも絶対大丈夫とはいえない。

 そう妊婦さんに、心配事は御法度。

 丁度、つわりもあり非常に機嫌が悪かった、その日娘のために来た夫婦は、二時間程度説教という会話を楽しんだようだ。
「なぜ御父様は、馬鹿で浅慮なのですか、領地の経営についてもシン、旦那様に必ずお伺いをしてください。勝手をしなければ、シュワード伯爵領ももっと発展いたします」

 とうとう、領の運営までダメ出しを喰らう。

 そう、結婚をして、ヘルミーナとも家族として話をし始めた。
 比べる子どもの頃の生活。
 同じく、武の名門貴族として勇名を馳せていたが、父が脳筋と称するシュワード伯爵家の方が良い生活。
 モニカは、自分の家が貧乏だったと理解をした。
 自分で、川魚を獲っていたし。

 こうして、シンは実質管理をする領が、拡大をしていくことになる。

 そして、エドアルトは、ウォルトが成人後すぐに家督を譲る。
 シンが言っている言葉が、理解ができなかったようだ。
「良いですか、すべてにおいて投資したものは、利益というリターンが無ければそれは無駄です。道楽なら別ですが、ここも。ここもただ金を捨てている。あらかじめ、計画段階で採算ベースを設定して……」
「あーうん。後は、若い者同士で話をしてくれ。年寄りには理解できん」

 父エドアルトこの時三七歳。
 家督を継いでから、己の直感のみで領地を経営していた男。
 シュワード伯爵を脳筋と言っていたが、彼こそが、真の脳筋であった……
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