ツキも実力も無い僕は、その日何かを引いたらしい。- 人類を救うのは、学園最強の清掃員 -

久遠 れんり

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第五章 人は生き残れるのか?

第94話 異物

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 バンパイヤの眷属となって、強化されたオークやオーガ。
 彼らは強力だった。
 低位の探索者や兵では、倒せない。

 特に、オーガは強く。数人がかりが基本だが、肉体のリミッターが外された眷属個体はさらに強い。
「だめだありゃ。早いし固すぎる」
 人々は、後退して城郭へと閉じ込められていく。

 ただ問題は、流通が止まり中で籠もっていても、数ヶ月は持たない。

 日々顔を突き合わせ、会議のみが繰り返される。
 だが、この状況を打開できる画期的な案など、都合良くは出ない。

 唯一、兵達が囮となり住民を逃がす事。
 だが、何処に行けば安全で、食料があるのかは分からない。

 現在の配給は、一人ひとつかみの小麦粉。
 水でとき、焼いて食べる。
 子ども達などは我慢ができず、親は自分の分を与える。

「なあに、すぐにすぐに助けは来るさ」
 父親は、水で空腹を紛らせ、そう言って笑う。

 眷属化したモンスターは夜眠らない、昼夜続いていた鳴き声が止まったことに住民は気が付く。

「何があった?」
 城郭の上で警備していた兵に聞く。

 答えはあっさりとしたもの。
「助けが来た。でも、二〇人くらいだ、あれじゃあ……」
 そう、外には数千のモンスターがいる。

 援護に矢を射てみるが、矢自体も少ない。
 多くは撃てない。

「行くわよ」
 ヘルミーナの取り巻きだった、ヘルガが隊長の隊。

 部隊編制は五〇人の小隊だが、この地区の村も見に行っている。
 優先すべきは、城郭のない村々。

 町に近付き、剣を抜くと一閃。
 それだけで、目の前にいるモンスター達、十数匹の上半身と下半身が分かれる。
 だが、眷属化をしたものは、それ位では死なない。

「面倒。浄化」
 周囲を白い光が埋め尽くす。

 それを浴びたモンスターは、まるで燃やされたように、灰となって崩れ始める。
「なあに? ゾンビばかりなの?」
 そう眷属化をしたモンスターが、陽光の下行動をしているのには秘密がある。
 システムの介入。

 隠れ場所が無いと、夜に眷属が増えても昼に死に絶える。
 これでは、人を利するだけじゃないかと考え、バンパイアに干渉。
 本人を改造すると、なぜか不死性とかが失われたので、眷属の方に日光耐性を何とか付与した。
 そう、彼らは耐日光と耐物理攻撃のシールドを纏っている。

 なぜか同じ事が、バンパイヤは出来ない。
「ええい無能め」
 謂れ無いいわれない事で、システムに叱られたバンパイヤ達。
 それでも、誘導に従い仕事はする。

 人を殺せ、殲滅せよ。
 そんな言葉が、頭の中に暗示として繰り返される。

 ザッザと隊列を組み、人を探して殺していく。

 そうそれは、思った以上にうまくいった。
 昼夜問わない波状攻撃。
 人は寝ないと生きられない。

 どんどん追い詰められ、壁の中へと籠もった。

 計画というほどでも無いが、後は、殲滅あるのみ。
 バンパイヤは、中で眷属を増やすか、壁を壊すか考えていた。
 中に入ると、聖魔法使いがいるかも知れない。
 それだけは困る。

 そう、三日ほど思案をしていただけなのに、状態はガラッと変わる。

 三日など、長命種のバンパイアにすれば一瞬。その一瞬の思案が人間側に救いを与えた。

 「大陸全体だから、人数が足りないわね」
 ヘルミーナからの命令を受けた、ヘルガ、ユスティーナ、レジーヌ、エメは五〇人ずつの小隊で散らばっていく。

 危険だが仕方が無い。

 新王都はカーベムローカスと名をつけられた。
 古代語で、要を意味するらしい。

 町の防衛設備を済ませたシンは、出撃を始める。

 ヘルミーナとモニカは、自身の実家へ応援を連れて参加。

 本格的に、人側の反撃が開始された。

 ヘルガ達は、周囲に浄化の光をばら撒きながら、モンスターを殲滅をしていく。
 そう、少数二〇人程度が、周囲のモンスターを殲滅をしていく。

 それを見ていて、町の兵もつい出ていこうとするが、隊長に止められる。
「あいつらをよく見ろ、剣技だがスキルじゃない。それに聖魔法を纏っている。お前聖魔法が使えるのか?」
「いえ使えません」
「ならば、彼らのじゃまをしないのが、俺達の仕事だ、見ていてやばそうなら矢を射てもいいが、無用だろうなあ」
 そう彼らは、剣技と魔法を複数併用している。

 スキル使用時には、何もできないためスキルであるはずはない。
 ただ型としては、見たことのあるものが入る。

 自力の剣技。
 それは、どこまでも自由で、描く曲線は美しかった。
 隊長は、その軌跡に魅入ってしまう。
「美しい……」

「はっなに? 寒気が今?」
 隊長の思いは、ヘルガに拒否されたようだ。

 彼女達の隊は、偵察後に集合して、その数を増やす。
「残念ですが、村はもう全滅です。見つけても浄化をすると、村人は…… バンパイアとゾンビばかりでした」
「そうか、町はなんとか生き残っているようだ。助けるぞ」
「「「はっ」」」

 彼女達は、驚異的な強さでモンスターを駆逐してしまう。
 町の門が開かれ、中へ入ると、町長のところへ赴く。

 そして、魔導具が設置され、王都の広場に繋がるゲートが開かれた。
 これで、籠城戦は無敵となる。
 必要な食料が、王都から転送されてきた。

「よし、これで騒動が収まるまで、門を閉じて籠城をしておけ」
「はい」
 町長は、冷や汗を流す。

 彼は最初、助けて貰ったのに、救援が遅いだの文句を言った。
 だが彼女は相手にせず、無言で魔導具が設置されて、オッサンが出てきた。
 そう、王であるイグナーツ。頭上でキラリと光る立派な王冠。

 横に控える宰相が、彼の身分を町長に伝え、町長が土下座をする中で、そう彼女。
 王に対して、控えることがなく立つヘルガに対して、親しそうに勅命を下すところを見た。
 つまり、通常の常識からすると、王に謁見をして平気な彼女は公爵とか侯爵級。上から目線でオラオラ言った自分は、身分的に遙か下であると理解した。
 なんでそんなお方が、前戦で戦闘をしているんだよぉ。
 もう彼の心臓はバクバクである。

 本来の身分的には、男爵位で同じだが、そんな事は彼は知らない。
 ただ、無礼打ちにならないかを、祈るばかりであった。
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