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第五章 人は生き残れるのか?
第96話 希望の光
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「もうだめだ」
見渡す限り、モンスターしか歩いていない。
その兄妹は、畑の横に掘られた、芋の貯蔵庫に隠れていた。
入り口は木の蓋がしてある。
大人達は、子ども達を逃がしながら農具で戦ったのだが、基本探索者とは違う。
幾度かの戦争経験はあるため頑張っていたのだが、次々に食われていった。
だが、どのくらい経っただろう。
ドアの隙間から、強力な光が差し込んでくる。
「大丈夫か?」
優しい声が聞こえる。
ドアが開くと、髪を束ねた銀髪の青年が優しく笑っていた。
石板型の魔導具を操作すると、空間が歪んだ。
そして、そこに押し込まれる。
「避難民だと伝えろ」
そう言って、空間の揺らぎがなくなった。
妹の手を引き、総合案内と書かれたテントへと向かう。
「すみません、避難民です」
「あら、僕たち二人だけ?」
気が付いたお姉さんが、問いかけてくる。
僕たちとは違い、上等な服を着た綺麗な人。
「はい」
「幾つなの?」
「僕が十歳で、妹は八歳です」
そう答えると、にっこりと笑い、宿舎付きの学校へと入学させられた。
ここでは貴族だけではなく、平民も教育を受けられるそうだ。
食堂でご飯が食べられて、制服など着るものも支給。
「ここでは、料金とか必要が無いんでしょうか?」
「ああ特に必要ない。領主様がやり手でな。大きくなったらこの領のために頑張って仕事をすれば良い」
先生はそう言って教えてくれた。
そう此処は、僕たちの住んでいた村と全然違う。
苦労をしていた耕す作業など大変なものは魔導具が行い、農民は魔導具がおかしくないか見張るだけ。
家族総出で、頑張っていた畑仕事。
そんな景色はない。
収穫をしても、大半を持って行かれることもなく、きちんと収入となる。
そう、日本よりも待遇が良い。
日本じゃあ、大半は兼業で、仕事をして稼いだ金をつぎ込み米を作る。
農家のプライドだけにぶら下がった生産基盤。
あげく収穫時期に盗まれれば、自衛してくださいの言葉だけ。
警察は動かない。
まあ続ける人は、これからどんどんと居なくなるだろう。
それに比べて、この領は……
そう何もかもが、常識外れ。
学生も公務員扱いで、初等、中等、高等、専門、研究と給料が出る。
赤点といって、不可があると減らされるらしい。
そのかわり、何かがあったときは、学生もかり出されるが、手伝いだけ。
色々なことに、実地で関われるのは評判が良いらしい。
些細なことしかできないが、助かるよとか、ありがとうという声を聞くと自分でも役に立つのだと嬉しくなる。
あの年、世界は大きく変わった。
うちの領主様は、世界を司るシステムを改良をしたとも聞いている。
それをしなければ、人類は滅んでいたとも……
詳細は、上の人、それも一握りだけが知っている事実。
僕は、嬉しそうに学校でのことを喋る、妹の頭をそっとなでる。
そう、あの時世界は……
「それ。今のうちにお逃げなさい」
世界が、凍り付く。
クリスティアーノ=ベイエルスは、『絶氷の貴公子』と呼ばれる術士となっていた。
あのトイレで虐められていた面影など、みじんもない。
「はい、ありがとうございます」
彼女達はそう言いながらも、クリスティアーノに目を奪われる。
細面の美男子。
どこか影を持った、憂いを持った顔。
すべてを押しつけ、あんたなら一人で大丈夫よねと、町を僕一人に任せるなんて、ぐれてやるぅー。
彼が、クールに見える頭の中で、そんなことを考えているなど、思いもよらない。
ただ彼は、強くなっていた。
モンスター達は一瞬で凍り付き、続く衝撃で粉砕をされる。
強くなっていたのは、彼だけではない。
「正面、門を閉めろぉ」
アレクセイ=フロリーク準男爵が叫ぶ。
ひ弱だった面影はない。
あの特訓の日々が彼を強くした。
そう、あの中では自分は弱い。
そんな事を思っていた。
だが実戦に出ると、自分が非常識に足をつっこんでいることを理解する。
「あの人達はもう……」
そう他の連中は、もっと非常識な強さを持っていた。
魔力が乗った剣の一振りで風が起こり、モンスター達がダース単位で粉砕される。
その様子を、城壁の上から見ていた人々は驚喜する。
突破され、壊されていた門が、急ごしらえだが閉ざされ修復される。
中に入っていたモンスターは、マリレーナ=レナータが対処している。
虐められていた彼女。
ある日誘われ、秘密特訓へ参加。
その日から、彼女は変わる必要ができてしまった。
何せ、校長先生すら口が出せない。
王家からの勅命で、情報の秘匿。
そう同級生からの、小貴族故のいじめなど些細なことになった。
そして特訓の成果は、同級生達をねじ伏せる。
圧倒的な力。
すぐに、彼女を馬鹿にするものは居なくなった。
複数で囲まれ、反撃をしたこともあった。
絶対、処分が下る……
だが、相手にのみ処分が下る。
いくつかの家が、文句を言ったようだが、それもすぐに収まった。
そう、貴族には寄親という、持ちつ持たれつのシステムがある。
その上の方から、命令が来とか……
その時は知らなかったが、今なら分かる。
シン様は、王のご友人。
そう弱小貴族の我々にとって、救世主だった。
その恩を返すため、私たちは頑張る。
今度は私たちが、光となれるよう。
見渡す限り、モンスターしか歩いていない。
その兄妹は、畑の横に掘られた、芋の貯蔵庫に隠れていた。
入り口は木の蓋がしてある。
大人達は、子ども達を逃がしながら農具で戦ったのだが、基本探索者とは違う。
幾度かの戦争経験はあるため頑張っていたのだが、次々に食われていった。
だが、どのくらい経っただろう。
ドアの隙間から、強力な光が差し込んでくる。
「大丈夫か?」
優しい声が聞こえる。
ドアが開くと、髪を束ねた銀髪の青年が優しく笑っていた。
石板型の魔導具を操作すると、空間が歪んだ。
そして、そこに押し込まれる。
「避難民だと伝えろ」
そう言って、空間の揺らぎがなくなった。
妹の手を引き、総合案内と書かれたテントへと向かう。
「すみません、避難民です」
「あら、僕たち二人だけ?」
気が付いたお姉さんが、問いかけてくる。
僕たちとは違い、上等な服を着た綺麗な人。
「はい」
「幾つなの?」
「僕が十歳で、妹は八歳です」
そう答えると、にっこりと笑い、宿舎付きの学校へと入学させられた。
ここでは貴族だけではなく、平民も教育を受けられるそうだ。
食堂でご飯が食べられて、制服など着るものも支給。
「ここでは、料金とか必要が無いんでしょうか?」
「ああ特に必要ない。領主様がやり手でな。大きくなったらこの領のために頑張って仕事をすれば良い」
先生はそう言って教えてくれた。
そう此処は、僕たちの住んでいた村と全然違う。
苦労をしていた耕す作業など大変なものは魔導具が行い、農民は魔導具がおかしくないか見張るだけ。
家族総出で、頑張っていた畑仕事。
そんな景色はない。
収穫をしても、大半を持って行かれることもなく、きちんと収入となる。
そう、日本よりも待遇が良い。
日本じゃあ、大半は兼業で、仕事をして稼いだ金をつぎ込み米を作る。
農家のプライドだけにぶら下がった生産基盤。
あげく収穫時期に盗まれれば、自衛してくださいの言葉だけ。
警察は動かない。
まあ続ける人は、これからどんどんと居なくなるだろう。
それに比べて、この領は……
そう何もかもが、常識外れ。
学生も公務員扱いで、初等、中等、高等、専門、研究と給料が出る。
赤点といって、不可があると減らされるらしい。
そのかわり、何かがあったときは、学生もかり出されるが、手伝いだけ。
色々なことに、実地で関われるのは評判が良いらしい。
些細なことしかできないが、助かるよとか、ありがとうという声を聞くと自分でも役に立つのだと嬉しくなる。
あの年、世界は大きく変わった。
うちの領主様は、世界を司るシステムを改良をしたとも聞いている。
それをしなければ、人類は滅んでいたとも……
詳細は、上の人、それも一握りだけが知っている事実。
僕は、嬉しそうに学校でのことを喋る、妹の頭をそっとなでる。
そう、あの時世界は……
「それ。今のうちにお逃げなさい」
世界が、凍り付く。
クリスティアーノ=ベイエルスは、『絶氷の貴公子』と呼ばれる術士となっていた。
あのトイレで虐められていた面影など、みじんもない。
「はい、ありがとうございます」
彼女達はそう言いながらも、クリスティアーノに目を奪われる。
細面の美男子。
どこか影を持った、憂いを持った顔。
すべてを押しつけ、あんたなら一人で大丈夫よねと、町を僕一人に任せるなんて、ぐれてやるぅー。
彼が、クールに見える頭の中で、そんなことを考えているなど、思いもよらない。
ただ彼は、強くなっていた。
モンスター達は一瞬で凍り付き、続く衝撃で粉砕をされる。
強くなっていたのは、彼だけではない。
「正面、門を閉めろぉ」
アレクセイ=フロリーク準男爵が叫ぶ。
ひ弱だった面影はない。
あの特訓の日々が彼を強くした。
そう、あの中では自分は弱い。
そんな事を思っていた。
だが実戦に出ると、自分が非常識に足をつっこんでいることを理解する。
「あの人達はもう……」
そう他の連中は、もっと非常識な強さを持っていた。
魔力が乗った剣の一振りで風が起こり、モンスター達がダース単位で粉砕される。
その様子を、城壁の上から見ていた人々は驚喜する。
突破され、壊されていた門が、急ごしらえだが閉ざされ修復される。
中に入っていたモンスターは、マリレーナ=レナータが対処している。
虐められていた彼女。
ある日誘われ、秘密特訓へ参加。
その日から、彼女は変わる必要ができてしまった。
何せ、校長先生すら口が出せない。
王家からの勅命で、情報の秘匿。
そう同級生からの、小貴族故のいじめなど些細なことになった。
そして特訓の成果は、同級生達をねじ伏せる。
圧倒的な力。
すぐに、彼女を馬鹿にするものは居なくなった。
複数で囲まれ、反撃をしたこともあった。
絶対、処分が下る……
だが、相手にのみ処分が下る。
いくつかの家が、文句を言ったようだが、それもすぐに収まった。
そう、貴族には寄親という、持ちつ持たれつのシステムがある。
その上の方から、命令が来とか……
その時は知らなかったが、今なら分かる。
シン様は、王のご友人。
そう弱小貴族の我々にとって、救世主だった。
その恩を返すため、私たちは頑張る。
今度は私たちが、光となれるよう。
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