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第二章 人類復活計画

第10話 秘密組織と展望

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 目の前で、また金属の塊が吹っ飛んでいく。

 実は俺達も、あれのテストには参加をしたことがある。
 最初の千メートル走をこなせなくって、思いっきりキラキラを振りまき、『おまえは首だ』そんな宣言をされた。

 館野守、二十八歳。
 元下級兵士。この世界、大戦があってから、国も人々も考えが変わった。
 あるとき、どこかの大国が、世界に向けて宣言。我が国は一方的な攻撃を受けた。反撃をする。

 国際組織が調査に入る暇も無く、武力を持たない国は、攻撃をしたと言いがかりをつけられて消滅をした。そこまでは良い。だが、その周辺国にもどさくさに紛れ、戦渦は広がる。明らかに侵略国が攻撃をしているのに、被害国の誤射だろうで世論を無視する。装備や制服がおまえの所だろう。そう伝えても、そんなものは、欺瞞だろう一言で終わり。

 近隣の国が発する世界へ向けての助けを求める声が、気に食わなかったのか、『平和が』とか『平和を』と言って、『右の頬を打たれたら左の頬を差し出せ』。それを実践した国は、すぐに攻撃を受けて、そして、わずか数日で蹂躙されつくされて消滅をした。当然同盟国の救援や準備など間に合わない。

 この時、世界から平和という願望。思い込みは消滅した。
 そして、自国で軍備を平時から準備をしていないから、救援が間に合わなかった、非常に遺憾だ。そんな声が、同盟国から出される。
 むろんこの時には、その国は滅んでいるから、発言が百八十度変わっていても問題は無い。力無き者は、話をする暇無く滅ぶ。

 よくニュースになる、何かあれば警察に連絡をしてください。
 被害者の、加害者への抵抗は認めない。到着が間に合わず、亡くなっていれば、全力で捜査はいたします。規模は違うが、そんな状態。

 情報化されていた社会。その様子はリアルタイムで流され、言葉の通じない獣のような存在が、国家として存在をしていたことを理解する。
 訴えかける人々に、聞く耳持たず一方的な暴力と蹂躙。
 それを目にして、始めて理想と現実の違いを理解する。

 攻撃したら反撃されてもっと悲惨になる? だが、何もしなければ、全滅。
 悪を利するだけ、目の前で家族友人がなぶられ殺される。
 そのリアルが、ネットを通じて世界に流れた。

 そして人々は、理解する。平和は、お互いの凶悪な暴力により、その均衡の上に成り立っている。
 そんな常識を理解した。


 そんな世界で始まった、志願兵制度。
 下級兵士というのは、一般募集兵。
 二等兵から始め、軍曹が最高位。

 丁度職にあぶれた館野守は、二十四歳の時に会社がいきなり倒産して、困った末。志願する。ほんの軽い気持ちで。
 衣食住が保証されている。

 だが、一般人が思っているよりも、この世界はすでに壊れていた。

 海洋から、地上の偵察。
 そして、土壌や海水。そして生物。
 サンプル採取をして、船へ戻れば良い。

 そんな簡単なお仕事。
 いくつかの班単位で、現地で散らばる。
 目的物を採取していると、騒ぎが聞こえる。

「なんだ?」
 陸側を見ると、女性が、よく分からない化け物に襲われている。

 速やかに、陸で土壌採取をしている者達が、対応する。
 被害者が、怪我をしているそうで、船へと送られた。
 普通なら、何も問題にもならない行動。
 だが、船に乗っていた数百名は、全員ゾンビとなって下へ降りてきた。

 見知った奴らを撃ち殺し、班の奴らと必死で戦った。

 だが、弾も尽き、ナイフで倒す。

 奴らは疲れなしだが、こっちは違う。生理現象もある。色々垂れ流しながらの戦闘。やがて、油断とも言え無いミス。噛まれた。
 隊の奴に頼んで、噛まれた左腕を落として貰う。

 そんな、もう諦めかけた時、通信が来ない船を確認しに、別の船が来た。

 そして助けられて、俺は隔離された。
 腕は切ったが、噛まれたのは事実。

 そうして、腕をなくした俺は、研究所へ回される。
「君、左手が無いね。欲しくない?」
「そりゃ、欲しい。ですけれど」
「それは良かった。うんうん。軍人なのも都合が良い。こっちだ、付いてきなさい」

 そうしておれは、新しい世界に足を踏み入れた。
 改造された体は、今までの三倍以上のスペックを持っているという。
 だが実験段階で、全力を出すと骨が折れると注意されている。

 その後、同僚となった、浅見や、今吹っ飛んでいった、新世。
 新型になればなるほど、パワーアップしているようだ。

 オフレコだがと、前置きをされて聞かされた計画では、戦隊よろしく最強の軍団を造るようだ。

 むろん俺の体も、データが集まり次第、パワーアップを行う。

 そして、使えなかった機械も振動や上下動をカバーするため、本物は液槽フロートタイプとか言うものになるようで、随分ましになるとのこと。

「来たるべく、人類救済のための特殊機関が設立される」
 担当者は、ひどく興奮してしゃべっていたが、後で上官に叱られていたから、言ってはいけないところまでしゃべったのだろう。

 そして、飲みに行って、新世と顔合わせ。
 夜間の、身の回りのフォローと、警護のために浅見と代わる。
 約束より遅れ、デートにでも行くような気合いが入った浅見が、やって来たときには新世は潰れていた。
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