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第1章 始まりと魔法世界への準備

第12話 やっぱりばれるよね

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 美月は親が退院し、最近俺は心静かに生活をしている。

 いつものように役場の魔石自動支払機に、ざらざらと魔石を流し込む。計量と清算が終わり、清算金額を自分の銀行口座に転送する。

 最近は手馴れて、速やかに作業を終わらせて離れようとすると、肩をつかまれた。
「ちょっといいかな?」
 と言われたが、肩をつかまれたときにやばっと思い。体がびくっと反応した、それで慌てて、
「はい? なんでございましょう?」
 と言ってしまった。仕方が無いので、もみ手をしてみる。

 なんだか、スーツ着たおっさんが立っている。横の人は窓口のお姉さんだな。
「君、確認して? この人かな?」
「あっはい。そうです」
「先日窓口に、ダンジョンの入場料について脅迫されたと相談したのは君だよね」

 ああ、あの件だったかと、気が抜ける。
「あ~はい。しました。解決はしたんですか?」
 と、とぼけてみる。

「うん? 聞いていないのかね。あそこのダンジョンは突然消滅しちゃってね」
「消滅…… ですか?」
 しらっと言ってみる。

「まあ、ここで立ち話もなんだし、報告書も必要なので、こっちに来てくれるかな」
「あっはい」

 てくてくと、事務所について行く。
「えーと、お手数をおかけしてすまないね。神崎君、神崎一司君だね」
 タグの確認をされた。
「ええそうです」

「事の発端は10日ほど前の土曜日。ここの地図の印が付いているダンジョン前で、因縁をつけられたという事だったよね」
「ええそうです。それからは、あそこには行っていません」

 おっさんの、右の眉がぴくっとなった。嘘をついている俺の眉ではない。
「ああまあ、その晩にダンジョンが無くなっちゃったもので、広報のしようもなくてね。悪質行為の禁止位でしか通達ができなくてね」
「そうなんですか」
 私は何も知らない。心を無にしてみる。

「それで今日は何を?」
「ああ一応、被害届にサインを頂こうと思ってね」
 なんだよ。いやいや気を抜かないようにしよう。キリッ。

「被害は脅されたくらいで、お金も払っていませんから」
「あそこのダンジョン町の外れだから、ほかに被害者が居なくてね。誰かが被害届出してくれないと、ちょっと困ることになるのでね」

 悩んだふりをして答える。
「わかりました、サインをします」
「一応被害金額も、あそこに入れなくてほかに行ったのなら、その時間で損失した金額を概算で書いてくれる?」

 えーとここからこっちに移動したから、30分くらい? 30分なら…… 10階くらいだから、120くらい? 120×800円だから96000円かな?

「はいできました」
 にこにことほほ笑みながら、書類を差し出す俺。
 書類を見て、固まる担当者さん。

「君ちょっと」
 窓口の女の子を呼び何か耳打ちをしている。
 なにかまずったか?

 何か書類を受け取り確認している。
「すごいな。いや分かった、ありがとう」
「書類はそれで、いいんですか?」
「ああこれでいいよ。最初金額が多すぎだと思ったのだけど、この一月半で400万円か。すごいね」

 気にしていなかった。まずいな。
「げっ、そんなに金額いっていました」
「ああ、確定申告はちゃんとしないと、大変なことになりそうだね」
 力なく、はははと笑いながら、
「はい、注意します」
 と頭を下げる。
「じゃあ、よろしくお願いします」


 一司が、ふらふらと出て行った後。
「彼…… 神崎君だったか。普段行動するときは、たいてい一人なの?」
「そうですね。ただ、かわいい感じの彼女さんと、週末は一緒に行動しているみたいですけれど」
「それでも2人。たった一月ちょっとで、20個以上のダンジョンを攻略していることになる。 ちょっと、目はかけておいた方がいいかな? ダンジョン消滅にもかかわっていそうだしね」
 そう語る担当者さんの目は、笑っていなかった。

 その頃、一司は聞かされた金額に驚き、あたふたしていた。
「やっべえ、そんなに金額がいっていたのか。交換したのはまだ持っている魔石の半分以下なのに、目をつけられたかな? いや、どうこう言っても俺一人だからな。チーム組んでいる奴に比べたら少ないだろう」

 その時俺は、ダンジョンマスターの利点を甘く見ていた。 普通のダンジョン探索ではそんなに多くのモンスターに出会えない。

 さらに、一司はダンジョンボスを倒したとき、ダンジョン内にいるモンスターを魔石として回収ができる。
 普通はダンジョンマスターのモンスターが死んでも、ダンジョンの活動が止まるだけで、モンスターは徘徊している。
 そして時間と共に、徐々にダンジョン内の魔素濃度が下がり、モンスターは死滅していく。
 そのためダンジョンを攻略しても、そんなに利益は多くない。

 その一般との常識の差は、今後どうなるのか不明だが。本人が思っているより目立つ存在であることは確かであり、今後出てくる多方面からの思惑に巻き込まれることとなる……か?

 
 プラプラと歩きながら、家に帰るか、どこかのダンジョンをつぶしに行くか考えていると、なんだか見たことのある家の前に車が。……そういえば通り道だった。
 ぴたっと停止して、踵を返す。

 しかし、時すでに遅し……。
 奴に見つかったようで……、
「一司く~ん……」
 と呼ばれた。
 俺は気が付いていない…… うん。

 再び、
「一司く~ん」
 の声と、ずどどと……。
 走ってくる足音……。

 しようがない、振り返ってにこやかに、右手を
「や、ぐはっ……」
 上げようとした瞬間、タックルを食らって吹き飛んだ……。 無念。


 気が付くと、どこかで寝かされていた。
「うん? やあ、気が付いたかね」

 この人は確か、松沼……。純生さんじゃなくて和男さんだったな?
「大丈夫かね。娘がすまないね」
「ええまあ、娘さんの暴力には慣れていますから」
 と真顔で答える。
「そっ、そうか、すまない」
 覚えがあるのか、あせるお父さん。

「体は大丈夫かね?」
「ええ、そこそこは鍛えていますし」
 
 目がちょっとキラッとして、
「それで君。会ったことがあるよね?」
 と聞いてくる。

「ええ、5年以上前ですけれど、高校の卒業式の時に来られていましたよね」
 俺がそう言うと、思い当たったのか、
「ああやっぱり、あれからずっと娘と付き合っているのかね?」
 先ほどよりも目がもう少し、鋭くなる。

「いいえ。この前この家の庭に、ダンジョンができていたので。それを駆除しに来たら、松沼さんのお宅だっただけで」
 すると、お父さんは、ぼけたことを言い出した。
「なに? 高校卒業の時に娘を捨てたのに、また、のこのこ会いに来ただと?」

 耳を疑う俺。
「は? 話をちゃんと聞いています?」
「いや、そう言うことじゃないのか? 高校卒業してから、君からだろうと思うが、連絡がこないと、ずいぶん娘が落ち込んでいたからなあ。それなのに恥ずかしげもなく、最近また来たのだろう?」

 ちがうだろ。
「まあ、そう言われればそうですけれど、大きな違いがあります。いいですか。『俺とあなたの娘。高校の時。頼まれ、形だけお付き合い。卒業し、会わなくなった、これ必然。月日は流れ~え。この前え、この家え、だんじょん出来た。そこに、たまたま、通りかかった、オレ。たまたま、一気に退治、した。イエイ』です」

「ああ、まあそうなのか? で、なんで説明が歌なんだ?」
「耳に残るでしょ。家族なら娘と同じように、人の話を聞かないかと思って」
「……」

「きみ、結構失礼だな……」
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