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第2章 魔法の使える世界

第24話 引っ越し騒動

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 美月がどこかのキャラのように、おっぴろげたのを、思ったより引きずっていたので、気分転換に引っ越しを早めることにした。

 犬もいることだし、中古の現状有姿渡し庭付き一戸建てに決めた。
 当然子供たちの通学や、美月の通勤も考慮している。

 建物は30年を超えているため安かったが、土地はまあまあの値段がした。まあ通勤通学を考慮したから仕方がない。

 最初は、家はいじらず玄関を開けるとダンジョンとも考えたが、人を呼ぶ時に困ると言われて、俺は単なる修繕かリフォーム。今風なら戸建リノベーションかな? それをどこまでするのか悩んでいた。

 試しに壁に手をつき、イメージして壁のみを収納してみた。
 イメージした通り、柱や間柱からこちら(ビス付き)を収納することができた。
「おお、これは便利」
 とりあえず、新しく見えた家だが、断熱材も入っていないことが確認できた。そこも踏まえて修繕をしよう。
 ホームセンターへ材料もろもろを購入しに行く。
 断熱するのに、面白いから炭化コルクとグラスウールの併用で、簡単にまず寝室と天井を施工する。

 収納魔法を使えることで、壁の分解と施工の手間がかからず、数時間で終了した。
 天井裏の熱気を排出する、換気扇も取り付ける。
 穴あけにもダイヤモンドホルソーが必要なく、コンパスで下書きをして丸に合わせて収納する。貫通スリーブを突っ込んで終了。

 全館空調を考えたが、面倒になり、各部屋に個別のエアコンを設置する。エアコンは100V用だが、まとめてお買い得商品を買ってきた。
 さすがに、ダイニングとリビングは200Vのエアコンだ。
 全館空調を思いついたときに、廊下や風呂、トイレ用のダクトは通してエアコン1台で空調するようにした。

 各窓はトリプル樹脂フレームを注文した。物が来たら交換をする。

 あとは1階の水回りやトイレ部分だな。そう考えながらふと外を見ると、日が落ちてきていた。

 とりあえずの生活は、廊下の突き当りがダンジョンにつながっているから、困ることは無いだろう。

 みんなが帰ってきたら部屋決めだな…… あれ? 現状有姿渡しなら今日からでもと言われて、俺はここに来たが、みんなに言っていない気がする……。
 みんながマンションに帰って、ダンジョンが無くなっていると困るよな。

「……はあ、マンションに帰るか」

 とぼとぼと、リフォームで疲れた体に鞭打って、住み慣れた家に帰る俺であった。

 ぽてぽてと帰っている間、ごんごんと嫌な予感がし始めた。
 今、マンションの中身は空っぽだ。

 それを見て、みんなはどう思っただろう?
 美月はまだ良い。だが、芳雄達3人は家族のことがあって、やっとその生活から抜け出し、新生活を始めたばかりだ。
 その矢先に、帰ったら家の中がもぬけの殻……。 やばいな。

 そこで思い出す。スマホも持っているんだから、グループ通知に一言送ればいい話じゃないか。
 俺は何をやっているんだろう。

 そんなことを考えながら、通知を送る間もなくマンションにたどり着く。
 ドアを開けると、靴が…… うん人数分あるな。

「みんな帰っているか? すまない。連絡するのを忘れた」
「おかえりなさい。もう家、引っ越したんですね」
「ああ、そのまま入っても大丈夫ということになってな。みんな怒っていないのか?」
「家の話は聞いていたし、こっち側の荷物もないし。ダンジョンも入れなかったので」
「そうか。すまんな」
「ただ、美月さんが…… ほかの人に見せちゃったから、一司さんに捨てられたって」
「はぁ?」
「そっちでやけ酒をしています。引っ越しの途中だろうって、皆で言ったんですが……」

 真魚に言われて、見に行く。
「何もない台所に座り込んで、一升瓶とコップを持ち、胡坐をかいて座っているおっさんが居た……」
「何やっているんだ。お前……」

「あっ。一司きゅん。あれはね事故なの。馬鹿だから服が燃えるなんて思わなくて」
 そんなことを言いながら、ずりずり這い寄って来る。怖いよ。
「誰も責めちゃいないだろうが。まあ、馬鹿だけど。新しい家に行くけど、お前はここに住むのか?」
「行く」
「ほれ立て」
 一升瓶とコップも取り上げ、美月を立たせる。

「ほら行くぞ」
 そうして、都合1年半住んだ家を出た。短い間だったが、なにか来るものがあるな…… ブレーカーを落とし、部屋の鍵を閉めて、みんなで出ていく。

 途中でファミレスに寄り、飯を食いながら家の場所と、ざっとした間取りを説明する。
 カーテンとかを買うために、得意の駅前のディスカウントストアに寄り、色々なものを買い込む。

 それから、家に向けて歩き出す。しばらくして家が見えた。
「あれだよ…… うん?」
 俺が家を指さすが、回転灯?
「なんで家の車庫前に、パトカーが居るんだ?」
「あっ」
 美月が叫ぶ。
「あっ、てなんだよ」

「いや…… マンションに帰ったのが。私が一番で、中を見た瞬間に捨てられたと思って…… お母さんに連絡しちゃった」
 酒臭い美月が言い訳をする。
「あ~、まあいいか。引っ越しの連絡をする手間が省けた」

 てくてく歩いて近づくと、パトカーからすっかり見慣れた二人が出てきた。
「お久しぶりです」
「神崎君、元気そうね。美月が居ると言うことはやっぱり勘違いかしら?」
「そうですね。せっかくですので、家の中へどうぞ。まだ修理中ですけど」 
 お二人様ご案内。

「修理中? いつ頃までかかるの?」
 そう聞かれるが、気が向いたときにしか作業をしないしな。
「自分でやっているので、まあ適当に」
「自分で修理しているの? すごいわね」
 お母さんがへーっと驚いている。

「金がないなら、わしが出すぞ」
 気を利かした、珍しいお父さんだが、
「ああそういう訳じゃないんです。結構DIYが好きなので。まあどうぞ」
 そう答え、中へと促す。

 一応、入る前に家族に鍵を渡す。
「なくすなよ、家のカギだ」
「わしには?」
 松沼父が、なぜだか手を出してくる。こういうところ親子だな。
「ありません。用事があるなら、美月が居る時に来てください」
 不安だからきっぱり断る。

 みんなに一応、説明をしておく。
「2階の居住スペースの断熱とかは、今日終わらせてある。あとは部品待ちや、共用部分は話を詰めてからだな」

「リビングには、マンションから持ってきたものを置いたんですが、こんな感じなので明日にでも買ってきます。まさか、今日見せることになるとは思っていなくて、すみません」
 一応、松沼親には言い訳をする。
 リビングには、ソファーとガラステーブルがぽつんという感じになっている。

「こんな状態で、お構いができませんが、お茶でも入れましょう」
 そう言うと、松沼母が、
「みんな食事は?」
 と聞いて来る。
「さっき帰ってくるときに、店に寄っちゃって」
 一応、返事をする。そばでも食いに行こうとしたのか、少し残念そうな顔をする母。
 
 気を取り直し、聞いて来る。
「さっきの3人が、引き取った子たちね。結婚する前に、子持ちになるなんて変わった子ね」
 そう言えば話はしたが、会わせていなかったな。
「いやまあ、成り行きで。知らなければ、あれなんですが、事情を知っちゃったんで」
「そうね」

 母とばかり話すから、負けん気を出したのか、父が話を振って来る。
「仕事も順調そうで何よりだ」
「そうですねって、なんでそんなことを?」
 そう聞くとぶっちゃけてきた。
「いや、親族以外の法定代理人選定は、ちょっといろいろとあってなあ。ほれ、候補者事情説明書なんかも書いただろう」
「そりゃ書きましたけども、それでなんで、お父さんが知っているんです?」
 すると、やばっという顔をする。
「そりゃあまあ、職務上の秘密だ」
 ものすごく目が泳いでいますが。

「まあ、あの子の間違いだと分かったことだし、帰りましょうか」
「すいませんね」
 と返事を返す。
「ほんとに自分で直すの?」
「ええ」
「まあ完成したら、改めて呼んでちょうだい。楽しみにしておくわ」
 やっぱり引っ越しそばか?
「それじゃあまた。お気をつけて」
 そう言って、送り出す。

 そういえば、元凶はどこ行ったんだ?

 探すと、ダンジョン側の部屋にいた。
 服を脱ぎかけながら、ベッドに向かったのだろう。
 うつ伏せで上半身だけ何とかベッドに乗せて、ズボンを膝までなんとか脱いだのだろう。お尻丸出し状態で、いびきをかいて寝ていた……。
 火炎魔人と、どっちが引くかな?
 俺はため息をつきながら、ズボンを脱がして、美月をベッドに放り上げ布団を掛けた。

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