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第2章 魔法の使える世界

第27話 初めての県外遠征

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 役所を通じて依頼が来たと言っても、いつもの会計課の課長の永瀬さんではなく、久々の環境政策課の課長で高梨さんからだった。

 高梨さんは勝手に売り出した、『魔道具個人用バリア、魔法の世界から女性に優しいお届け物。モンスターも痴漢も近づけません。中からは攻撃可能。ほぼ10回使用可能お得バージョン』が下手に人気となり、会計課から叱られて俺と会えなくなっていた。

 今回県外だが、同業の会社がダンジョン駆除を請け負って潜ったはいいが、予定の一週間経っても出てこず。予備日の10日を超えたので遭難の届けが出てきた。

 連絡を受けて困った役所は自衛隊に救援を出したが、弾薬の在庫がとか年度の予算がと渋られているようだ。
 まあ、秋から突然始まったダンジョン騒動。警察も自衛隊も予想外に発生した消耗品の追加購入経費が、ばかにならないようだ。
 いまだに弱いモンスターは、ふらふらとダンジョンから出歩いていることだし、そっちの対応が優先なのだろう。

 こっちは依頼を受けて、好きで潜っているからね。
 いまだに面と向かって言われたことはないが、ダンジョンに勝手に入って困ったからって救援出すんじゃねえ。と言うのが本音かな。

「それで高梨さん、何でこちらに話が来たのですか? 」
「君は、自分がわかっていないようだけれど、聞いているだろう。いわゆる冒険者制度」
 呆れたように言ってきた。
「ああ聞きました。来年早々に変わるやつですね」
 お気楽にそう返したが、
「あれのランク、君の会社がトップなのだよ」
 そう言われて、心当たりを考える。
「へっ? そんなに真面目に仕事していませんよ」

 高梨さんはため息をつくと、やれやれと言う感じで教えてくれた。
「……それは君たちが、非常識なだけだよ。20階のダンジョン位なら、2日程度で潰しているから、仕事が少ないと思うのだろう。さっきも言ったが、他は1週間~10日程度を予定して潜るのが普通だよ。分かったかね」
 呆れたような眼をして、そう教えてくれた。
「そうですか。そりゃどうも」
 とりあえず、そう返したが、1週間~10日もダンジョンで何をするんだ? そう俺は考えていた。

「それで、有名な会社なら何とかしてくれるだろうと、こっち経由で依頼が来てね。それでどうする?」
「行先はどこなんですか?」
「静岡県。富士山が見える温泉があるようだよ」
「へー。温泉か」
 俺が電話の内容に、反応した声を聞き取ったらしく、
「行こう。一司受けましょ」
 間髪入れず、横から反応が返って来た。

 やれやれと思いながら、
「なんか横で叫んでいるから受けます。いま年末ですが、この時期で宿取れますかね」
 とりあえず、高梨さんにもそのくらいは仕事をしてもらおう。
「あー何とかしよう。いつ出られる?」
「今日中に出ます。ダンジョンの情報をください。後、宿も決まればその情報をいただければ」
「何人だい?」
 そう聞かれて、静岡。富士山。温泉ならせっかくだし家族で行くか。と考える。
「6人でお願いします。4人は未成年です」
 そう言うと、一瞬高梨さんの言葉が詰まったが、
「ああっ。そういえば情報が来ていたね。分かったそれじゃあ」
 役所にも、個人情報が駄々洩れかよ。まあいいけど。
 そう思いながら、電話を切る。

 周りでくつろいでいるみんなに、今更だが確認をする。
「6人と言ったけれど、試験はもう終わったのか?」
「はい、昨日終わって試験休みです」
「中学校もそうか?」
「明日は短縮授業で半日授業があります。明後日は土曜日なんですけど」

「うーんそうか、困ったな」
 そんなことを考えていると、
「……そうです、2年生の少林真魚と1年の少林壮二です。よろしくお願いします。よし、連絡終わり」
 美月がそう言いながら、電話を切っている。

 やり切った感の、美月に聞く。
「なんだ今の?」
 俺が聞くと、当然のように、
「えっ二人の休暇届。家族がいないのに、中学生を家に置いとくなんて、できないでしょ」
 そう、美月が返してくる。

「馬鹿だろお前。そんなに簡単に休まなくても、明日お前が二人を連れて、後から合流でもよかったんじゃないか?」
「やだ、家族は一緒。ね」
 横で二人も、うなずいている。

「仕方がない。速やかに準備しろ。仕事だが小旅行だ。芳雄。一翔に連絡。出発は準備ができ次第。予定は今日入れて4日」
 そう伝える。

「はい。行先は静岡県ですね」
「まだ詳細は不明だから、一翔は合流後、家族に連絡だな」
「はい、連絡入れます。集合は?」
「どうするかな? 準備をして、いま2時過ぎだから、3時に駅の前位なら大丈夫か?」
「はい。それで連絡をします」

「よし。各自用意」
 と掛け声をかけると、返事をしてみんなが散らばる。
「「「はーい」」」

〈移動中は面倒だから、フレイヤとフェンリル。もうフェンでいいや、お前たちはダンジョンに居てくれ向こうでゲ-トを開く〉
〈わかったにゃ〉〈承知しました〉

  それからほどなくして出発。駅へ向かう。
 その途中、真魚と壮二はものすごくうれしそうだ。
 話を聞くと、こういう感じで、出かけるのは初めてだと言う事だ。
 芳雄に聞くと、もっと小さい時にはあったようだが、真魚たちは覚えていないようだ。

 駅に着き一翔を待つ間に、通信アプリを確認する。
『静岡県御殿場市○○○ホテルにチェックインして控えていてください。担当者がうかがいます』
 と言う連絡メールが来ていた。
 一翔にも、転送をする。
『家に、連絡先は送っとけ』
 と、ぽちぽち文字を打ち送信。
『はい』
 すぐに、返事が返って来た。

 などとしていたら、すぐに一翔はやって来た。
「おう。早かったな」

 俺がそう言うと、一翔は苦笑いをして、
「家族が社長を待たすなんていうことを、するなってやかましくて」
 と言ってきた。

「すまんな急に、向こうはすでに潜って10日らしくてな」
 それを聞いて、一翔なのに状況が分かったようだ。
「大丈夫ですかね?」
「さあ? まずは出発しよう」

 新幹線と電車を乗り継ぎ、何とか到着をする。最寄りの駅からはタクシー2台で移動となった。
 到着後。一応高梨さんにホテルに着いたことを連絡する。

 晩飯を食いながら待っていると、部屋の電話が「ちりりりりん。ちりりりりん」と怪しく鳴る。電話のベルってこんな音だったっけ? そう思いながら電話を取る。
「お客さんがお見えになっています」
「ああ、部屋に通してください」

「担当者が来たようだ」
 電話を切り、みんなに言いながら、俺はビールを飲む。
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