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第2章 魔法の使える世界
第28話 初めての県外遠征 第一夜
しおりを挟むほどなく、こちら側の地区の担当者。伊庭さんがやって来た。
「お疲れ様です。伊庭と申します」
部屋に並んだ料理と、ビール瓶に伊庭さんの目が光る。
「神崎です。よろしくお願いします」
そう言って、伊庭さんに向かい、体の向きを変えて挨拶をする。
右手にグラスは握っているが。
「早速ですが、時間がなさそうなので、基本的な情報をください」
俺がそう言うと、気難しそうな伊庭さんは、掛けている眼鏡を、右手でくいっと上げるとカバンから、書類を束ねたファイルを取り出す。
ぺらぺらとめくりながら、
「そうですね。今潜っているのはうちから依頼したチーム。ダンジョン駆除部隊Aと言うんですが、10人のチームです。入ダンが11日前。構成は男6人女4人。すでに3つほどのダンジョンを攻略しています」
なぜか、伊庭さんが胸を張り説明してくる。俺はそんなものなのかと思ったが、
「ほう、深さは?」
と聞いてみる。
「10階2つと20階1つです」
それだけ? 俺が驚いたのが、顔に出ていたのだろう。だが、伊庭さんは鼻の穴を広げて、すごいだろうという顔をする。
「そうですか。ああすいません。それで?」
先を促す。
「一応、深いことも考えて、7日で一度帰ってくる予定で、計画表は出ています。予備日は3日」
うん、予備日?
「予備日って何ですか?」
そう聞くと、思いっきり驚かれた。
「えっ? 普通ダンジョンに入る時には、計画日数と不測の事態用に予備の食糧とかを持って行くでしょう?」
力いっぱい言われた。
「へー。そうなんですか?」
向かいで、一翔がうんうん頷いているから聞いてみた。
「一翔。普通ってそんな感じなの?」
聞かれると、あたふたしながら、返事が返ってくる。
「いや、まあ確かに予備は持って行きますけど。そこまで計画表とかは出さないですね」
そう聞いて、伊庭さんがふふんーとい顔をして、
「いや、ルーズですね。まあ元々こっちでは、山に登るときに出される登山計画書がベースになって決まりが作られたので、こっちが特殊なのかもしれませんが」
はん。どうだというのが伝わってくる。そんなこと俺たちに言ってどうするんだよ。役所の部課長級会議ででも、話を詰めろよ。
一応返事は返す。
「まあ、今まで困ったことが無いので、ピンとこないですね」
「失礼ですが、実績とかは?」
伊庭さん。完全に俺たちを舐めた感じになって来たな。
「なんか今度の改定用に、データは共有したって聞いていますけど」
俺にそう言われて、思い出したようだ。
「ああそうですね」
さて行くかと、残ったビールを一気にあおり立ち上がる。
「その資料を見てください。それじゃあ、行くか。美月はちびっこと遊んどけ。明日には帰って来る」
「はーい」「えっ」
美月達は元気いっぱい。伊庭さんは何か驚いている。
「さあ、行きましょ。急ぎでしょ?」
「いや神崎さん、ビール飲んでいるんじゃ」
「うーんまあ、大丈夫。いざとなったら浄化をするから」
飯をまだ掻き込んでいる。芳雄達に声をかける。
「芳雄達は行くぞ。前回できなかったレベル上げの続きだ」
「えっ、この二人は未成年では?」
「ああ大丈夫。ちゃんと許可も契約もあるから」
「ほれ行きましょ?」
「武器とかは?」
「大丈夫。ささ急いだ、急いだ」
「はあ?」
一翔の口から、エビフライが飛び出しているが、気にしない。
何気に人を小ばかにして、態度が悪い伊庭さんを追い出したい。
車に乗って30分くらいかな? 到着したら、周りに警察と自衛隊がうろうろしている。まあ、封鎖かな。横に伊庭さんがいるので、すたすたとダンジョンに近づき縁に手をかける。
……あん? このダンジョン死んでいる? でも、モンスターはまだうろうろしているが、12階以降は空間が変になっているな。ダンジョンの中に黒く抜けた所ができている。20階も黒いな。人間の反応は無しか…… 美月と一緒に、こいつらも置いてきた方がよかったかな?
まあ来たからには仕方がない。行くか。
あっしまった。ダンジョンの中ってダンジョンゲートひらけ…… ああ、死んでいるから中でも開けるだろう。後で良いか。
「このダンジョン。まあよく分からんけど、行くか」
みんなと言っても、二人だが声をかける。
「いくぞ」
「「はい」」
「あっちょっと……」
後ろで、伊庭さんの声が聞こえたが知らん。
伊庭は悩んでいた。計画表も出さずに行ってしまった。神崎さん酔っぱらって未成年を二人もつれて。確かにデーターベースでは、攻略ダンジョン数。予測と注釈付きだが300以上。これが本当ならぶっちぎりのNo.1なのは確かだが、武器も持たずに…… 浄化魔法って何だろう?
「二人とも。ちょっと止まって、いや適当にモンスターの相手をしておいてくれ。フレイヤたちを呼ぶ」
壁に手をつき、自分のダンジョンに接続する。やっぱりダンジョンが死んでいれば大丈夫なんだな。
〈フレイヤこのダンジョンも、なかなか愉快だぞ。すでにこのダンジョンは死んでいる。だけど奥に黒い所がある。アクセスできないから、空間の切れ目がある〉
そう説明するが、フレイヤは不満顔だ。
〈もっと奥で開いてくれれば、ゆっくりできたのに〉
フェンは、クンクンしていたが、珍しく念話してきた。
〈主。クモのにおいがプンプンしますぞ。奴らは隠れているから、気を付けられよ〉
〈クモ? あいつら地上に巣を作って、こんなに普通なダンジョンは作らないだろ〉
ふんという感じでフレイヤがぼやく。
〈奴らにも、奴らの都合があるんじゃろ〉
俺は現状を考えて、少し思い当たった。
〈じゃあ12階以降の、黒いしみは奴らか〉
小さな領域は、奴らのダンジョンだから空間が違う。
そう考えながら奥へと向かう。ダンジョンは死んでいるため、モンスターは少なく、ガンガンと進んでいく。知らない間に高校生2人が居なくなったが、大丈夫だろう。
ダンジョンに入ってすぐに、社長が壁に手をつき何かをしている。あっ壁から犬と猫が出てきた。
なんだあれ。芳雄も普通に猫たちに挨拶しているけれど、俺だけ何も知らないのか? そういえば、芳雄は今、社長と暮らしているのだったっけ。
ここにきて、一人だけ何も知らないのが嫌だな。
そんなことを考えながら、奥へと進んでいく。あれ? 置いて行かれた?
「芳雄……社長ぉー……どこですか……」
やべえ、本格的において行かれた。
周りの音を聞きながら、ガンガン進んでいくが誰も居ねえ。
遠くから、声が聞こえる。
「一翔…… こっち…… だ、こっち……」
少し距離があるのか、とぎれとぎれの声が聞こえる……。 モンスターじゃないよな?
何やっているんだあいつは?
社長について走っていると、いつの間にか、一翔が付いて来ていなかった。
今回はモンスターも少ないし、この階層ならまだモンスターも弱いから問題はないだろうけれど…… 一応、一翔を待つか。
とりあえず下へ降りる階段のところで待つことにした。
芳雄は、一翔を待ちながらちょっと試してみる。
色々考えながら、気配は探っているけれど、社長たちのようにうまくできない。
探知魔法ってどうやるんだ? たしかラノベだと、体内の魔力を外に薄く広げて、そこに現れる違和感で感知するのだったよな? おっ、これか? まだ初めての違和感なので、判断はできないが、何かこっちへ来ている。
呼んでみるか。
「一翔、こっちだ、階段のところだ。こっち~」
うーん当たりかな。一度止まってこっちへ来始めた。
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