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第2章 魔法の使える世界
第29話 初めての県外遠征 第一夜 その2
しおりを挟むありゃ、こないな。
走るスピードを緩めて、ダンジョンにアクセスする。3階層分離れたか。
それに、あいつら同士も離れているじゃないか。
足を引っ張っているのはどっちだ?
〈フレイヤ。魔石3個喰っていいから、ガキども迎えに行ってくれ。俺は、フェンと先に行くわ〉
〈しょうがないにゃ〉
〈3階層ほど上にいる〉
〈行ってくるにゃ〉
そう言うと、フレイヤは、爪音を響かせながら走っていく。
おお、早いな。
〈フェン、行くか〉
〈主、お先に〉
フレイヤに触発されたのか、張り切って走り始める。
おお、こいつも早いな。
出会ったモンスターが、いきなり凍り付き砕けていく。
〈芳雄。何をやっているにゃ〉
芳雄の後ろで、フレイヤが顔を洗いながらつぶやく。
「うわっ、なんだこれ? 頭の中に声が…… それに、フレイヤさん?」
〈もう一人のガキは、どうしたのにゃ?〉
ジト目でもう一度聞いて来た。
「ええと、今こっちに来ていると思います」
〈ふん、これか。ちょっと行ってくる〉
そういうといきなり走り闇へとあっという間に消えていく。フレイヤさん…… さっきしゃべった、いや、あれは念話か? しばし呆然とする芳雄。
〈ガキ、世話をかけるな。にゃ〉
その声に驚いたのか、叫び声をあげる一翔。
「うわあああぁ」
フレイヤは飛び上がり、猫パンチを一翔の額に食らわす。
当然単なる猫パンチ。爪がちょっと引っかかり、3本ほど赤い線ができたがご愛敬。
「うわ……」
〈落ち着け。プリティフレイヤさんだ〉
そう言われて、やっと状況が分かった一翔。
「あっ、はい」
〈行くのにゃ、遅れるな。にゃ〉
猫の後ろについて走り出す。
たしか名前はフレイヤさん。に俺はついて行く。
少し走ると、階段のところに芳雄が待っていた。
よかった。
「一翔。大丈夫だったか?」
「ああ。遅れてすまない」
〈がきども。問題がないなら、さっさと行くにゃ。遅れずについてこい〉
慌てて、すささと走り出した、フレイヤさんについて行く。
「なあ芳雄。さっきのって念話だよな」
一翔は走りながら、隣に並ぶ芳雄に聞く。
「そうだよな。たまに社長が、フレイヤさんと見つめあっているけど、あれって念話していたんだ」
一翔がぼやく。
「そうか。でも確実にフレイヤさん猫じゃないね」
芳雄は思い出したように言う。
「社長が、最初に紹介するときに、俺の先生だって言っていたのを思い出したよ」
それを聞いて、一翔がぼやくと、
「……元人間なのか?」
フレイヤから突っ込みが入る。
〈馬鹿なことを言っているんじゃない、私は私だ。もう少し力が戻れば人化もできようが、私はこの愛らしい姿が本物だ〉
そう言っている時に、ひょっこりと曲がり角から顔を出したオーク。
いきなり倒れて消えていく。
「相変わらず、すげー。何をやっているのか全然わからん」
〈私の力だ、死を司るものだからな〉
「「死を司る」」
〈おっといかん。言った事は、一司には内緒にしておいてくれ。また怒られる〉
一司は腕を組み、目の前の光景を眺めていた。
うーん、黒い抜けの理由は分かった。
〈主。言った通りじゃろう〉
フェンが尻尾を振っている。
眼前に広がる、蜘蛛の巣。そうだよな。巣のあるとこはダンジョンだから別空間。だから外側のダンジョンシステムから見ると、アクセスできなくて抜けて見えるという事か。さっき予想はしたが、実際目にして確証を得た。
まあいい、こいつらならやることは同じ。雨を降らせて、お湿りを与え。そこへ雷を少々添える。シェフ一司のおすすめ。雨かけキュイール( 火を通す)アレニェ(蜘蛛)、雷を添えて。
こいつら、燃えた瞬間。すごくいい匂いというか、おいしそうな匂いがするのよね。
国連が推奨する昆虫食にも、タランチュラも入っているし、うまいのかもしれんが、食う気はない。モンスターは死んだら魔素に還るからな。
しかしこいつら、繁殖したのか? モンスターが繁殖なんて聞いていないぞ?
〈どうなの? フェンさん?〉
〈おお? 主いきなりどうなの? と聞かれても、何のことか私には分からん〉
〈しまった。念話をしているつもりだった。すまん。いや、今までモンスターが繁殖なんて聞いていないなと思ってな〉
〈普通では勝手に生まれるもので、繁殖なんて言うことは聞いたことがないが。昔自分の軍団を、生み出せる奴がいた気がするな〉
〈ひょっとして管理者か?〉
〈普通のモンスターは、そんな力は持っていません。わん〉
〈なんだ、そのワンは?〉
〈その、フレイヤが語尾ににゃをつけていたので、付けた方がいいのかと〉
〈それは、別に。気にしなくていいぞ〉
〈でも会話の時に、キャラの区別が〉
〈……気にするな〉
〈さて、どんどん行こう〉
細かいことは気にせず、どんどん濡らして、どんどん焼いて行った。
少しすると、旨そうな匂いのせいか、腹が減って来た。あいつらも追いついてこないな?
何時だ? 3時か。入ダンが夜9時ころだったから6時間。ちょうどいいか。俺は休憩の準備を始める。
その頃。芳雄達2人は、前を行くフレイヤさんについて走っているが、社長はまだ見えない。
12階を過ぎた辺りから、地面がおかしなことになっている。焼けたりぬれたり穴が開いていたり。
「なあこれって、注意喚起されていたクモじゃね」
「そんな感じだけど、これは何をやったんだ?」
「社長のことだから、一気に燃やして消火に水を撒いたとか?」
「どうだろう? けれどいつも予想外のことをして、簡単にモンスターを倒すからな」
「そうだな」
二人はぼやく。
彼らは想像ができなかった。
一司がモンスターに対して行う、一風変わった退治方法。
それが、初めてのダンジョンで、ボスが溺れていた経験により始まったことを。
そうか、モンスターって攻撃して死ぬんだから、溺れても、息ができなくても普通に死ぬんだ。
死ねば、魔素に還ろうが生きているときは、普通の生物と同じ。
こんな簡単なことに、意外と気が付けない。
テーブルを出して、椅子に座り。何かを貪っている一司。
「あっ、社長。すいません遅れました」
「おお来たか。飯食え」
そう言いながら、ひたすら何かをかじっている一司。
「この匂いは何ですか?」
「クモの丸焼きだ、うまそうな匂いだろう」
「まあ食え」
「社長それ……」
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