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第3章 本格的侵攻開始   か?

第17話 好奇心は猫を殺す?いえ、情報の押し付けで止(とどめ)を刺す

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「ちょ、美月」
 俺は口元で、人差し指を立てた。
 普通はさ、そうされるとしゃべるなと言う意味だよね。

 でも…… 色々あれな、美月は違う。
「あっ。そうそう一司も私も、もう神様なのぉ」
 と何の躊躇いも無く、爆弾を落とす。
 けして自分を指さして、俺の事も言えなんて俺は言ってない。

 見ろ。二人とも、魂が抜けちゃったぞ。
「美月…… それはどういう意味だ?」
 息絶え絶えの松沼父は、死地に赴くようだ。

「えーと。世界の管理者の一つで、私は炎を司っているの」
 バカな子が、ばかなことを暴露して胸を張る。

 ほら、お父さんがぴくぴくしている。死ぬんじゃないか? おお、コップに入っていた日本酒を、一気飲みしちゃった。

「かっ、一司君。娘の言っている事は、本当なのかね?」

 ごまかせそうだけど。一人で抱えているのも、いやだな。
 おれ達、基本一般人? だし…… よし、この際だ。ばらしても、隔離はされないだろう。

「あー、たまたま機会がありまして。俺もついでに、神地さんも人間かどうか自信がありません」
 あっ、死んだ。口から半透明なエクトプラズム? いや魂かな?が出てきた。
 否定して欲しかったのだろうが、そうはいかん。

 木村さんの方が、ダメージが少なかったのか。少し目がキラキラしているが。
「神様になれる機会って、そんなにひょいひょい、あるものなのかい?」
 キラキラしていると思ったら、そんなことに興味が?

「どうして、でしょうね? なぜか、幾度もあったんです」
「君は、何を司っているの?」
 言いたくないな、神地さんに振っておこう。
「神地さんは、水と雷です……」
「それは…… すごいね。それで君は?」
 ちっ。かわせなかったか。

「気になります?」
 そう聞くと、満面の笑みで、
「うん」
 と返して来た。

 ため息をつきつつ。
「死なないでくださいね。俺は創造者。次元管理。生命創造です」
 そう言うと、ほら固まった。
「……それは。間違いなく神様だね。……うん」
 木村さんが、静かになった。

 せっかくだから、とどめを出そう。
「さっき名前の出た、フレイヤは死を司って。もう一匹フェンは氷です。たぶん」
 そう言うと、びくっとして瞬きまで止まった。
「ははっ、そうかい。それは、すごいや」
 あら? 壊れたかな? 無表情で笑っている。器用だな。

 とりあえず、グラスに日本酒を注いでみる。
 おっ、徐に(おもむろに)グラスを持ち上げて一気ですか。
 体によくないですよ。


 なんだか、静かになったから、子供たちの座っているテーブルへ移動する。
 松沼父も木村さんも、さっき言っていた話は覚えているのかなぁ。最後に全部飛んだ気がするぞ。今も木村さんと松沼父、無表情で酒の注ぎ合いしているし。

 子供たちは、テーブルに乗った御馳走を、無言で口に入れている。真魚なんかリスみたいに、ほっぺたが膨らんでいる。
「おいしいか?」

 真魚は頷き、
「ごじぞうでず。ごいじい」
 と言った。
「うんごめん、ゆっくり食べて」
 うんうんと頷く。

 そんなに食い物には、困らせていないはずだけどな。
 まあ、目の前に広がっているのは、どこか有名店のおせち料理のようだし、珍しいか。
 伊勢海老とか蟹は、食わせたことがなかったか。
 壮二は栗きんとんが、お気に入りか?

 芳雄はひたすら海老を食っているのか。
「おせちは、色んな意味があるから、少しずつでも、まんべんなく食えよ」
「あっ。知っています。昔の人が考えた駄洒落ですよね」
 と神地さんが言って来た。

「駄洒落と言うか、語呂合わせかな。いろんな食材に意味を持たせたものだ」
「レンコンとか見通しがきくとかいうから、一司さんなら、食べれば未来予知とかできるように、なれるんじゃないですか?」
 神地さんがフラグを立てて来た。

「お前は、俺を何だと思っているんだ」
「えっ」
 突然赤くなって。
「すごい人です。どんな困難も、飄々と乗り越えて行く…… すきです」

「……おう、ありがとう」
 とラブコメをしていると、横から真魚が。
「むー、私も、一司さんすきです」

「おうそうか、ありがとうな」
 と言いながら、真魚の頭をなでる。えへへ、とにやける真魚。

 そんな、ほのぼのしている、後ろでは。酒の注ぎ合いが止まり。緊張をした面持ちで松沼父も木村さんもどこかへ電話をしていた。
 それのおかげで、一司の正月は、今日で終わることを、まだ本人は知らない。つかの間の休息だった。


 どこかで、美月が「だからね。ダンジョンには、管理クリスタルがあって……」言って曝露が続いているようだが、もういいや。

「このホタテは、甘辛くてうまいな」
 あっ、錦糸(きんし)玉子もうまいな。
 そういえば、高校の時に母さんとけんかして。弁当を開けたら、ご飯の上に細切りの錦糸卵だけ乗っていたことがあったな。まああれも、うまいんだけどな。せめて半分は海苔にしてくれと文句言ったら、1週間続いたのにはまいった。

 その後は、焼きそばとご飯の組み合わせや。タコ焼きとご飯もあったな。
 結局、謝るまでびっくり弁当シリーズが、終わらなかったよな。
 その後も、白ご飯の下に、おかずが詰められたシリーズもあったな。
 時間が取れれば、一度家へ帰るか。仕事辞めたのも言わなきゃいけないし。

 まあその後、子供たちのお腹がいっぱいになった頃に、御暇した。
 美月は手伝いをするようなので、放って帰った。

 なんだかゆっくりできて、楽しかった。
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