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第4章 少しずつ変わって行く世界

第21話 壮二。修学旅行の秘密

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 女の子が、男に絡まれている。
 
 そんな様子を、横目で見ながら、
「あの子たちかな?」
 俺は、自分の後ろに立って、おろおろしている3人に確認する。

「そうです。あの子たちです。でも、見つかったのはよかったけれど、絡まれちゃった。どうしよう?」
「まあ、何とかなるよ。多分」

 絡んでいる奴らに、歩み寄りながら考える。
 周りに家族はいないけれど、ぼくもあの家族の一員だから、きっと普通からは外れている。
 力加減を間違えないようにしないと、相手を簡単に殺しちゃうはず。

 男たちと女の子の間へと、体を割り込ませる。

「ちょっと、どいてくれ。君たちがはぐれていた子たちだよね。班の子たちがあそこで心配しているから、早く行ってあげて」
 そう言って送り出す。

 ……当然。
「なんやこら。割り込んできて、何に勝手さらしとんじゃぁ。しばくど、ボケェ」
 そんな、どこかで聞いたことのあるセリフを言ってきた。
 見た目は、普通の大学生のようだけれど。

 頭の中で、スイッチを入れる。
 こいつらはモンスター。今から退治する。
 そう考えて、相手をにらむ。

「「ひぃー」」
 にらんだ瞬間。
 二人とも一瞬腰を抜かしたようだが、どこかの悪の組織にいる、戦闘員のような声を残して四つん這いになりながら逃げて行った。

「「「ありがとう、ございました」」」
 そう言って、3人とも頭を下げてきた。

「いや大したことはしてはいないし、無事で何より」
「あの閉結界を、壊してくれたのはあなたなの?」
「閉結界?」
「そう、私の力では壊せなくて困っていたの。千本鳥居に入った瞬間に、お狐様が横切って行ったから、遊ばれたのだと思うけれど……」
 さっき絡まれていた女の子。

 この6人は、かわいい子の集まった班のようだが、その中でも一番かわいいというかちょっときつめの美人顔。
 黒髪で、肩にかからないくらいのショートボブ。
 身長はほとんど一緒か、ちょっと負けている?

「ああ、空間の隔たりを感じたのがそうかな? 魔力を纏わせて、殴ったら壊れた」
「殴って壊したの? あなた何者?」
 そう言って、ずいっと怪訝そうな顔が寄って来た。

「神音(かぐね)集合だって」
 そう呼ばれて表情が変わり、戻ろうとしたが、再度こちらを振り返り
「あっ、また後でね。私は、鵜戸 神音(うと かぐね)」
 そう言い残して走っていった。
「俺は、少林壮二(わかばやしそうじ)」
 と返したが、その声が彼女に聞こえたかどうかは分からない。


 逃げ出した二人。
「やべぇ。あのガキ何もんだ? にらまれた瞬間。絶対殺されると思ったぜ」
「ああ俺もだ。危うく、小便ちびる所だった。絶対あのガキ、二桁は殺しをやっているんじゃないか?」
「ああ、あの落ち着き方。ぜったい、鉄砲玉じゃねえ。本職だ。制服着ていたから学生だろうが、どこかの組の跡取りで、英才教育とかで殺しを仕込まれているんじゃないか?」
「そのうち、下着会社に就職するんだぜきっと。関東は恐ろしい」




 その晩。
 うちの班の部屋へ、鵜戸さんはやって来た。

 夜に男の部屋へ女の子が訪ねてくれば、当然のように同じ部屋の連中からはやし立てられる。
 周りがやかましいので、彼女と一緒にロビーの方へと移動した。
 部屋にいた連中、みんなどうして、とっさに自己紹介をするのか不思議だ。

 ロビーの方は、なぜか人気がなく空いていた。
 ソファーへと座り込むと、なぜか彼女も隣へ座って来た。

「ごめんね、騒がしい連中ばかりで」
 俺がそう言うと。
「いえ、まあ予想はしていたけれど……それでも。どうしても、あなたに会いたくて来ちゃったの……」
 そう言って、何かもじもじしていたが、思い立った様に、
「あなた一体何者なの?」
 体をこちらへと向き直り。ビシッと音がする勢いで指をさして来る。
 背景が暗転と同時に、効果音がババーンと聞こえそうな勢いだ。

 おれは、
「人を指さすなよ」
 そう言って、こっちへ向いている彼女の手を握って下す。

「単なる、普通の中学生」
 そう答えて見たが、許してくれないようだ。

 やれやれと思いながら、話せる部分だけを話そうと説明を始める。
「家族全体で、会社をやってる。ダンジョンの駆除とかモンスターの駆除とか」
「でも、壮二くん中学生じゃない」
 いきなり名前呼びされた。まあいいけど。

「いやまあ、いろいろ便利だから、危なくないようにトレーニングとかしているし。一司兄ちゃんがいろんなコネがあって、中学生でもダンジョンへ入れるんだよ」
「何時から? もう長いの?」
「半年―、いや7か月かな?」

「そう…… それで、あの気力なのね。あの二人に気を向けたとき、私も腰が抜けるところだったわ」
「気力?」
「武道とかでも使う言葉だけれど、自分の精神力を高めて達人になると、気力だけで相手を倒したり威圧したりできるの。あなたの…… すごかったわよ」
 そんなことを言いながら、ほほを染められる。
 人が聞いていたら勘違いされそうだ。

「私の家も代々宮司をしていて、子供のころからいろんな修行をしてきたの。今回のことは、私の中ではお狐様のいたずらだと思ったけれど、お導きだったんじゃないかと思っているの。今回、あなたに出会ったのは…… 運命よきっと。壮二くん、これからよろしくね」

 そう言われても、どう返していいのか分からない。
 答えを迷っていると、
「ひょっとして、許嫁とか決まっているの?」
 真顔でそんなことを聞いて来た。
「いや許嫁とかはいないし」
 じゃれついて、からかって来るのは一人いるけれど……。

「あの、壮二くん手を放してくれるかな?」
「えっ」
 そう言われて視線を下ろすと、彼女の膝の上に彼女の手があり、その上に俺の手がかぶさっている。
 あっ、さっき指差しを下ろさせた時から、握りっぱなしだった。
 
 手を放し、顔を上げながら謝ろうと上を向くと、彼女の顔がもう目の前に来ていた。
 ちゅ。「うぐっ」うわっ舌が入って来た。

 少しして、離れると。
「初めてだから下手かもしれないけれど、私本気だから…… 壮二くん。よろしくね」
 そう言ってもう一度、唇に軽くキスをして。彼女は走っていった。

「いや、俺も初めてなんだけど……」
 見えなくなった彼女にそう言って、誰もいないロビーで一人。
 唇を押さえながら、しばらく呆然としていた。
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