俺達は暗闇の底で、そっと世界を守る。

第一章 少年達の日常

第5話 政

「困りますね」
　若く痩せ型の男。
　祭家の三十八代当主。
　祭　導示まつり　どうじ二十八歳。

　彼は少し怒っていた。
　家の者に関わられたからと、家族を攫おうとしたこと。
　目の前では、総理以下関係者が頭を下げる。

　警官や自衛隊が最強の暴力組織だと思っているが、実は違う。
　当時の内閣と少し齟齬があり参加をしていなかったが、第二次世界大戦時も正規の手順で彼らが参加をしていれば勝っていたかもしれない。
　その位彼らの能力は強力だ。

　きっとアメリカの船は浮力が得られず沈み、潜水艦は水深メートルで圧壊し、航空機は揚力がえられず飛べなくなり。戦車は重みで地面へと沈んでいく。

　きっとそうなる。
　歩兵？　ある線を超えた瞬間に、神風が吹きすさび波に呑まれるだろう。

「今回は、その一部の隊員が訳も分からず暴走をした様だ。すでに処分は行った」
　その手には、リストが握られていた。
　だがそんなモノには興味など無い。

「次はありませんよ」
　そう言って彼は、その場から消えた……


　そう祭家は特殊。
　四元素に含まれない特殊な力を持つ。
　刻だったり、時空だったり、人としては持ってはいけない力を持つ。

　その一言で、陸斗の誘拐未遂は片がついたようだ。


　そうそう、狢むじな探しの一件だが、陸斗と一緒に現場付近へ行くと、狢を腹の上にのせて雫はあえいでいた。

　人気の無い廃墟。
　生い茂る草の中で……
「ああん。颯司、やっとその気になったくれたのね」
　そんなことを言っている、雫の上、狢はふみふみとよく猫の子どもがする運動をしていた。
　それで喜ぶ雫。
　横でフラッシュがたかれる。

「そんなモノを撮ったら雫に殺されるぞ」
　陸斗にそう言いながら、気を纏わせながら狢を蹴る。

　クリティカルに効いたらしく、一発で退治が出来た。
　問題は、雫。
　狢は精神的な願望を拡大して夢を見せる。
　そう、ちょっと気になるとかが大好きとなる。

　その術が冷めると、正気になる。
　つまり……
「えっあれ？　颯司？　ここっ？　あれ部屋？」
　そう混乱をする。

　狢をぶら下げ、写真を撮る。
「んらーいい」
　通知が鳴る。これで三千円。

「あっそうだ狢」
「お前戯れていたぞ」
　つい言ってしまう。

　そしてやめれば良いのに、陸斗がスマホを見せる。
　そしていつの間にか動画を撮っていたらしい。
　狢に襲われ喜んでいる雫。
『ああん。颯司、やっとその気になったくれたのね』
「いやあああぁぁ」

　そのパンチは、きっと音速を超えた。
　周囲に衝撃波のはじける音を残し、スマホが粉砕され陸斗の指が幾本か折れ、そして顔面が崩壊をして、自身の意思では無いバク転をその場で披露する。

「いいやああああぁぁ」
　すごい勢いで雫は消えてしまった。

　その後、風で癒やし陸斗を連れて帰る。

　その後、朱莉は探し疲れて帰ったとか報告が来て、その後雫からメッセージが来る。
『あれは、化かされていたけど本心だから。いつでも襲ってくれていいから』
　そんな連絡が来た。

　いや前々から、知っているし。
　でも襲っていいからってなんだよ。
　そうこの時俺達は中学生。
　まだそんなに、よく分かっていなかった。

　そうみんなが大事とは思っていた。

　家族とは違うが、昔から知っている仲間。
　そう大事な人達。

　そうなんだよ……

「だれだぁ。こんな事をしたのはぁ」
「颯司。怒るの後。治療して。まだ生きているからぁ」
　朱莉に言われて正気を取り戻す。

　道ばたで倒れ、彼女のぱっくりと開いた傷から血が流れ出す。
　雫の脇腹から、胸骨を切り抜けている刀ぽい鋭利な傷。
　息をしようとしているが、できないようだ。
　
　治療の前に、周囲ごとまとめて浄化をして、治療をする。
　流石にこの状態では陸斗もふざけない。
　すぐに周囲警戒へと移行する。

　背中のぞくぞくで、近くに居るのは判っている。
　コイツは、俺達の相手をできる相手じゃない。

　直接手で、傷を合わせながら治療を促進。
　外側だけ先にくっ付ける。
　まだ息ができず、パクパクしている。
「くっ」
　マウスツウマウスで、息を吹き込む。
　これで、縮んでいた肺が広がるはず。
　傷を治しつつ、息を吹き込む。

　これ以上無いくらい、力を使い治療した。
　失った血液は戻らないが、傷も……　あまり、残らないだろう。
　青かった顔が少しましになった。
　おれの上着を着せる。

「颯司？」
「ああ。痛いところはないか」
「色んなところが痛い。相手は女。下半身が蜘蛛だった」
「判った。まだ治療中だから使えそうなら、自分でも直せ」
「んー。わかった。ねえ……　キス……　どうだった？」
「んなっ」
　驚き、思わず落としそうになった。
　いつから気が付いていたんだ。

「そんな事は後だ。まだ相手は近くに居る」
「けち」
　イーとされる。

　風で探るが、相手は地下を逃げていった。

　この日俺達は狐を追っていた。
　だが、見当たらず、雫は住宅地の方にまで足を伸ばしていた。

　家の壁を乗り越えてきた相手と、鉢合わせをしたらしい。
　とっさに氷でシールドを張ったようだが、相手の剣の方が鋭かった。

「颯司君すまなかったね」
「いいえ。取り逃がしてしまいました」
「まあ雫から話を聞いて、あれは私たちの仕事だと分かった。本家にも連絡は入れてある。君達も気を付けてくれ」
　おやっさん水祭　流水みずまつり　ながれは着流しでいつも渋いな。
　水祭の家を後にした。

　翌朝、メッセージアプリに情報がきた。
　飛び出してきた家。
　あそこが裏稼業の家で、外国の企業と何かあって恨みを買ったらしい。
　それを引き受けた殺し屋が、雫と出会ったモンスターだったようだ。

　知らなかったが、アラクネーとか言うらしい。