俺達は暗闇の底で、そっと世界を守る。

久遠 れんり

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第一章 少年達の日常

第6話 勲章

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「はあー。傷…… 残っちゃった」
 雫はシャワーを浴びながら、自らの体を見る。

 数時間前のこと、狐を追いかけていた。
 だが一向に見つからず、住宅街の方へ足を伸ばした。
 この所、お小遣いがもらえていない。

「大体、風で何処でも探れる、颯司がずるいのよ」
 そう言いながら、自分の周囲に水を張り巡らせ、探り始める。

 そして、彼女の意識が、立ち位置周辺から外れたとき、不意に民家の壁を越え、三メートルくらいの蜘蛛が降ってきた。

 その上半身は女の人。
 静止している上半身とは違い、一本の足がかすんだ。
「やばっ」
 訓練のたまものか、とっさに氷を作りシールドを張る。

 だが、結構鋭く、すっぱりといかれた。

 ムチか何かで叩かれたような感覚。
 彼女の初めて。
 バッサリと切られた。

 腹圧で押し出される内臓。
 胸骨が切り開かれ、息ができなかった。
 でも、命を。颯司が息を吹き込んでくれた。
 そっと唇を押さえる。
 まだ感触を覚えている。
「ふふっ」

 それから二時間後。
「ほら、早く起きなさい」
 しっかり起こされる。
 またシャワーを浴びる。

 今度は目覚めるため、冷たい水を……

「眠い。あと二日で土曜日。ゆっくり寝てやるぅ」



「おっはよう」
「雫。おはよう」
 学校に行けば、友達くらい居る。

 楽しいおしゃべり、そして眠りを誘うホームルーム。
 睡眠作用のある授業。
 学校は、私を殺しに来ている。
 こんな責め苦、贖える訳はない。

 座っていたが自然に目が潰れ、机へ思いっきり頭突きをする。

 ゴンという音は、思ったより響き、注目を集めた。
「いつものか?」
 呆れたように先生が聞く。
「そうです」
 その後は、きちんと突っ伏する。

 背後から友人がペンでこしょこしょするが、その位では私に勝てない。
 だが、不意に思い出す。
 あの蜘蛛。

 畜生。

 そう私は寝ていた。
 だが戦っていた。
 視界を塞ぐ霧を発し、それに忍ばせ、氷の槍を蜘蛛に向けて……
「きゃあぁ。何これぇ」

 そう、叫び声が出るまで起きなかった。
 手前の霧で、クラス内はかなりザワついたようだ。
 霧の中で形成された、一メートルくらいの槍。
 それはもう少しで、先生を撃つところだった。
 危ないところだった。

 私たちの力は、基本的に法ではさばけない。
 お願いをしたら犯罪となれば、人間全員犯罪者。

 人間生きていれば、あの野郎こけろとか、もげろとか思うでしょ。
 そのたびに起訴。
 無理無理。

 ああそうね。つららを手で持って刺せば立件できそう。
 しないけど。

 まあ、今のは寝ぼけていたけど危なかった。
 先生なんて、幾度もこけろとかもげろとか思ったけれど、殺すほどじゃない。
 浮いている槍を消滅させる。
 そして、霧も消す。

 当然体勢は、机に突っ伏したまま。
 バレてない、バレてないと繰り返す。

 そう、ここの学校では、怪現象が時折報告される。
 プールの水が突然現れたり消えたり。
 校庭に、机が並んだり、土偶が並んでいたり。

 校庭の草が、綺麗に刈られていたり、夜でも無いのに人魂が目撃されたり。

 校舎の壁が綺麗に洗われていたり、校長先生の話が長いと、校長先生にだけ雨が降ったり。
 まあ色々起こる。

 この町全体がその手の話が残る町だし、仕方が無いという風潮がある。

 岩手県の遠野までいけば、座敷童の伝承もある。

 ここは幽奇ゆうき市。

 地名にも色々残り、御陵町とは旧魅了町だし、奥津根町は旧御狐町だ。
 蛇原などもある。

 だが周りを山に囲まれ静かな町。
 なぜか、町の予算は豊富で暮らしやすい。

「あれ、雫。そんな傷が、どうしたの?」
「ああ。うん」
 水着になると、脇腹からの傷跡がうっすらと見える。
 特に体が温まると浮き出すようだ。

 普通のクラスメイトは、当然傷のことを知らなかったか。
「治さないの?」
「うーん。良い。これは反省と記念だから」
「なに、勲章なの?」
「そうそう」
 そう言って、パシャンと飛び込む。

 プールは好き。
 唯一、颯司に勝てるから。

 水流をコントロールすれば、時速五十五ノット。百キロだって超せる。
 無論、普通の水着だと、全部脱げるからしないけどね。

 だけど何時だったか、ラーメンを賭けたとき、奴は水面を走ったのよ。
「自由形だろ?」
 そんなへりくつを言って。

 まあ、ラーメンは美味しかったし、四人一緒だったけど楽しかったし。
 いいけど。

 私たちが授業で楽しんでいると、山の中腹が吹っ飛んだ。
 その瞬間に、大首が空を飛ぶ。

 お父さん達は、空を飛びながらそいつを追いかけていた。
 無論見えたのは、爆発があった一瞬。
 私のお父さんが、水を使い、周囲の光を散乱させて見えなくしている。

 お父さん達も、ああやって町を守っている。
 頑張らなきゃ。

 だけど、その時私たちは思っていなかった。
 アラクネーと同じように、海外の者達が日本へ密かに入り込んでいたことを。

 そう、大陸のやばい人達が戦力として、連れてきていた。

 無論、低位の物の怪達は、意思の疎通など難しいが、上位の妖怪やモンスターなどは意思の疎通もできるし、低位のモノを従えることもできる。

 それは静かに、日本の中で広がっていく。

 そして仕事上、ぶつかるのはすぐそこだった。
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