俺達は暗闇の底で、そっと世界を守る。

久遠 れんり

文字の大きさ
26 / 55
第三章 暗躍する者達

第26話 最凶

しおりを挟む
「お前達が探しているのは、俺だろう? それとも餓鬼どもか?」

 吹っ飛ばされた翡翠は、まだ動けないようだ。
 癒やしの風を巻き付けておく。

 この鬼は大嶽丸おおたけまる

 その昔、伝承では坂上田村麻呂が倒した最強クラスの鬼だそうな。
 空を自由に飛び、火の雨を降らして、雷も操ることができたとされる。
 討伐を依頼された坂上田村麻呂は、三万の軍勢で向かったが、数年も足止めを食らった。
 鈴鹿御前の協力を受けて、一騎討ちに持ち込む。
 大嶽丸は何百もの剣や矛を操って飛ばしたり、何千にも分身をしたという。

 田村麻呂は神通力を使い、千手観音や毘沙門天の力で剣や矛を撃ち落として、神通力で矢を何万に増やしたことで、大嶽丸を追い詰め最後は、ソハヤノツルギで、その首を落としたなどと言う、最悪な鬼がそこにいた。

「鬼童丸から聞いたが、人間はさあ、今害獣なんだろう? 人間自身が温暖化対策って言って何とかしようとしている。とりま…… いただきまーす」
 大柄な体が、一瞬ぶれる。

「くっ。風よ」
 殴りに行った拳を、雅美は眼前で防ぐがその拳は強力で、あっさり風を突き抜けてもろに顔で受ける。

「ぎゃあぁ」
 吹っ飛んでいき、一発で意識を刈られる。
「くっ雅美。畜生」
 建物の中なのに、炎珠がかまわず火を放つ。

 その隙に、雅美を拾いに行くと、逃げにかかる。
 同時に、満は翡翠を拾いに行く。

 エレベーターは避け、非常階段へ飛び込む。
 だがよく見れば、硬質なワイヤーが張られている。
「ちっ」
 炎珠の炎と、満の扱う水のムチが、ワイヤーを切り飛ばす。

「こら、雅美起きろ。起きないと尻を触るぞ」
 だが完全に意識が飛んでる。
 あの拳はかなり強力だったようだ。

「風の探査が欲しいよう」
「泣き言を言うな満」
 二人は、小脇に人をぶら下げているため、動きがどうしても鈍る。
 それに、探査が不得意。

 満が霧を張り巡らせば、動きは見えるが、自分たちの動きが鈍る。
 そう四種の能力者がセットなのは意味がある。

 そして相手が強かった。
「どーん。もう少しだったのに残念。以外と今の術者は弱いなぁ」
 いきなり目の前に大嶽丸が現れて、抱えていた翡翠ごと満が吹き飛ばされる。
 そのまま階段を転がり落ちていく。

「ふんっ」
 腕を振り上げるだけで、炎弾が消滅をする。
「畜生、化け物め」
「もう良いだろ、諦めろ」
 大嶽丸はいきなり分裂をして、手に持つ剣を振るってくる。

「くっ」
 躱す、躱す、躱すだが、どうしても反応が遅れる。

 雅美が重い。
 だが捨てるわけには、いかない。

 そう思っただが、彼の左肩がスパッといかれた。
 雅美が落ちる。
 その意識が、鬼から離れた。

 そう決定的な隙。
 彼はパンチを食らい、上階の踊り場まで階段を転がり上がっていった。

「うん、まあこれで終わりだな。美味そうだ」



「戻ってこなかった?」
「ええ、そう連絡が来ています」
「歳は?」
「二二歳と二三歳だそうです」
「若いな、だが解放はされていたのだろ」
「ええ。まあお気をつけて」
「分かった周知しておく」

 本家祭家から、緊急通達。
 一つ、チームが消えた。
 異常事態が起こっている。

 分家でも、そんなにバカみたいに力に差があるわけではない。
 体術や、技の扱いに家独自のものはあるが、それでも……

「子ども達は、しばらくアルバイト禁止だ」
 コミュニケーションアプリに、そんな文言が流れてきて俺達は驚愕をする。
「なっ、夏休みに小遣い無し……」
 その時、それを受け取った全員が、怒りに震えたという。

「おのれ、鬼どもめぇ」
「許さんぞぉ」
 とまあ、未成年も沢山居たのだが、切りの良い中学三年生とか高校三年の者達はイベントを考えていたようだ。

 幼馴染みから、一歩その先へ。
 そのためには、お祭り、そして花火。
 キャンプ、などなど。

 まあそんな感じで、ウキウキしていた。
 それがすべて消えたのだ。

 そのおかげで、憎悪は鬼へと向かった。
 諸悪の根源は鬼ではなく、生き霊いきすだまなのだが、彼らはその事を知らない。


 今、地球環境のために、人間は駆逐されるようだ。
 そしてその後は、スタッフがきちんと頂くようだし、問題は無い。
 徒党を組む警官、そして術者達は、今標的にされた。

 場所は、川の土手。
 連絡が入り、現場へ向かうパトカー。
 脇から何かが、出てきて、左前で跳ね飛ばしてしまった。
「むっ、今子どものようなものを轢いたぞ」
 助手席に乗っている同僚が、めんどそうにぼやく。

「緊急走行中でもまずいか、止まろう」
 最近はドラレコも付いている。

「うん? ああ畜生、左のフェンダーが潰れてやがる。報告書が面倒だ。何かいたか?」

 土手側を見下ろした状態で、同僚の動きが止まっている。
「ちっ、こんな時間に本当に子どもだったのかよ」
 文句を言いながら、覗きに行く。

「おいどこだ」
 同僚の肩に触れると、彼は法面を滑って行ってしまった。
「ああ、おい。大丈夫か?」
 だが返事はない。
 キョロキョロと階段を探す。

「あっちか、なんだって言うんだよもう…… 痛て!」
 ライトを当てると、ふくらはぎに噛みついている子鬼。

 最近は、この手は撃って良いとなっている。
 距離が近いから、抜けた後の跳弾が怖いが、そんな事を言ってられない。
 食いちぎられそうだ。
 発砲。 

 だが、その音は関係ないと思うが、囲まれていた。
 パトカーに飛び込み、救援を求める。

 その日十台もの、パトカーが壊され、多くの警官が消えた。
 そう、何かが始まった……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

処理中です...