世界は危険に満ちている。気を抜いてはいけない。

久遠 れんり

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第一章 異変の始まり

第6話 理不尽と新属性

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「君だね? 通報をしてくれたのは」
「はい。そうです。ここが、ゴブリンの巣で。中で、こいつらを助けました」
 俺の横に立つ、ボロボロの服を着ている。高校生達。

「君達、先日から、行方不明になっていた子達だね」
「えっと。多分そうです」
 一人が、答える
「事情を教えてくれたまえ」
「はい」

 そう言って、彼らが連れて行かれる。
 ぼーっと見送る俺に、もう一人の警官がそっとつぶやく。
「君。完全に巣を潰したの?」
「はい」
「それはご苦労さんだね。でもね、ゴブリンの巣は、見つけたときに、連絡をくれると懸賞金が出るんだ。潰しちゃうと、もう単なる洞窟だから、ご苦労様で終わりだよ」
「えっ?」

「もしかすると、あの子達の親から、謝礼くらいは来るかもだけど。当てにはしないでね。今度からは、見つけたらすぐ連絡頂戴。そうか、潰したのか、それも一人で。いやあ。それは凄いね。いやあまあ。うん。君は凄い。はっはっは」
 そう言って、肩を叩いてくる。地味に痛い。
「いや。ご教示ありがとうございます」
 俺は思わず、膝をつく。

「理不尽だぁぁ」
 どこかの主人公のように叫ぶ。

 俺は、疲れ果て。しかし、嬉しそうに手を振る高校生達が、どなどなされていくのを見送る。
 取り残された俺は、バスに乗るため、駅方面へ下っていく。

 すると、高らかにファンファーレが鳴る。
 無論、悠翔からの着信だ。
 おうまさん少女が、スマホの中でにこやかに手を振っている。
 無論。悠翔と、優勝をかけてある。読みは、はるとなんだが。
 これは俺の趣味ではなく、悠翔の趣味だから。そこは重要だからな。

〈おう。悠翔どうした?〉
〈どうしたじゃない。今どこにいるんだ? 皆ミーティングで、居酒屋に集合しているぞ〉

〈ああ。それなら、もうない〉
〈はっ? 無い? 何だそれ〉
〈俺が潰した〉
〈潰した? それはそれで凄いが、賞金はまさか独り占めか?〉
〈賞金もなかった。完全に潰すと駄目だそうだ〉
〈何やってんだよおまえ。とにかく来い〉
〈分かった〉

 無論行ったら、口々に責められ、俺のおごりでとなった。
「畜生ぐれてやる。皆よってたかって。今朝から、凄くついていない。おい万結。俺の背中に、鎌を持った死に神とか、貧乏神とか引っ付いていないか?」
「うん? 背中? リンゴでも、置いておこうか?」
「馬鹿野郎。撒き餌をするな」
 そう言って、ジョッキをあおる。

「あーもう」
 そう言って愚痴っているのは、万結。

「ほら起きて、重いよ」
「大丈夫だ、真っ直ぐ歩いている。俺の中ではな。歪んでいるのは道だ。ふにゃふにゃしやがって」
 そうくだを巻きながら驚いていた。
 うーむ。世界が明るい。夜なのに。
 ビールも、13杯ほど飲んだが、すでに冷めてきている。
 何だこれ。足はまだふらついているが、うーん。

「うちのマンションへたどり着き、部屋へ上がる」
 当然だが、玄関から上がり、ソファーへ倒れ込む。

「あーもう。ほらお水。飲み過ぎだよ。それじゃあ。あたし帰るからね。ちゃんとお布団で寝るのよ」
 そう言って、帰ろうとした、万結の手首を掴む。
「だめだ。万結。ここにいろ」
「えっ」
 万結が、それを聞き。嬉しそうな顔になる。

 その時、俺の目じゃなく、頭の中に見えた景色。

 文句を言いながら、帰っている万結の前に。ゴブリン達が現れ、さらわれる。
 巣の中には、変異種がいて、立派なもので貫かれ。喜んでいる万結が見えた。
 
「あっ。元気になっている」
 その声で、予知? 明晰夢? とにかく。それから目が覚めた。
「やっと、受け入れる気になったんだ」
 そう言って、万結が覆い被さってくる。
 知らなかった。俺NTR属性があったのか?

 そして、あのじいさんから、力をもらった俺の才能は。
 完全に開花してきたようで、凄かった。
 歯止めがきかず。

 あの元気な、万結が。限界を超え。かっくんかっくんしていた。
 抱きしめた彼女は、思ったよりも小さく。か弱かった。
「もう許して」
 とうとう、泣きが入った。

 そして。悲劇は起こる。
「ねえ、改。やばい。腰が。力が入らない。私トイレに行きたい。漏れる。連れて行って」
 仕方が無いので、連れて行く。
 だが、本気で力が入らないようで。座らせるが、倒れてくる。

「うー仕方が無い。歩坂万結。新世改に、すべてを見せます」
 顔が凄く赤くなっているが、勢いよく済ませると、命令してくる。
「はいビデ洗浄。そして拭いて。すごい。ビデで感じた。普段は痛いのに。はい抱っこ」
 そして、寝室へ運ぶ。
「お水。飲ませて。んんっ。ぷはっ。しかし凄いね。それ」
 そうずっとギンギン。

「俺も分からないが、おかしいなこれ」
「えーそこは素直に、万結が魅力的だからだよ、とか言ってよ」
「あーまあ。そうかもな。魅力的、魅力的」
「ひど。んーチュウして。んんっ。んあっ」

 結局、翌日。昼過ぎになるまで、万結は動けなかった。
 ところがだ、復活した万結は、元気いっぱいになっていた。

 慢性的な腰痛や、肩こりが治ったらしい。
「ストレスが、念願叶って飛んだのかな。いや、相手をしてくれないのがストレスだったのか? 難しい問題だ」
 訳の分からないことを言って、万結はうむむと、首をひねっている。

 もう授業は諦め、夢で見た用水路に行く。
 すると中から声が聞こえ。今度は無事通報。
 当然横にいた、万結に、懸賞金半分を取られる。
 おれは、昨日のファミリーレストランと、居酒屋分がチャラになった。振り出しに戻る状態。

 警察が潰すのを見物していると、一匹。上位種に変異したやつが、警官を蹴散らし、こちらへやってくる。こいつは、夢の中で万結を喜ばせていた奴。
 ついむかっとして、殴ってしまう。
 認めたくないが、おれは、万結のことが好きだったようだ。

 起こってもいない。NTRに対する焼き餅で、首から上が吹っ飛ばされ、奴は消失して消えていく。
「ねえ。今、何をしたの?」
「さあ。愛の力?」
 万結が聞いてくるが、とぼけながら、魔石を拾う。
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