静に広がった彼の願いは、世界を平和へと誘(いざな)う。

久遠 れんり

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第1話 始まり

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 ある日、一人目が発見された。

 ある店のレジ前で、男が騒いでいた。
 此処は町外れにある、小さな喫茶店。

「うらあ。あの味で千五百円は高いだろうがぁ。五百円で良いだろ」
「お客様、料金に納得をした上で食事をされましたよね。支払えないと仰るなら、警察を呼びます。よろしいですね」
 レジのお姉さんは気丈に対応をする。

 男が注文をしたのは、とろとろオムライスセット。
 特性ケチャップライスに、とろとろオムレツをのせ切れ目を入れ、そこにデミグラスソースとクリーミーなホワイトソースの二種類がかかっている人気商品。
 『愛と欲望の、欲張りオムライスセット』
 食後のケーキとコーヒー付き。
 このセットで千五百円は決して高くは無い。

 だが彼の考えたオムレツは、薄い卵で包みケチャップをかけた昔ながらの物。

 まあいけるかと食べたのだが、その後にこれじゃない感が彼の中で広がったようだ。

「なんやと、呼べるもんなら呼べや」
 そう言って、そこにあった壁を蹴る。
 化粧合板だった壁に穴が開く。

「お前の対応で、何が起こるか分からんぞ」
 などと言ってニヤニヤ。

 だがニヤニヤした顔が、いきなり驚きに変わっていく。
 彼女はよく分からなかったのだが、その男の体が静かに揺れ始める。

 その震えは徐々に激しさを増して、彼はとうとう……

 踊り始めた……

 両手を頭の少し上に構えて、ゆらゆらと……
 中腰で、足は奇妙なステップを踏む。

「お客さん、おやめください」
 彼女は、これが男の迷惑行為だと思っていた。

 だが、警察を呼び拘束をされても、彼の体は踊ろうともがき苦しむ。

 その後男は、三日三晩踊り続けて、苦しみの中で死んで行った。


 その奇妙な事件は、ニュースにもなる事なく、終わったはずだった。

 だが、その二日後、同じ様な事件が発生する。

 それは交通事故現場。
 駐車場から出てきた車を、強引に追い抜こうとして接触。
 彼が素直に止まれば、事故にもなっていないのに、ぶつかった。

 でまあ、定番だがオラオラと言いながら、百対零を訴えて男は脅す。
「飲めないなら、人身にするぞ」
 定番の脅迫。
 被害者が被害届を出そうかと考えながら、報告義務を果たすために通報中……

 その男は踊り出す。
 奇妙な事に、音を止めろだの、なんか叫んでいる。
 警官が来た時には、泣きながら踊っていた。
 この男は、昔懐かしのツイストを踊り、もう少しで靴の裏から煙が立ちそうだったとか……

 そして、そんな事件は増えていく。
 無論踊りも、各地方やジャンルの垣根を越えて千差万別。

 その被害者は、飲まず食わずで踊り、そして死んでいく。


「謎の凶器、乱舞変死事件捜査本部」
 警察は事件性があると考えて、そんな飾りっ気の無い戒名が掲げられる。

 一応気合いは入っていた。
 それなのに…… 
 その直後、被害者の体内からウィルスが発見される。
 当然、捜査本部は解散となる。

「連続変死事件は、このウィルスに罹患後、怒りの感情により発病。死に至らしめる物だと思います。ノルアドレナリン、ドーパミン、アドレナリンなどと反応をするウィルスが、過剰なセロトニンやメラトニンの分泌を促すなどのホルモンのバランスを崩します」
「どうして踊るのでしょう?」
「それはまだ不明です」
 記者会見は紛糾をする。

 そして、興奮状態で質問をしていた記者が踊り始める。
「あっおい。誰か押さえろ」
 だが今、原因がウィルスだと聞いたばかり。

 周りの皆は当然だが、皆はカサカサと、よく見る黒い生き物のように逃げ始める。

 完全防備の救急隊員が来るまで、彼は泣きながら踊り狂っていた。彼の踊りは、地元で踊られている念仏踊りだった。


「対策本部を設置する」
 国は対応を始める。

「ワクチンの開発をしましょう」
 そう言い出した頃には、被害者? は爆発的に増えていた。
 だがネット上には、冷ややかな意見が飛び交う。

「クレーマー撃退ウィルス」
「世界が平和になる」
「お天道様は見ている」
 そう、ニュースが出始めてからクレーマーが激減していた。
 
 政治的な物、環境問題、Etc。
 何にでも、噛みつく連中はいる。
 だが確実に、そして急速にその人数は減っていく。

 その開発者は、ニュースを見て喜んでいた。

 そうこのウィルスは、意図的に開発されてばらまかれたテロ行為。警察の読みは、ある程度当たっていたのである。
 ただ……
 拡散は事故だったのである。



 ―― 彼は、あるクレーマーに粘着されて、あることないこと個人攻撃までされ始めた。
 仕事は、あるメーカーのクレーム対応。

 本来は商品に対する、不良品対応とかを行う場所である。
 そこに掛かって来た電話から、すべては始まった。
 それは、彼の持つ心の器を超えて、彼の精神を壊し始める。

 ストレスによる胃炎、脱毛、不眠、拒食、彼は死にかかり、壊れそうな体を奮い立たせて行動を始めた。
 そうその間に発生をした、愛する彼女との別れもトリガーとなる。

 彼は、友人を頼ることにする。
 友人は脳科学者であり、脳と感情の研究を行っていた。

 話を聞いて彼も頷く。
 昔から、今の世界がおかしな方向へと向かっていることを、彼も危惧していた。

「そうだな、ウィルスによるアンガーコントロール。良いかも知れないな」
 そうして彼等は、開発を始めた。

「まず怒りの感情はどうして起こるのか? それを考えよう」
 そう彼等の望みは穏やかな暮らし。

 増えすぎた人類は、今滅亡に向かっているのかもしれない。
 他者への攻撃的感情は、近年増えすぎていて、大国の代表達でさえ自身の力を鼓舞して、他国へと干渉を行っている現在。

 理不尽な要求を、ただ他者へと押しつける。
 それが正当化されて、多くの人達の行動をスポイルする。
 自分が思う事を他者に押しつけ、それが正しいとされる歪んだ世界。

「世界を救おう」
「頼む」
 そうして、彼等は行動を起こした。
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