地球に奇跡を。-地球で魔法のある生活が、始まりました-

久遠 れんり

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第一章 何かが起こった

第2話 学校でも話題は同じ

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「おはよー」
 いつもと同じ光景。

 ただし、俺の腕には、がっしりと彩がしがみついている。
「えっ、あら。彩どうしたの?」
 うん、そうなるよ。
 教室の中へ入った瞬間、皆が二度見。

 最近、朝に学校へ来ると、能力を得たとか得なかったとか、それが定番の話題だった。
 だが、今朝は少し違ったようだ。

「えへっ。婚約しちゃった」
 いきなり暴露をしやがった。

 ほら、教室の空気が変わった。
 幾人か、野郎どもの目が、このヤローと訴えている。

「えーすごい。親も公認なんだ」
 わいわいと盛り上がり、さすがに腕を放してもらえた。

 今朝、家から出ると、玄関で待ち伏せ。
 そこから、がっしりと腕を組まれていた。

 おかげで、やっと血が流れ始めたらしく、痺れが出始めた。
 俺の腕は、まだ生きていたようだ。
「あっおい。先生に能力の申告をしとけよ」
「あっ。うん」

 能力になれない間、突発的に発動する事がある。
 そのため、能力保険が存在する。

 学校は諸問題を回避するため、保険を掛けるというお題目で、生徒の能力を把握している。まあ能力も個人の資質の一つ。内申が少し上がるようだ。

 でだ、ホームルーム。
 先生の機嫌が悪い。
「うーす。報告がある。佐藤と鈴木が婚約。親御さんから報告があった。これで人口比率で佐藤という名が一歩リードだな。くれぐれも在学中に子供は作るな」
 そう言いながら黒板に二人の名前と婚約と書いていて、途中から、キキィと黒板をひっかくような音。

「なあ…… 佐藤。先生は最近なぁ。夜に、採点をしながら飲んでいるとだ……。部屋で一人、黙々とだ。当然サビ残だ。で…… 思うわけだ。人間おぎゃあと生まれ、生きて死んでいく。その営みの中で、恋人を作り子供を育てる。それは生物としてのまっとうな姿」
 先生の背中が、ぷるぷると震える。

「だとすればだ…… 個体による、権利の不均衡は駄目だと思わないかぁ?」
 そう言って、ほとんど体は黒板を向いているのに、グリンと顔だけが此方を向く。

 皆がビクッとする。
 すんげえ怖い。

「個体。権利の不均衡。つまり格差だ。生物として子孫繁栄なら、それに差があったらいけないだろう。先生は切にそう思う。君達は、二年生。あと一年半で卒業だぁ……。先生は待っているからな。むろん女子だ……」
「先生。それ、校長先生に言って良いですか」
 すると、やっと体が此方を向く。

「だめだ。これは…… 君達と先生。内緒の約束だ」
「つぶやきはぁ」
「むろん駄目だ。そんな事をすると、先生ナニをするか自信が無いぞ。全員を連れて無人島へ行くぞ」
「それって、首に爆弾つけるやつ?」
「ああ…… それも良いなあ」
 壊れている。先生やべえ。独身をこじらしたんだな。

 釘を刺そう。
「先生それでも良いですが、鈴木さん。能力も得ました」
 そう言うと、先生は驚く。ものすごく。

「なっ…… 何をだ」
「炎系です」
 そう言うと膝をつく。

「婚約に、能力まで。なんで人は、こんなにも」
 そう言って、おぼつかない足取りで教室を出かかり、また首だけがこっちを向く。

 先生もいい加減能力者じゃないか? 多分皆思ったと思う。
「『人々はあなたの美徳によってあなたを罰し、あなたの過ちによってあなたを許す』ニーチェ大先生もそのように語っている。他言はするな。先生との約束だ」

 そう言い残して、出ていった。

 当然、皆がザワつく。
「細矢先生って、もう三五歳くらいだっけ?」
「ああ。完全にこじらせているぞ。どーてーじゃないのか?」
「じゃあ魔法使い。あっ、さっきぼやいてたから、能力はでなかったんだ」
 当然さっきのホームルームは問題となり、学校側から箝口令が敷かれた。

 校長先生の伝手で、お見合いをすることになったようだ。

 うちの校風、結構緩いからな。


 さて、学校でちょっとした話題が問題になった頃、当然国はもっと困っていた。
「銃刀法と同じ? では空手家や、剣道、柔道に格闘技。すべての人間に能力の許可証のようなものを発行するべきですね」
 まあ、わかっていた問題。
 道具ではなく、個人の能力。

「そんな極端な話ではなくてデスね」
 首相も、野党に突っ込まれて、しどろもどろ。

「そっそうだ、体力測定のように測定して、その結果を管理」
 勢いよく手が上がる。

「今管理と仰いましたね。国が国民を管理。皆さん聞きました?」
 ヤジが飛び交う。

「まあまあ、それこそ個人の能力ですから、特別な能力を持つなら、何かしらの優遇措置を講じてデスね」

「はい。それは国民を区別すると言うことですね。どうですか?」

 国会は紛糾をする。だが、数分後。食ってかかっていた女性議員に能力発動。
 一気に、特別扱いへと、舵を切ることになる。



「うへへ。皆が、おめでとうって」
 また、ギッチギチに腕を決められて、左腕が紫になっている。
 胸がどうこうという状態ではない。感覚など無い。

「家に着いたぞ」
「やだ。竜ちゃん家へ行く。いや帰る。今家には誰も居ないし。あっ。その方が良いのね。ごめんなさい。えっと、ねっ上がって」
 何かに気がついたという感じで、彩は満面の笑みになる。そして、有無を言わさず、引っ張って行かれる。

 部屋へ通され、ぽすんと座らせられる。
「久しぶりだが、変わってないな」
 中学に上がったくらいから、部屋へは入らせてもらえられなくなったが……。
 机の上にある写真立てには、小さな頃の俺と彩。二人が写った写真。
 それは良い。

 だが、ベッド脇の壁。
 一面に張られた写真。

 つい、ベッドに這い上がり覗き込む。

 教室での盗撮? 一緒に映り込んだ女の子の顔には、もれなくバッテンが赤いマジックで書かれている。一番下は、小学校の時。プールから上がった俺? なんでこんなに色が薄く。
「ひっ」
 俺の背中に、彩が張り付いてくる。

「あっ、ごめんね。つい竜ちゃんの一瞬一瞬を記録したくて撮ったけれど、教室だと変なのが映り込むのよね」
 俺は理解した。
 昨日、話の後。
 鈴木のお義父さんとお義母さんの、ほっとした顔。
 これを知っていたんだ。

「この子、我が儘だから」
 きっとその後は、竜ちゃんと一緒になれないと、ナニをするのかわからない。そんな意味があったのだと。
 いや、かわいいし、良いんだよ。
 気心も…… すべては知っていなかったようだが。
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