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第三章 国との関わり

第50話 新人類

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 伶菜は引きつっていた。

 まだ、竜司の所へは、たどり着いてはいない。
 その前に、カーテンのついたハンガー内を覗いてしまった。

 眠っている、彩。
 それは良い。
 そっと隣を見に行く。
 眠っている、まどか。

 そっと外に出る。

 液体は、上半身から下半身側に流れ、体細胞の浄化や変質を行う。
 そして、老廃物の洗浄も。

 私の時、確かに和やかな表情で、竜司はそう言った。
 だとしたら、私は本当に、竜司にすべて見られた。

 股間辺りから流れる、変色をした水。
 そう。伶菜はもう今更ねと開き直る。

 管が入り込んでいたという事は、すべてを洗浄したのでしょう。
 人間ドックとやらに行けば、お医者さんが代わりにファイバーを突っ込むと言うし。
「もう良い。変わったプレイを望まれても、私は受け入れられるわ」
 少し違った方向へ、伶菜は行くようだ。

 そして、本当のショックは、そこにあった。
 手前の恐竜はまあ良い。
 その向こう、表面に霜がついた容器がうなりを上げている。

 そこに見えるのは、竜司。
 言っていたように、右の肩口がすっぱりと切られて、骨や肉が見えている。

 横で何かを操作している、マイリ。

 恐る恐る聞いてみる。
「かなりごっそりと、無くなっているけれど、大丈夫なのよね」
「うん。この前、丁度サンプルも取ったし、無ければ今から取っても良いけれど、元通り再建はできる。でもね。賢者様、竜ちゃんのおばあさまが言うのよ。良い機会だ。保存してあるミー=キャエルの細胞とデータがあると……」
 少し心配そうに、ぽつりとそう言うマイリ。

 不安そうな顔が分かったのか、補足をしてくれる。
「丁度、モードはコールドスリープだし、in vitroイン・ビトロで試して、上手く行けば実験体のin vivoイン・ビボでも試すって。そうね、イン・ビトロは実験室で培養して試すの。それが上手く行けば、イン・ビボと言って生体内で試す。元々魂は同じだし生体で拒絶反応が出なければ、何とかなるし。多分問題が出ても何とかするんだと思う。賢者様だし」

 パネルを見つめながら、説明をしてくれるマイリ。
「もしかして、何かをためしているの?」
 つい、思いついたことを聞いてみる。
 説明の中で、彼女はそう言っていたのに。
 私は、はっきりと確認をしたかったの。

「うん。ありえる。でも、ミー=キャエルは何かドラガシメル人としても特別だったんだと思う。そうでなければ、あの方達が、セクスタプレトを、こんなに気にするのはおかしいの。地球で人種差別って言うでしょう。あれとは、レベルが違って、ドラガシメル人と言ってもランクが違うと、全く違う生物扱いなの。寿命も能力も違うし。彼が私を愛してくれたのは、普通の常識では、恋人と言うよりペットが普通なの。彼は違ったけどね」

 そんなことを話していると、背後でのんきな声が聞こえる。

「うわっ。体が軽い。肩も。胸は増えていないのね」
 彩の声。脳天気な声に、胸にずきっと来るものがある。
 痛みと言うより、もっと重い。
 彼女のせいではないけれど、ここへ連れてきて、妹のしたことを見せつけたい。
 どす黒い思い。

 そして、まどかも起きたようだ。

 服を着た頃に声をかけて、上へ上がるように言う。
 それが、今の私がする勤め。
 それ以上は、必要ない……

 ――それなのに、感情が抑えられない。

 すると、それがわかったのか、マイリが先に動く。

「服を着たら、さっさと上に上がる。ここは本来、部外者は立ち入り禁止だから」
 そう言って、二人に行動をうながす。

 衝立があるから、見えても頭の先かも。そう思いながらも、しゃがみ込み。竜ちゃんの顔を眺める。

 痛かっただろうに、苦しそうには見えない。

 ぽつんと置かれている腕。
 どう見ても、ごっそりと、なくなっている部分。
 これが、問題なく元通りになる。
 今は、竜ちゃんが前世で宇宙人だったことに感謝だけれど、それがなければ、こうなっていないのも事実。
 ――心がすさむ。

「ばか。心配を掛けるなんて…… 好き」

 今なら、言いたいことが言えるのでは?
 そんな事も思ったり。

 本当は、独り占めしたい。
「もう…… 竜ちゃんのばーか」
 こんなに、心配をさせるなんて。そっと、ケースをなでる。

「あんまり揺らすと、崩れるわよ」
 そんな声が聞こえて、あわてて手を引く。
「冗談よ」
 マイリだ。

「それは、笑えない冗談だわ」
「ごめんね。なれてなくて。それで、やっぱり三日くらいは掛かりそう。一旦下へ降りましょ。学校もあるし」
 変な照れ笑い。でも、美人は変な顔をしても美人。
 ちょっと嫉妬。でも彼女は作り物。

「本当に、大丈夫なのよね」
「ええ。大丈夫」

 そうして、下へ降りたら、大騒ぎになっていた。

 当然だけれど、葉月ちゃんが竜ちゃんを撃ったと言い、腕が取れたと言い。
 もうね。

 一番大事な、竜ちゃんのお父さんとお母さんに、説明をするのを忘れていたわ。

「静かに。落ち着いて。本人は部品が届くまで眠っています。ここで言う神々が改造するそうなので、出来上がるまで楽しみにお待ちください。全部で五日もあれば完成します」
 みんな話を聞いていたが、頭の中でロボットになった竜ちゃんを、思い浮かべたそうだ。
 竜ちゃんのお父さんは、右手に銃を付けたキャラを、思い浮かべたそうだけど……

 後で気になって調べたら、星から星へ飛び回り、美人を侍らせ、脇には機械の助手。
 確かに似ているかも。

「マイリ。それ、話が通じないから」
 そう言って、私はみんなに説明をしなおすが、同じような表現しかできないことが分かった。

「とにかく生きているのね」
「大丈夫なんだね」
「大丈夫です。多分?」

 脇では、姉妹で土下座しているし。
 鬱陶しいので、丁寧にお帰り願う。

 ところがだ。
 マイリが、三日後のパーツが届いたはずの日から、行動がおかしい。

「上へ、連れて行きなさいよ」
 人がそう言うが、行動がはっきりしない。

「あー。多分落ち着けば大丈夫だから。安心して」
 そう言って、明らかに目が泳ぐ。

「そんな感じで言われても、信用できないわよ」
 そう、無理を言って見に行った。

 そこには、異様に細胞が膨らんだ、グロテスクな何かが居た。
「じゃーん。新人類ぃー」
「だから、笑えないって……」
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