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第四章 日本の竜司から、世界の竜司へ

第89話 変化

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 その朝は、いつもと違っていた。
 六時過ぎにはすでにかぐやは身支度を調え、周りではお付きの人たちが疲れた顔をしている。

 どこか嬉しそうだが上の空。
 最近は行くのがおっくうという感じの、かぐやだったのに、もう学校に行きたくて仕方ない様子。
 いや、竜司様の家へ向かおうとしているのか?

 ですが、昨日は特に変わったことはなかったはず。
 悠月も風夏も護衛としては失格で、竜司しか見ていなかった。
 マイリと、かぐやの絡みを知らない。

 二人は学校に着くと授業中だろうと何だろうと、竜司の姿を追っている。
 道中は国の護衛がいるため竜司達に付けないし、お嬢様方の都合で出発時間は変わる。
 いま、夢として一緒の登下校。うふふライフが二人の楽しみとなっている。今までも幾度かはあった。

 さてやはり、七時過ぎには出かけようとし始めるかぐや。
 悠月達は命を賭けたじゃんけんをする。

 劇的に上がった身体能力により、普通のじゃんけんはできない。
 拳を伏せ、いっせいのせで指を変化させる。
 相手の筋肉や筋の感じで、何を出すのかを見る事が出来る二人。
「動かし始めてからの変更は無し」
 種類を宣言しながら、指を開く。
 グーとチョキ。

 竜司からの加護でもあるのか、悠月が勝利する。

 かぐやとともに、自宅から出る。

 当然外へ出ることはなく、竜司の家へ。
 悠月がチャイムを押そうとするが、かぐやが押す。
 その行為に、悠月が驚く。
 あのお嬢様が、自らチャイムのボタンを押した。
 まるで、ク○ラが立ったレベルの驚きである。

 出てきたのは、エプロンを着けた伶菜。
 その佇まいは、完全に若奥様。

 その姿を見た、悠月の心にチクッと何かが刺さる。
 料理も、一通り修行している。
 山でのキノコの見分け方。
 野草の効果。
「いいか悠月。この草を煎じ、こちらのキノコから抽出したモノと三対一でまぜる。すると毒は数時間で分解され、痕跡を残さず相手を永遠に眠らせることができる。ただ強力であるから素手では扱うな」
「はい御父様」

 暗殺術としての料理は奥が深い。
 当然盛り付けや使う器、そんな見た目の美しさ。匂いの有無。味の変化それらを的確に組み合わせて特有の苦みを消す。
 苦いと、毒というのは常識のようなもの。
 そのため、効果を見破られてしまう。
 感じさせず舌や鼻を無力化して、甘みとうま味を凝縮させる。

 市販されているミラクルフルーツは、ミラクリン分子が舌の味蕾に結合し、次に食べた苦味や酸味のある食べ物、レモンやライムなどや薬剤を甘く感じさせる。
 それと同じ効果を持つものが、秘伝の中にあるということだ。

「あら。かぐや様おはようございます」
「おはようございます。伶菜さま。お邪魔してよろしいかしら?」
「ええまあ」
 伶菜の脇を、半ば強引にお嬢様は入って行く。

「おはようございます。伶菜さん」
「あら。ご苦労様ね悠月。お嬢さんどうしたの?」
「さあ。朝からウキウキで。五時には起き出してきて、お付きを呼ぶベルが鳴り響いていました」

 中には、同じくエプロンを着けたマイリ。
 こちらは芥子色の単色。
 伶菜はピンクだった。

 その姿に衝撃を受ける。
 かぐやの家では、身の回りは専門の人間が行う。
 だが、当然のように味噌汁の椀を、竜司に手渡す仕草。
 その時にマイリが出す、色気と愛情。

 他の者には決して見せない表情。
 そう。今に至っても、竜司以外はマイリにとっては猿と同じ。
 かろうじて、伶菜はかわいがっているペット枠。

 昨日は、邪悪な気配を感じ、見知ったものが変化すると手間が掛かるから処置をした。マイリにとってはそれだけ。基本は竜司のため。

 だが、お嬢様は背中から抱きしめられたときに、何かを感じそれが愛情だと思った。無償の愛。それこそが望んでいたもの。
 女同士なので、そんなことは望んでいない。
 だが友人として。利害のない友人、それをマイリに望んだ。

 おかげで、興奮して眠れなかった。
 だが、マイリのすべては、竜司に向いている。
 これにより、お嬢様は放置という、ひどく高尚な心理的官能を習得することになる。
 冷たい目と、『お待ちなさい』。
 マイリからのその一言。その言葉が、かぐやを仲間になる切っ掛けとさせるのはもう少し後になる。

 かいがいしく世話をするマイリと伶菜を観察後。
 悠月は、念願のわくどき高校生ライフ。一緒に登校ミッションを堪能した。

 風夏は動きが悟られるリスクを取ってでも、パーを出さなかったことを後悔していた。
「ええい。うぬが未熟。若さ故の過ちかぁ」
 そんな鬼の形相で立っていたため、由布紀達はそれを怖がり、朝食もそこそこに家を出た。そのため、竜司達より早く学校へと向かうことになった。
 ここでも、自身を抑えきれなかった風夏。積み上がるミス。

 そんな頃。
 ある魔王は、急に思考がクリアになり、力が上がったことを理解する。
 おバカな神が間違って振りまいた、創造のためのエネルギー。
 それは、魔王を一段上に引き上げる。

「うん? ああ。そうだった」
 この魔王。素となったのは、迫害をされていた大学生。

 昔、この地を治めていた貴族の末裔。
 迫害された住民が先祖を倒したとき、城の地下には統治の不満に対して、声を上げた住人の死体が転がり、どう見ても快楽のために拷問中の女達も複数人居たようだ。

 その影響は今でも残り、その子孫は日陰の人生を歩んでいた。
 積み重なった恨みは萌芽し、モンスターとなって今まで人の意識は消えていた。

 足下に食べ終わった骨が転がる。
「今一度、この地を治めよう」
 魔王は宣言する。
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