地球に奇跡を。-地球で魔法のある生活が、始まりました-

久遠 れんり

文字の大きさ
94 / 109
第四章 日本の竜司から、世界の竜司へ

第95話 風夏の休日

しおりを挟む
 その、うわさの風夏ちゃんは落ち込んでいた。
 せっかく、仲間になったと思ったのに、留守番ばかり。
 いえ、本来の仕事だけれど、前よりもそれは、さらに色あせ、心が少しささくれる。

「昨日は補習と言っていたけれど、北海道のお土産を持って来たし、悠月はいいわね」
 悠月は、少し前の無表情で、眉間に皺を作っていたときと違い、良く笑い嬉しそう。

 前は力も無く、それこそ集中して周囲の警戒をしていた。
 でも今は、力も得て。ほぼ無意識でも、二十メートル範囲くらいは動きがわかる。

 ほら、今だって、皆が目の前に…… なぜ?
「よう。ひまか?」
 そう聞かれて、自然に顔がにやけるのがわかる。
 あふれてしまう喜び。落ち着け心臓。

「えーはい」
「じゃあ行こう」
 そう言って手が差し出される。
 離すものかと、勝手に手が動き、握ってしまう。

「えっ何処へ?」
「何処がいい?」
 急にそんなことを聞かれても、何処でもいい。一緒にいられるなら。
 ふと見ると、悠月のにまにました顔。
 何かを、言ってくれたのかしら?

「じゃあまあ、最初は、あそこで良いんじゃ無い」
 彩さんがそう言う。
「そうだな」
 一瞬で宇宙船へ移動し、座標を探す。

 そして、もう一度飛ぶと、いきなり厳しくなる暑さ。
 目の前には、巨大な建物。
 皆について、エスカレーターに乗る。

 到着をしたそこは、四階らしいが、中へ入る。

 そう、私たちは沖縄の水族館へ来てしまった。

 悠月と私は来たことがある。でもその時は、内容など見ることはなく周囲の警戒。
 日常が仕事だったから。

 まどかさんが、美味しそうと言って走り回り、休日の人混みの中を動き回る。
 その動きは繊細で鋭い。

 見るだけで、ただ者ではないのがわかる。
 ランダムに動く人たちを、次の動きを予測して間を縫っていく。
 それも全員が。

 これが、この人達のいる位置。
 きっとうちの門下生でも無理だわ。
「どうしたの? 今日はお嬢様達は来ていないし、楽しんでいいのよ」
 嬉しそうな、悠月。
 私の方を向いているため、後ろ向きに歩きながら、足さばきを駆使して、後ろの人を避けている。

「随分差が付いたわね」
「それは仕方ないわ。戦場を経験すると、どうしてもね」
 そう言って笑う。

 そうか。置いていかれたのは私が未熟だから。
 気を抜けば殺される戦場。
 悠月はそれを、幾度も経験した。
「周りはどのくらい見ているの?」
「今は十メートル範囲かな。周囲の広さによって変えるから」
「そう」
 屈託なく、軽く言う。

「あっ伊勢エビ。水槽にまどかさんが張り付いてる」
 見ると、まどかを怖がり、伊勢エビが奥へと隠れてしまう。

 いくつかある水槽のエビたちを怖がらせ、まどかがすねる。
「きっと昼食は決まったわね」
 いたずらっぽく、悠月がそう言う。

「そうね」
「それと、竜ちゃん達が甘やかしてくれるみたいだから、行きたいところとかやりたい事を考えていた方が良いわよ」
 にししと笑いながら、私に教えてくれる。

「あっほら。なんで泣くの?」
 未熟な私に皆が優しい。つい涙がこぼれる。胸がきゅーとなる。

「今まで、私たちに自由はなかったけれど、これからは高校生らしくすれば良いって。フォローは皆がしてくれる」
 悠月に手を引かれ、皆を追いかける。

 大水槽でも、まどかさんを恐れ、回遊をやめた魚たち。
 係員さんがあわてているのがわかる。

「すべて食材?」
「そうみたいね」
 水槽前の軽食コーナーで、アイスクリームを頬張る。
 いくつかの、食べ物や飲み物。シェアして味を見るううー。
 反則的に、竜司さんが「はいあーん」なんて言うことをしてきた。
 スプーンを咥える私の後ろに、瞬時に列が出来る。
「流石に駄目だろ。無くなる」
「だめかぁ」
 何気ない行動。それが楽しい。

 そんな頃。
『風夏は預かった。ガードなら柊木瑠海ひいらぎるみさんか百田紫音ももたしおんさんにお願いするように』
「あらまあ。取られちゃいましたか」
 竜司からだろう。置き手紙を見て、かぐやはため息を付く。

 少し買い物へ出ようと思ったのだが、先に竜司に取られてしまった。
「あら? あの方達。補習では? 変ですわね」
 かぐやは、首をひねりながら部屋を後にする。

 その頃、イルカまでをも怖がらせ、堪能した一行は水族館から車で一〇分ほど移動をしてバーベキューをしていた。
 むろん伊勢エビもだ。

 風夏達も、今日はガードではないため席に着く。

 色々なものを調理をして、すぐに頂く。
 その当たり前が嬉しい。

 そしてお土産などを買うため、一度水族館へ戻り、園内に点在する店を回る。

 風夏は充実した休日を堪能して、お土産を抱える。

 宇宙船で、置いておけば良いのに、皆と一緒に学校へ飛んでしまう。
 そう、皆と一緒に。

「おう。終わったか? ――おまえたち、少し隠す努力をしろ」
 全員アロハシャツ。
 風夏に至っては、大きなイルカのぬいぐるみを抱えていた。

「先生これを」
 竜司は、提出物である小テストの下に箱を忍ばせる。
 ゴーフルとジンベエザメの形をしたちんすこう。

「おう、ありがと。まあ何だ、そうだな。お前達も世界のために戦っているんだ。先生も鬼じゃない。テストは……出来ているな。よし良いだろう。それでは気を付けて帰れ」

 学校から、半分泣きそうになりながら、風夏は一緒の下校を楽しんでいる。そんな怪しい集団が帰り始める頃。

 地球の裏側では、魔王同士が戦っていた。

 発生しやすい場所というのがあるが、本当にそうだったらしい。
 そこは、コロンビア、ベネズエラ、ガイアナ、スリナム、フランス領ギアナ、ブラジルの六か国と地域にまたがるテーブル形の特殊地域。ギアナ高地である。

 石灰質ではないが、浸食により、疑似カルスト地形を作っている。
 テーブルマウンテン。テーブル形に残された平らな台地。
 そこには自然と、水があふれている。

 その舞台で、三人の魔王が、戦いを始める。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

処理中です...