最悪な人生を、華やかに。-能力を得て自分のために使う。 世界を救う? えっ、何で俺が。-

久遠 れんり

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世界の救済

第17話 彼らは広がっていく

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「今日のニュースです」

 小雪と瑠璃は、二人ソファーに座り、ぼーっとテレビを見ていた。
 当然見ているだけで、頭には入ってこない。

「――本日、横浜区の路上で、女子高生らしき集団が、いきなり挨拶をするという事件が発生しました。企業の営業と思える男性は、パチンコ屋から出てきて、営業車に戻る途中。彼女達の前を通りがかり、一方的に挨拶をされた様です。本人は否定をしていましたが、見た感じ四十代の男性は、ひどくドキドキして、救急車を呼ぶ騒ぎとなったようです。これに対して学校側は、教育の一環であり、責任はないとのコメントを出しています」

 ぼーっと見ているときに、ふと感じた違和感。
 それは頭の中で、水面に、一滴の水が落ちたような心の乱れ。

「――また、別の所では、男子高校生に挨拶をされた女子中学生が、泣き叫ぶ事件が発生したようです。その女子高生は、インタビューに対し、男の顔が好みではなかったため。泣いてしまったとの、コメントを残しているようです。その後、男子高生は、顔が怖いという理由で傷害罪が適応され、補導されたようです」

「この感じ……」
 見つめ合う二人。

「また増える?」

「――えー、次のニュースです。主夫と思われる男性が、路上でいきなりキャベツに対しヘディングを……」
 テレビを消し、携帯を見つめる二人。

 通話は、当然テレビモード。

「おう、どうした」
 何もなかったように、電話に出る直樹。

 後ろでは、拍手喝采を受ける、エプロン姿の男性がテレビに映っている。
 横には額から血を流し、カボチャを悔しそうに見つめる男性。

 そして画角の端に、直樹の横にわずかに映る、泣いている女性。
 ものすごく気になるが、小雪は話題をそらす。

「もう今日の、交流というお遊戯会は終わったの?」
「ああ。少し演劇に自信が出来たぞ」
 演劇ぃ? 横にいる女の子なら、バレバレですが。

「劇でもしたの?」
「いや、土器作り。陶芸も面白そうだから、やってもいいかもな」
 演劇は何処に行った?

「土器? 陶芸? どういうこと……」
 そこまで通話したとき、スマホの電源が落ちる。

「あー電池。充電が切れたぁ」
 小雪が焦っているとき、直樹は。

「何だよ切れたぞ。まあいい。それで、話は付いたから、ノンバンクの方にも連絡が行くと思う。お母さんの入院代も何とかするし。安心をして」
「本当に、なんと御礼を言って良いか。すみません。昼に会ったときに、あなたに相談をしないといけないと…… なぜか思っちゃって」
「ああいい。最近そういうのが多くてな。あっこれ連絡先。お母さんが心配をしたら、連絡をくれていい。説明をするから」
「ありがとうございます」
 そう言って、永礼さんは部屋を出て行った。


 テレビでは、訳の分からない集団が映し出されていた。
 市民球場は、正式に使用許可が取られていたようだが、野球ではなく。黒ずくめの集団が、井桁型いげたがたに薪を組み何かを燃やしていた。だが、それが人ではなかったかと問題になっているようだ。

 それに対して、呼ばれた警察官達は、通報者を無断での施設立ち入りとして逮捕した。だが彼は、市の職員つまり管理者だったが、未だに釈放されていないようである。

「誰がどう聞いても奴らがらみだな。問題は警察か…… おっと電話だ。今度は瑠璃から? おう、どうした?」
「うん? ちょっと声が聞きたくて」
「どうした。淋しいのか?」
「うっ。うん」
「あと二日だ。すぐ帰るよ」
「そうね。前は音信不通で、行ったっきりだったから」
「あれは、神崎さんと教皇が悪い」
「ふふっ。あっ、小雪さんが来たから切るわ」
「あっ。おい…… あの二人。相変わらず仲が良いのか悪いのか」

「ひどい。電話したなら、代わってくれても良いのに」
「もう消灯だって」
「えー。もう?」
 時計を見ると九時四二分。

 瑠璃はテレビを点ける。
「お悩み相談。人生に行き詰まったらまず電話。係員があなたの悩みをすぐ解決。お電話は0○○083221004やみにつどえよ、二四時間対応です」

 そんな怪しい、コマーシャルが流れている。

 だが、その組織に、永礼さんのお母さんは相談をしていた。
 否応なく、関わってしまう直樹。

 
 新入生宿泊研修後。
 その情報は、本人からではなく、神崎さんから伝わってくる。

「先日の相談者の一件ですが。良くないですね。まだ拠点から移動した気配はありませんが、勝手に退院をして一つのビルで、集団生活を始めた様です。そこに娘さんが昨日訪れ、そのまま取り込まれたようです」
「まずいな。彼女も二人と同じなら、深い闇を持っている。すぐにいくぞ」

 こちらからも、幾人かが行くが、精神的なシールドが無いと敵が増えるばかりになる。確実に大丈夫なのは俺と、神崎さんのみだ。

 離れた所で車を降り、場所が分かっているビルへと突入をする。

 そうは言っても、普通に入るだけだが。
 入り口には、高さ二メートルほどの黒い板に、金文字で『精神救主会』という看板が掛かっていた。

 入り口に身長二メートルくらいの、強そうな男達が立っている。
 阿吽の仁王像みたいだとふと思う。

 受付に向かうと、和やかに立ち上がり、聞いてくる。
「ご相談でしょうか?」
「相談です」
 彼女達の目が赤く光る。
 こちらも体を光らせる。

「どうすれば、消えてくれますか?」
「ふざけんなああぁ」
 綺麗なお姉さんから、黒い煙が上がりながら、オッサンのダミ声が聞こえる。
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