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第2章 新たな社会の始まり

第43話 僕の失敗

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 その後、体を治しながら何があったかを説明する。
「ふーんその池。黄泉の水源につながっていたか。修行には良いが間違って飲むと鬼一直線じゃな。いや鬼まっしぐらか?」
「なんで、わざわざ言い直した?」

「なんとなく」
 そう言って隣に来ると、俺の腹に手をあて、おもむろに突き刺す。
「ああまあ、内臓も大丈夫の様だの」
 ぐにょぐにょとかき混ぜられる感じがする。

 そうして、お決まりのパターン。
 竹内さんの翠(みどり)は、誕生石の翡翠 (ひすい)から来ているんだね。などと言う話をする。


 家へ帰ると、仁王立ちの紗莉がいた。
 翔太が、ばらしたんだろうな。
「大丈夫なの?」
「うん大丈夫。綾織が言うには内臓も問題ないみたいだし」
「そう。それで、竹内さんとも仲良くなったんだ」
 その言葉を聞いて、そっと組まれていた腕が離れる。

「ああ違うの、よろしくね翠ちゃん」
 そう言って、紗莉はわらう。


 その夜、紗莉と翠による戦術会議が行われたらしい。
 各個であたるのは愚策。
 必ず複数にて攻撃を加えるべし。
「自分の気持ちを優先して、抜け駆けをすると、絶対に次の日動けなくなるから。その点は気を付けないとねっ。和也って本人は意識していないようだけど、今でもどんどん進化しているみたいなの。本人はほんと。全く。これっぽっちも自覚していないようだけど」
「ああ、それで。綾織さんも同じことを言っていました。和也さんは王の器だって。よくわからないですが、統べる者になれると言っていました。今はまだ全然だけどと言って、笑っていましたけど」

「えっ。と言うことは、綾織さんでもきついんだ…… きっと」



 後日、別の境界へ入り、翔太は目の前で転がっている。
 レジャー用のクッションマットの上でだが。
 俺たちは、それを眺めながら、横でテーブルセットを出してお茶をしている。

 やっと、晴明に貰った空間収納が安定して使えるようになった。
 よく中に入れておくと、消えたり謎の物に変化したりしていたんだよね。
 この前の刀を、大っぴらに装備するわけにもいかず努力した。
 ついでに、奴の腕は綾織が持っている。
 取り返しに来たら捕まえると言って、ざるを棒に立てかけ、その下に腕を置いていた。
「それって、スズメ用のトラップだよね」と聞くと、あ奴などこれで十分じゃと言っていた。見るからに罠と言うものを見ると、入ってくるらしい。
「奴は、性格がひねくれておるからのう。罠があれば入りたくて仕方がない。真性のMじゃ」
 そう言って笑っていた。


 そんなことを考えていると、翔太が起き上がる。
 すくっと立ち上がり、自分の体を確認している。
 やめればいいのに、力を入れて着ていたシャツが破ける。

「すげー。一子相伝の拳法使いになったみたい」
 そう言って、はしゃぐ翔太に
「起きたなら帰るよ。さっさと着替えて」
 紗莉が言い放つ。

 姉弟だからなのか、変に当たりがきついよな。
 いや垣根が無いのか?
 家だと妹だから、なんだか変な気を遣うしな。

 いや、前は確かにそうじゃなかったな。
 うだうだ思っている間に、お茶も飲み終わり、収納する。


 さあ帰ろうと、入口へと向いた瞬間、いやな気配がしてシールドを張りながら振り向く。

 さっき閉じたはずの壁が、また光っている。
 なんだこりゃ? と、閉じるために壁の中心をシールドを伸ばし貫く。
 その時、俺は腹の所で真っ二つにされた。
 大きな刃が、水平に振りぬかれて、切られる瞬間が見えた。

 いや、実際には切られていない。腹を確認して安堵する。
 今のは幻視? 殺気だけで俺が死ぬところを見せたのか?

「稚彦が、面白いのがいると喜んでいたが、まだこの程度か。精進せよ」
 そう俺の頭の中に、言葉を残して、目の前の光が消えていく。


「どうしたの? 和也。帰るよ」
 そう言って、紗莉が俺の腕を取る。
「今のは一体?」
「えっ? 何かあったの」
「また壁が光り始めて、見なかったのか?」
「見てない」

 振り返り皆を見るが、みんな見ていないようだ。
 なんだろう。
 まあ、『まだこの程度か。精進せよ』……か。
 言われなくても、するさ。

 そう言ってやっと、歩きはじめる。

 その後も、町内の境界を潰して歩くうちに、マスコミが奇跡の町とネタにし始めたころ。
 国森さん経由と森さん。同時に連絡が入る。

『編制ができたので訓練をお願いします。』
 内容は同じだ。
 皆を連れて、訓練ね。
『とりあえず、日々モンスターを狩ってください』
 それだけ、返信を打つ。


 そして、俺はミスをしたことを後日知る。
 森大介1等陸尉から連絡が入る。
「すいません隊長。判断ミスで1チーム全滅しました」
 話を聞くと、各チーム5人編成で、湧いていた穴へ突入させていた。

 たまたま、そのチームが入った穴は非常に深かったようだ。
 そして、集合時間になっても帰ってこないチームを探査しに入ると、11階で無残な姿になった隊員を見つけたようだ。

 俺からすると、たいしたことは無いが、隊員にとっては強いモンスターが出て来たのだろう。
 俺の常識が一般と乖離している?
 完全に、経験不足。
 あらかじめ、隊員の強さの確認と、対応できる階層位。確認して制限しておくべきだった。

「くっ。これが、若さゆえの過ちと言うものか」
 思わず口に出したが、それを聞いた紗莉から、突っ込みが入る。
「人が亡くなったんでしょう。もっと真剣に考えなさいよ」
 鬼の副官爆誕である。
 その週末。俺は、基地周辺の洞をマッピングして、ランク分けする作業を行った。
 副官様の、ご命令と監視を受けながら。
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