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第3章 ユートピア

第63話 体験入植

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「と言うことで、新たに世界を創りました」
 そう言うと、完全に固まる国森さん。

「今ちょっと、耳慣れない言葉が聞こえた気がするんだが?」
「そうですか?」
 すっとぼけて見る。

「で、すまないが、もう一度言ってくれるかな?」
「彼らの生活の場として、新たに世界を創りましたから、入植させませんか? お試しでもいいですよ」

「世界? 創った?」
「はい」
「どっどこへ」
「別空間ですね。必要なら開きます。ただまあ、現状道を開けるのは俺と、綾織だけですけど」


 その後、日時を決めて移動を遂行する。
 あの後も、人数が増えて都合5つの洞へ分散していた彼ら、生活環境は良いものとは言えなかった。

「移動? 何処へ行くんだ?」
「詳しくは、やはり教えてもらえない」
「どこへ行っても、我々にはリスクがある。仕方がないことだが」

「はーい全員揃っていますね。行きますよ」
 彼女がそう言うと、薄暗い洞の中にまた穴が開く。
「はい。入ってください」

 皆がぞろぞろと、後に続く。

 穴を抜けると、日の光が降り注ぐ庭園。
「ほう。規則的なデザイン、そして調和。フランスの庭園かね。だがあちらの庭は雑多なイギリス風か?」

「久しぶりの日差しだ。しかしここは何処なんだろう。そして、ジャパニーズキャッスルが建っているな」
「いやあんた、いつフランス語を覚えた?」
「いやあんたこそ、いつオランダ語を覚えた?」
 そんな戸惑いが、至る所で起こる。

「皆の者注目じゃあ」
 天守閣から、拡声器を通した綾織の声が聞こえる。

「紆余曲折がありここに集まったのは何かの縁。ここでは、皆が家族。等しく人を扱え。それがここでの決まり事。その為、言葉も共通化した。これから自分がやってみたい職をきめてもらう。それが終われば、各自自分の家をきめてもらおう。では取り掛かれ」
 ざわつきが、広がる。

「ああ。いい忘れた。わしは、この世界を創った神。綾織じゃ。でわの」

「神? この世界を創った?」
 俺たちを見つけて、詰め寄ってくる。

「ああまあ、本当だよ。夜になって空を見れば分かる。二人ともあまり興味がなかったから適当に創ったんだよ。まあそのおかげで、いろんな所で、星の衝突が起きるし超新星は発生するし大変でさ。まだ調整中なんだ。ガンマ線バーストの軸線からこの星は外してあるから大丈夫。安心して」

「ちょっと待って、二人共?」
「ああ。俺も手伝ったから」
 そう言うと、みんなが目を丸くする。

「ここは、オリュンポスだったのか?」
「ギリシャ神話に出てくる、神々の国か?」
「だって、彼もこの世界を創った1柱なんだろう?」
 ざわめきが、広がって来始めたので、お願いする。

「皆さんとりあえず、仕事をきめてください。そうしないと住むところが決まりません。いまある職種は、リストがあります」

 リストには、漁業から農業、鍛冶屋、畜産、林業等々。
 主に第一次産業と、その加工業種である、製造業、建設業の第二次産業。そして流通、商売人などが書かれている。
 そしてその後が、錬金術師とか聖魔法師とかが続く。

 それを見たのだろう、ざわめきが広がっていく。

「この錬金術師と言うのは?」
「書いてある通り、ここでは普通の工業は無く、錬金術師が原料を合成するし加工もする。聖魔法師はお医者さんかな」

 またざわざわと、場がざわめく。
「その技術は、教えてもらえるのか?」
「うーん。技術と言うより修行? かな。ある程度の器が必要だから、モンスター退治をしてもらう」

「これ以外の職種も、大丈夫かな?」
「何がしたいんですか?」
「醸造がしたい」
「ああ良いですよ。では建設場所は、畑近郊で水の近い山側ですね。ちょっと建設しましょう。一緒に行って、アドバイスをください」
 そう言って姿を消す。

 そんな事もありながら、徐々に家が決まっていく。

 目指したのは、ゆっくり暮らせる環境。

 最初のうちは、寂しいとか静かすぎとか言われたが、徐々に落ち着いて行く。

 交通については、各家にゲートがある。
 認証式なのでセキュリテイは万全。
 認証なしバージョンは、村や町にいくつか作ってある。

 そして、
「ヨーロッパ全体に不況が押し寄せた」
「不況ですか?」
「ああ。いくつかの国で重税による国民の逃亡。生産物と言うのは、原材料を輸入そして加工。その加工物を、別の国が輸入して製品化をする。そんな流れだから、複数の生産物が止まると、全体が落ち込む。何とか作っても、当然所得が落ちれば、購入もなくなる」

 そう言って、暗い顔になる。
「その影響を、日本も受けるんですよね」
「そうだね、物だけではなく経済などもつながっている。ロシアのデフォルトによる影響もじわじわと広がっていた矢先だしね」

 そんな他人事ではないが、そこそこ深刻な話として雑談をしていた頃。
 金相場が、上がる状況なのに下がり始めた。
 どこかの国の介入が疑われたが、犯人は俺たちだった。

 元被験者たちが、錬金術の練習で錬成したもの。
 国の為にえらい目に遭ったとして、嫌がらせに売る事を考えた。

 むろん、正規販売では政府の手が回っていることを考え、大変お安く対象国でばらまいた。
 街角で、金地金売りの少女風おっさんが立っていたり、ピザの代金が金地金だったり。
 初期は住民も疑っていたが、あれは本物だとすぐにうわさが流れ始め、玉石混交(ぎょくせきこんこう)だが、一気に広まる。

「いやあヨーロッパも大変ですねえ」
「本当だね。地球はどうなるんだろうねえ」
 今日もそう言って、今日も国森さんは昼休みの教室に現れる。
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